Aki Naganuma
  WashingtonDC同時代記
長沼亜紀 naganuma_dc@hotmail.com
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WashingtonDC同時代記
アメリカ政治・社会についての話題を隔週でまとめて紹介


ウォールマートは貧者に優しいか(#8 12/30/2005更新)
自分のアシを食べている労働者?
 ウォールマートを考えるとき、いつもタコが自分のアシを食べている図が思い浮かぶ。ウォールマートのキャッチフレーズは「毎日、低価格」。商品はとくかく安くほとんどが「made in China」だ。買い物をするのは低所得者が多い。彼らの中には、勤務先の工場が中国との競争に敗れ倒産、失業した人もいるだろうし、最低賃金で働いている人もいるだろう。ウォールマートが提供する安さと物質的豊かさの代償は、国内製造業の衰退、小売業の寡占化、低賃金労働者の犠牲と無関係でなない。一体、ウォールマートでアメリカの労働者は豊かになったのか、貧しくなったのか?

 ウォールマートは全米に3000店舗以上を展開するアメリカNo1の小売店である。一セントでも安く製品を生産できる工場を世界中から探し出し、大量に買付け、効率的な流通網を組み立て、大量販売する。まさにグローバリゼーションの「鏡」であり、昨年は100億ドルの利益を上げた。中国やインドネシアからの安い製品なしで、アメリカの物質的豊かさは成り立たず、誰でもほしいものが安く手に入れられるよになったというウォールマートの貢献は大きい。

 しかし、いいことばかりではない。価格で太刀打ちできない個人商店は、ウォールマート進出で街から姿を消し、知識と経験を持って顧客のニーズに応えるというサービスはなくなってしまった。また繊維、プラスチックや鉄鋼部品などの生産拠点は海外に移され、地方にはファーストフフードの店員ぐらいしか職がなくなった。そして、ウォールマート自体で働く従業員の労働条件でも問題になっている。

 ウォールマートは全米で130万人を雇用、アメリカの労働者の100人に一人がウォールマートに雇用されている計算になる。
(1)しかし、平均時給が9.68ドル、従業員の多くの年収は、わずか1万2千ドルから1万5千ドル(140万円から170万円ぐらい)という。(2)移民や児童の違法雇用で摘発されたり、性・人種差別の訴訟、労働組合潰しと、なにかと話題の多い企業だが、最近特に批判されているのが医療健康保険問題である。同社は従業員の48%にしか健康保険を提供していない。自前で保険を購入できない限り残りの大半は保険無加入となり、特に収入の少ない5%は政府の貧困者向けメディケイドの対象になっている。(3)つまり、ウォールマートは従業員の半数以下にしか保険を提供せず、一部は政府の保護を受けなければ生活できないレベルで雇用していることになる。「100億ドルもの利潤を出しているのだから、従業員にきちんと健康保険を提供しろ」と集中砲火を受けて同社は新しい保険プランを発表した。しかし、新プランの最低自己負担分は1千ドルからで、年収1万2千ドルの低所得者には手が出ないと新たな批判を生んでいる。

 ウォールマートについて、12月3日付けワシントンポストに、痛烈に風刺の効いた読者から投書があったので紹介しよう。同紙のセバスチャン・マラビー氏が「ウォールマートは進歩的」と同社が行っていることはふつうの企業活動であり、社会にも貢献しているとのコラムを掲載したのに対し、メリーランド州在住のボブ・ベイリー氏が、問題の本質をついて皮肉を込めて反論している。
『(ウォールマートの商品が安く消費者、特に低所得者層に貢献しているように)新聞購読料はもっと安くすべきである。だから御社の従業員、特に記者とコラムニストの賃金を半分にカットすることを提案する。彼らの健康保険自己負担率も80%に上げてはどうか。これは役員や株主には適用外で結構だ。コラムニストのマラビー氏には、減収分はウォールマートで安い買い物をして補ってもらう。それから、新聞購読料が下がるので家計が助かるだろうとも伝えてくれ』
(4)


イメージ戦争
 アーカンソー州ベントンビルにあるウォールマート本社に、最近「緊急対応広報チーム」が作られた。メンバーは、普段大統領選挙で活躍しているメディア対策のプロたちだ。テレビ、パソコン、電話が張りめぐらされた部屋で、ニュース、新聞・雑誌記事、ウィブサイトからウォールマートに関する報道をくまなくチェックし、否定的な内容があれば記者に電話してすばやく反論、対抗する広告を作成したりしている。イメージ向上に必死のウォールマートが、ついに選挙キャンペーンと同じ手法を取り入れたという訳である。

 11月上旬、ウォールマートを告発したドキュメンタリー「Wal-Mart: The High of Low Price」(ロバート・グリーンワルド監督)が公開された。残業代のごまかしや、医療健康保険を買えない従業員に公的保険を申請させるといった法的・倫理的に問題ある同社の労務管理や、同社進出による地域や中小企業への影響が描かれており、企業イメージへの損害は甚大だ。反ウォールマート・キャンペーンはそれだけではない。有力労働団体から資金援助を受けた市民団体「Wal-Mart Watch」や「Wake up Wal-Mart」が、従業員向け相談窓口を設けたり、賃金レポートを出したり、新聞に意見広告を出すなど批判攻勢を強めており、また、教員組合からは同社商品の不買運動も起きている。

 ウォールマートの創設者サム・ウォルトンは、広報活動にエネルギーを費やすには金と時間の無駄使いと考えていたという。
(5)しかし、もはやそれどころではない。株価は下降が続いており、企業イメージの悪さが投資家の懸念材料の一つと指摘されている。また、同社が最も引き付けたい顧客である中間所得層も、環境や労働問題への企業イメージに敏感だ。コンサルタント会社の調査では、2-8%の消費者が「否定的な報道を知り」同社での買い物をやめた、という結果が出ている。(6)同社は今年、利益率を上げるため従来のターゲットより所得の高い層を狙った「Metro7」という新しい商品群を導入したが、これも企業イメージ改善なしでは成功もおぼつかない。

 このためにウォールマートが契約したのは、「エドルマン」というメディアコンサルタント会社だ。契約額は不明だが、首都ワシントンきっての腕利き、マイケル・ディーバー(レーガン大統領のメディア・アドバイザー)とレジー・ダック(クリントン大統領のメディア・アドバイザー)がウォールマートを担当している。一方、反ウォールマート・キャンペーン側も負けてはいない。2004年のジョン・ケリー民主党大統領候補の選対責任者などが「Wal-Mart Watch」のメディア・チームを率いている。

 選挙のプロたちを投入してのイメージ戦略がこれだけヒートアップしているということは、ウォールマートの象徴する問題が、それだけアメリカ社会を2分していることを意味している。しかし、ボロ儲けをするのはコンサルタントだけと思うとなんとも割り切れない。

(1) Editorial, “Under fire, a giant employer offers a useful health plan,”USA Today, November 7. 2005.
(2) 同上。Paul Blank, “Wal-Mart’s plan a sham,”USA Today, November 7, 2005.
(3) Editorial, USA Today, November 7. 2005.
(4) Bob Bailey, “Wal-Mart: the Whole Story,” Washington Post, December 3. 2005.
(5) Michael Barbaro, “A New Weapon for Wal-Mart: a war room,”New York Times, November 1, 2005.
(6) 同上。
参考
John Wagner, “Wal-Mart Grids for Battle on Md. Bill,” Washington Post, November 17, 2005.
Jonathan Birchall, “Supermarket sweep: now the world’s biggest chain aims to swap tired for tidy,” Financial Times, November 10, 2005.

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