| Aki Naganuma WashingtonDC同時代記 |
長沼亜紀 naganuma_washdc@yahoo.co.jp |
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| WashingtonDC同時代記 アメリカ政治・社会についての話題を隔週でまとめて紹介 |
| 一般教書:内患外憂で精彩を欠く大統領演説(#10 2/2/2006) |
| ブッシュ大統領は1月31日、一般教書演説を行った。政権1期目と合わせ6回目となる今回の演説では、外交面では、アメリカの安全と繁栄のためには引き続き国際社会のリーダーとしての役割を果たしていく必要があること(Global
engagement)、内政面では、石油依存からの脱却を訴えた。イラク戦争、ハリケーン復旧の遅れ、ロビイストと議員の癒着スキャンダル、国家安全保障局による国内盗聴問題などで支持率が低迷、大統領の指導力の低下が続いている中、それを上向きに変えられるかが注目されたが、「従来の政策を包み直しただけ」と厳しい評価に終わった。 一般教書演説は、大統領が、年一度1月に下院議場で上下両院の議員を前に、その年の取り組むべき課題と政策の方向性を示すために行われる。大統領がテレビのプライムタイムを独占して直接、国民に訴えかけることができる機会なため、歴代政権は相当な時間とエネルギーを費やし練に練った演説を用意してきた。しかし、最近では通常の演説がテレビニュースで逐次取り上げられ、特にブッシュ大統領の場合遊説回数が多いため、国民は「演説聞き疲れ」の傾向にあり、普通のアメリカ人の関心を持って本当に聞いているかというといささか疑問である。とはいえ、首都ワシントンでは、政治評論家総出でのお祭り騒ぎになる。 52分間に及んだ今回の演説で、大統領は、まず中東などの圧制国家への自由・民主主義の拡大こそがアメリカの安全保障に不可欠という持論を展開。「困難で試練のときは、孤立主義と保護主義への道が、容易で魅力的な道に見えるかもしれないが、それは危険で、衰退につながるものだ(In a complex and challenging time, the road of isolationism and protectionism may seem broad and inviting, yet it ends in danger and decline)」と内向きになりがちなアメリカ国民を諭し、「リーダーシップこそが、我々の安全を守り、平和を維持し、運命を切り開いていく唯一の方法で、だからこそ、アメリカは引き続き世界を率いていく(The only way to protect our people, the only way to secure the peace, the only way to control our destiny is by our leadership, so the United States of America will continue to lead.)」と呼びかけた。また、「アメリカは石油漬け(America is addicted to oil)」とエネルギー問題に触れ、エサノールや代替エネルギーの開発で、2025年までに中東への石油依存度を75%減らすことを提案した。また、インドや中国の経済台頭をあげ、競争力強化策として、物理科学の研究費の増額なども掲げた。 しかし、演説は全体として精彩がなく、メディアの評価は総じて低いものとなった。ニューヨーク・タイムズは「新味に欠ける」「提案されたわずかなアイデアもテーマだけで具体性がない」とし、(1)ワシントン・ポストは、「過去に示した提案の焼き直し」「規模縮小した設計図」とこき下ろした。(2)演説に力強さがなかった背景には、イラク戦争の戦費や災害復旧、医療保険費支出の増加などで再び財政赤字が膨らんでおり、また共和党と民主党の対立が激しく重要法案の審議がなかなか進まないという厳しい現実があるとされている。 唯一、国民の関心を引いたエネルギー政策も、「方向性は誰もが一致するが、ひどく不十分」で問題の本質を無視していると批判を浴びた。アメリカは世界の石油の4分の1を消費しており、半分を国内自給、残り半分を輸入に頼っているが、中東依存度は20%程度に過ぎない。エネルギー省によると、世界の石油消費量は、中国やインドの経済成長によって現在の日量8千万バーレルから2025年までに1万1900万バーレルに膨らむと試算されており、真剣に消費削減に取り組まなければ、世界の石油需要が逼迫して価格が高騰し、経済の不安定化は避けられない。中東を名指しし、代替エネルギーの研究に努力すればすむ次元の話ではないのである。2月1日付けニューヨーク・タイムズの社説はこうした点を指摘し、「研究開発はすでに進んでおり、問題はどうやって実際に導入するかだ。それには痛みが伴うが、製造者への高い燃費基準の義務付けやガソリン税などが不可欠だ。しかし、大統領はそれを語るのを避けた」(要約)と批判した。さらに「消費者が石油価格高騰で苦しんでいるときに、石油会社がボロ儲けをしているにも関わらず、彼らへの減税を進めようとしている」と非難した。(3)確かに、「エサノールの研究」と「20年後の石油依存脱却」とは耳優しいが、今現在、高いガソリン代に四苦八苦しているアメリカ人にとっては寝ぼけた話である。 ところで、今回の一般教書演説にはおまけがあった。息子をイラクで失い反戦活動を繰り広げているシンディ・シーハンが、議員の招待を受け、演説を聴くため下院議場に入場しようとしたところ、戦死者数を書いたTシャツを着ていたために逮捕拘束され、外につまみ出されるという出来事があった。また近くにいて「Support the Troops」と書いたTシャツを着ていたフロリダの共和党上院議員の妻も拘束され、翌日、議員が顔を真っ赤にして抗議会見するという事態になった。大切なセレモニーの場にTシャツで来ることが相応しいか相応しくないかの議論は別にしても、この事件は、必ずしも誰もが大統領のイラク政策に納得・賛成している訳ではないことを際立たせる結果になった。 (1) Elisabeth Bumiller and Adam Nagourney, “Bush, Resetting Agenda, say U.S. Must Cut Reliance on Oil,” New York Times, February 1, 2006. (2) Peter Baker and Michael A. Fletcher, “President Calls U.S. ‘Addicted to Oil’ Seeks Alternatives,” Washington Post, February 1, 2006. Dan Balz and Jim Vandehei, “Lowered Expectations Reflect Political and Fiscal Realities,” Washington Post, February 1, 2006. (3) “The State of Energy,” New York Times, February 1, 2006. ©Aki Naganuma. All rights reserved. |