| Aki Naganuma WashingtonDC同時代記 |
長沼亜紀 naganuma_washdc@yahoo.co.jp |
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| WashingtonDC同時代記 アメリカ政治・社会についての話題を隔週でまとめて紹介 |
| 昇る中国、沈むアメリカ繊維産業(#5 11/12) |
| アメリカと中国の間で11月8日、中国製繊維製品の輸入制限について合意がまとまった(EUは10月に合意済み)。 昨年末の繊維協定廃止で、中国製品がアメリカとEU市場に大量に流れ込んだために起きた貿易摩擦は、これで一応決着する。しかし、合意内容は、落ち目の米繊維産業の衰退を遅らせるだけ、むしろ同業界は後で泣きを見ることになる、というのが大勢の見方だ。昇る中国と沈むアメリカの繊維産業。グローバリゼーションの進行は止めがたいが、摩擦の種も消えそうにない。 「欧米の優位産業は中国にどんどん進出している。中国の強みは繊維産業なのに」。中国・武漢の衣類工場オーナー、リ・シミンさんは、ワシントン・ポスト紙のインタビューに欧米によるセーフガード発動の動きへ怒りをぶちまけた(1)。繊維製品は、GATT(関税貿易一般協定)の数量制限禁止の例外として約30年にわたって輸入割当制が存在し、輸出入は自由ではなかった。貿易の原則自由化を決めたWTO発足(1995年)後も、2004年までの時限措置で割当制が認められたため、アメリカは28カ国、EUは19カ国と協定を結び、自国産業の保護を続けていた。この協定がようやく昨年末で廃止されるとあって、リさんは、新しい機械を導入、デザインも一新するなど準備を進めていたという。低価格の製品を大量購入しようと欧米の卸売り業者や、生産の一部を中国にアウトソーシングした生産者も、この協定廃止を待ち構えていた。 この結果、「予想通り」今年1月以降、中国製品がドッと欧米市場に殺到、「予想通り」欧米の繊維業界が悲鳴をあげた。アメリカの中国製繊維製品の輸入は4ヶ月で前年同期の78%、USは同82%も増加。(2)品目によっては、例えばアメリカへの綿ニットシャツは第1四半期で前年同期比1257%、綿ズボンは同1500%も増加した。(3)米繊維業界はこの間に18工場が閉鎖に追い込まれ、1万6000人の雇用が失われたとし、Euratex=ヨーロッパ繊維協会も輸入制限がなければ、100万人の雇用に影響が出ると主張した(4)。 米商務省は4月4日にセーフガード発動のための手続き開始を発表、EU委員会も同月29日に同様の手続きを開始した。アメリカは、5月18日、綿シャツ、ズボン、靴下、下着など7品目についてセーフガードを発動、輸入増加を年7.5%以内にするという制限を課した。欧州は交渉のすえ、6月10日、中国が10品目について2007年末まで輸入増加を年約10%に自主規制するという合意にこぎつけた。 米中間の交渉は決裂が続き、摩擦はエスカレートしていったが、一方、EUについては7月に思わぬ事態が発生した。6月に合意した割当のうちセーターと紳士ズボンが瞬く間に上限に達し、関税当局が輸入をストップした。しかし、その後も次から次へと中国製品が到着、港や空港で足止めをくらい山積みとなった。小売業者らは、これらは6月に割当を決める以前から注文していたもので、輸入できなければ店舗の棚が空になるとして、裁判に訴え始めた。こうした状況に、自国に大きな繊維産業を抱えるフランス、イタリア、スペイン、ポーランドは制限緩和に反対、逆にファション性のある付加価値の高い製品を扱っている小売業が盛んなスウエーデン、デンマーク、ドイツ、オランダなどは競争力のないヨーロッパの繊維産業を保護する政策は間違いだとするなど、EU内部の対立も表面化。結局、中国と再び交渉し、双方妥協して新たな制限を決め直した。 一方、米中は今回ようやく、34品目について2008年末まで年11%弱の増加に抑えるという合意に至った。11ヶ月粘った中国が、ここにきてなぜ折れて一見中国に不利にみえる輸入制限をのんだのか? ①安定性を求めた(=摩擦が続くと、将来の予測が付かないため外国企業が生産拠点を第3国に移転したり、注文を控えるといった悪影響が心配される)、②アメリカとの貿易摩擦は繊維だけに限らずさまざまな分野に拡散しており、深刻な政治問題に発展するのを阻止したい、③11月中旬にブッシュ大統領訪中を成功させたい-といった理由が考えられる。 米繊維業界は大喜びだが、先行きは決して明るくない。日米貿易摩擦で、自主規制を迫られた日本の鉄鋼・自動車メーカーは、その間レントを稼ぎ、さらに付加価値の高い製品作りにエネルギーを集中、競争力を高めていった。今のところTシャツやジーンズなど安価な製品を作っている中国だが、デザイン力や高い縫製技術を持った人材も育ってきている。(5)また欧米企業による直接投資やアウトソーシングも急速に進んでおり、輸入制限で国内産業を守ることは非現実的だ。 EUの港が、殺到する中国製セーターやズボンで溢れていた8月18日、オランダ、デンマーク、スエーデン、フィンランドの貿易・経済担当相が連名で、『中国製品への輸入制限は逆効果』という論文をファイナンシャルタイムズ紙に掲載した。要旨は「外国企業が海外で生産したものをヨーロッパに売ろうとし、輸入業者が一定量を買い付けヨーロッパに持ち込むという貿易モデルはもう時代後れ。いまやヨーロッパ企業自身が海外での生産に深く関わっている。これら企業はヨーロッパではすでに利益がなくなった製品をつくるため海外に生産拠点を設置したりアウトソーシングし、他方、優位性の高い分野をヨーロッパに残して特化することで生き残ろうとしている。ゆえに輸入やアウトソーシングを止めようとするのは経済的自殺行為に等しい」。(6) グローバリゼーションは止めがたいが、その過程で国家間の摩擦は避けられない。議会が設置した「米中経済・安全保障関係検討委員会」(U.S.-China Economic and Security Review Commission)は11月8日、報告書の中で、「米中関係は長期的利益の衝突が予測され、早急にそれを回避する政策をとる必要がある」とした。(7)繊維産業の状況を見渡したとき、示唆的な提言である。 (1)Peter Goodman, “China Bristles at Textile Trade Backlash; Calls for Limits on Exports Seen as Unfair Restriction in Global Market,” Washington Post, May 5, 2005. (2)David Barboza, and Paul Meller, “China to Limit Textile Exports to Europe,” New York Times, June 11, 2005. (3)Edmund L. Andrews and Elizabeth Becker, “U.S. Begins Steps to Limit Import Surge From China,” New York Times, April 5, 2005. (4)National Council of Textile Organizations, News Release “Bush Administration Acts Again to Save Textile Jobs by Imposing Additional Safeguards on China,” May 18, 2005, and Euratex, Press Release, “EU Textile and Clothing Industry Seeks China Safeguard, Criticizes Commission and Member-States,” April 8, 2005. (5)Keith Bradsher, “Chinese Apparel Makers Increasingly Seek the Creative Work,” New York Times, August 31, 2005. (6)Katien Van Gennip, Bendt Bendtsen, Thomas Ostros, and Paula Lehtomaki, “European quotas on Chinese textiles have backfired,” Financial Times, August 18, 2005. (7)“Based on its analyses of developments during the period since its 2004 Annual Report, the Commission concludes that, on balance, the trends in the U.S.-China relationship have negative implications for the long-term economic and security interests of the United States. To prevent or reduce the negative impacts of these trends, the United States needs to establish and implement policies that provide course correstions.”-U.S.-China Economic and Security Review Commission, 2005 Report to Congress, November 2005, Executive Summary p1. ©Aki Naganuma. All rights reserved. |