| Aki Naganuma WashingtonDC同時代記 |
長沼亜紀 naganuma_washdc@yahoo.co.jp |
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| WashingtonDC同時代記 アメリカ政治・社会についての話題を隔週でまとめて紹介 |
| 米最高裁長官に50歳のジョン・ロバート(#2 10/2) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 9月29日米上院が、米最高裁判所第17代長官としてジョン・ロバートの指名を承認した(賛成78、反対22)。9月3日に80歳で亡くなったレンキスト長官の後継となるロバートは50歳で、第4代ジョン・マーシャル長官以来、史上2番目に若い最高裁判所長官の誕生になる。中絶、市民権、宗教と個人、政府と国民の関係など、アメリカ社会の根幹をなす問題に司法の果たす役割は大きく、ロバーツ長官がどのような方向に最高裁判所を導くのかに大きな関心が集まっている。①ロバートの人となり、②最高裁判所長官の影響力、③近く予定されている注目裁判、④アメリカの司法制度の概略についてまとめた。 ①完璧、理想の裁判官 ロバートは、1955年ニューヨーク州生まれ、父親は鉄鋼会社の重役で、幼年時代をインディアナ州で過ごす。ハーバード大学法学部在学中は学術誌「ハーバード・ロー・レビュー」の編集主幹として活躍、卒業後は、レンキスト長官の書記、司法長官の特別補佐官、レーガン政権の法律顧問補など超特急で出世する。その後、ワシントンの名門弁護士事務所の共同経営者になり、ブッシュ父政権下では検事総長の主席補佐官を引き受け、2003年からワシントンDCの控訴裁判所判事を務めていた。ブッシュ大統領は当初、6月に辞意を表明したサンドラ・デイ・オコーナー裁判官の後任としてロバートを指名したが、レンキスト死去を受け急遽その後任として再指名した。ロバートには、ジェーン夫人、養子縁組したジャック(4歳)とジョシー(5歳)がおり、大統領指名を受け、美しくしとやかな夫人と可愛らしい子供を連れ立って若く誠実さあふれる表情で記者会見したロバートはまさに「完璧」、文句のつけようのない候補者だった。 しかし、ロバートは法律家としての約25年間、ほとんどのケースで保守的な見方をしており、リベラル派はこれを懸念している。最高裁判所は、市民権や女性の権利などにおいて憲法判断を示すことで社会変容に一定の役割を果たしてきた。しかし、ロバートは過去に、レーガン政権スタッフ時代は司法の役割と権力分立について「連邦裁判所は憲法の範囲を超え、立法者に与えられた権限を奪っている」とし、中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」については「間違った判決で棄却されるべき」とのメモを書いている。またアファーマティブ・アクション(マイノリティへの差別是正措置)についても否定的な意見を表明している。ロバート支持派(主に共和党)はこれを「司法介入に慎重で、憲法を忠実に解釈している」とみるが、反対派(主に民主党)は「それは、憲法に認められた権利を侵されている女性やマイノリティの問題を放置するものだ」と反対している。 ロバートは、少年時代、差別是正措置をめぐる司法闘争で揺れる父の会社、大学時代を教育の人種分離廃止できしむボストンで過ごしている。その中で培った彼の思想、イデオロギーはどのようなものなのか。上院司法委員会は、3日にわたる証人喚問で、あらゆる角度から微細に入り質問し、ロバートの思想を見極めようとした。しかし、彼は「今後、法廷にもちこまれるであろう問題の議論から距離をおくべき」(05/9/17 NYT by Jim Rutenberg)として、具体的なケースへの言及を避け、結局彼の立場や思想は明らかにならなかった。一方、決定的な欠点も見つからなかったため、司法委員会は「女性として女性の権利が守られるとの確信がもてない」と反対投票をしたダイアン・フェインステイン議員らを除き、大多数がロバート承認賛成に票を投じた。 ②最高裁判所長官の影響力 裁判官は終身制で、レンキスト前長官は33年間、オコーナー裁判官は24年間その職を務めた。最高裁判所には、全部で9人の裁判官がおりその多数決によって判決が下され、評決における1票という点では長官は他の8人の裁判官と同じ権限しかもたない。しかし長官は、判決の「見解」を誰が書くかを決めることができ、実質的に議論の方向性を決めるのも長官だとされている。先輩裁判官の中で、最年少50歳のロバートがどのような指導力を発揮するかは不透明だが、彼の判断が、今後数十年にわたり、アメリカ社会に大きく影響を与えることは間違いがない。 ただし、ロバートの就任がすぐに最高裁判所の判断を劇的に変化させるとみる向きは少ない。ワシントンポスト紙の最高裁判所担当チャールズ・レイン記者は「ロバートが長官になっただけで、例えばロー対ウェイド判決が屈返されることはほぼないだろう。鍵はやはり『スイングボーター』だったオコーナーの代わりが誰になるか」と話す。現在、裁判官の内訳は、白人男性6人、女性2人、黒人男性1人。保守派が4人()、リベラル派が4人()で、社会問題についてそれぞれがどのような判断をするかは大方予測がつき、これまでは、中道派オコーナーの判断が判決を左右してきた。このため、保守派レンキストの後任に保守派ロバートが就任しても、保守対リベラルのバランスに大きな変化はなく、むしろ焦点はオコーナーの後任というわけだ。ブッシュ大統領が近く指名する予定で、共和党、民主党、各種アドボカシーグループが「これこそが主戦場」とてぐすねをひいて待ち構えている。
③注目ケース 最高裁判所は、州最高裁や連邦控訴裁からあがってきた年間約8000件のケースのうち、約80から100件を取り上げ判断する。(取り上げる基準などの詳細は④アメリカの司法制度の概略参照)10月3日よりスタートする新年度では、以下のようなケースへの判断が注目されている。 (1) 安楽死:コンザレス(司法長官)対オレゴン州(10月5日、口頭弁論予定)。オレゴン州には全米で唯一安楽死を認める州法があり、このケースは、同州法に基づき、末期患者に安楽死に薬を処方した医師を、司法長官が処罰できるかどうかが問われている。裁判官の投票は2日後に行われるが、判断にいたる理由を説明した「見解」が書かれるまでには数週間かかり、今期最初の「見解」が公表されるのは年末になると見られている。 (2) 中絶:Ayotte 対 Planned Parenthood of Northern New England。18歳以下の少女が少なくとも一方の親の了解なしに中絶処置をするのを医者に禁じている法に関してのケースで、母体の健康に関わる緊急事態を例外とするという規定がない点が違憲かどうかが問われている。控訴裁は無効と判断、ほとんどの州ではすでにそのような例外規定を設けている。最大のポイントは、中絶規制の合憲性を判断するときに適用される基準を最高裁がどう判断するか。 (3) 選挙資金規制法:ランドル対ソレル。バーモンド州には全米で唯一選挙資金について、献金(limit on contribution)規制だけでなく、候補者の支出(limit on candidates’ spending)を規制する州法がある。資金力のある候補者が、無限に選挙資金を使うのを防ぐのが狙いだが、これは憲法が保障する表現の自由に反しないかが問われている。過去の重要な判例「バックリー対バレノ判決」は、献金規制は認めたものの支出規制は違憲だとしており、この先例がどのように適用されるかが焦点。 ④アメリカの司法制度の概略 アメリカは、一定の主権を持った州政府が集まってできた連邦国家であり、日本のように中央集権化された国家と違うことをまず理解することが必要だ。州には州憲法があり、日本でいう刑法、民法、商法といった類の大部分を規定しており、国家の仕組みや表現の自由などの個人の権利が連邦憲法、それ以外の連邦全体に関わることは連邦法によって規定されている。 隣人を殺害すれば州法で裁かれ、大統領や郵便局員、連邦職員を殺害すれば連邦法で裁かれることになるし、極刑も州によって死刑だったり終身刑だったりと異なっている。A州よりB州の方が離婚手続きが簡単だと、引越しをするカップルもいる。話は逸れるが、ハリケーン・カテリーナでニューオリンズに甚大な被害がでたとき、なぜ大統領が迅速に軍を派遣して被災者救出を行わなかったのかとの批判がでたが、法的には大統領は、州知事の要請なしに連邦軍を派遣することはできないことになっている。「大統領は、イラクには勝手に軍は派遣できるのだが、緊急事態でも国内には軍を派遣ができない」とアメリカ人記者は自嘲するが、州の権限がいかに強いかを物語るよい例である。「不便ではないか」と問うと「不便だが、Big Governmentよりはまし」と歴史的経緯からアメリカ人はそう考えるのだそうだ。 このことは連邦裁判所と州裁判所の役割の違いにつながる。州裁判所は、犯罪、離婚、家族問題、財産、遺言、商契約などを扱い、下級から順に①State Trial Courts ②Intermediate Appellate Courts ③State Supreme Courtsがある。一方、連邦裁判所は、(連邦)憲法問題、連邦法、条約、州間の関係する争いなどを扱い、下級から順に①US District Courts ②US Courts of Appeal (13 Circuit Courts=全米で13ヶ所)がある。(参:資料1,資料2,資料3)。 最高裁判所は、州裁判所と連邦裁判所の最上位に位置し、下級裁判所の最終判断ののちにさらに不満があるとして上程されたケースの中から、9人の裁判官のうち4人の投票で、最高裁が審理すべきかどうかを決める。最高裁が取り上げるか否かの基準は、①13の連邦控訴裁判所(circuit)で判断が割れている、②先例が誤って解釈されている、③憲法や連邦法に係る国全体の問題、の3点で、最高裁が請願を却下しても、下級裁判所の判断が適切だったということを意味するのではない。ケースが取り上げられると、口頭弁論(約1時間)が行われ、数日後に採決が行われる。採決にいたる論理やコメントなどの「見解」が書き上げられ、公表されるまでにはさらに数ヶ月かかる。裁判官の間で採決が割れた場合は、多数派と少数派の見解、両論が公表され、将来の論議の材料として記録される。(参:資料4) ©Aki Naganuma. All rights reserved. |