Aki Naganuma
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アメリカ政治・社会についての話題を隔週でまとめて紹介


先鋭化する中絶問題:アリトー最高裁判事承認の影響(#9 2006/1/28)
 女性の子供を生む生まないを選ぶ権利が、失われるかもしれない-。最高裁判事へのサミュエル・アリトー連邦高裁判事(55)指名承認に関して、妊娠中絶支持派が危機感を強めている。上院司法委員会の公聴会が1月12日に終わり、アリトーは、退任するサンドラ・オコーナー判事(75)の後任として1月中にも共和党の支持で承認される見通しとなった。現在、最高裁判事9人の間で保守派とリベラル派の勢力がほぼ均衡しているが、中道的で女性の権利擁護に積極的だったオコーナー判事に代わりに超保守的とされているアリトーが加わることで、このバランスが崩れる可能性がある。アリトー最高裁判事の誕生は、中絶問題のターニングポイントになるだろうか?
(写真:中絶反対派がワシントンDCのモールを大行進。2006年1月23日。筆者撮影)

 「彼がこれまでに下した判決からみて、アリトー判事は、女性の権利を制限し最終的に『ロー対ウェイド判決』を覆そうとしている」というのがNARAL Pro-Choice AmericaやNational Women’s Law Centerなど中絶支持派(pro-choice)の主張である。ロー対ウェイド判決とは、テキサス州の中絶禁止法の合憲性が争われた裁判で、女性には中絶する、しないを選ぶ権利があり、州がこれを制限するのは違憲とした1973年の最高裁判決である。中絶の権利を支える基礎となっており、これを守ろうとする中絶支持派と、中絶反対派(pro-life)が過去30年間激しく対立してきた。

ロー対ウェイド判決以降、中絶自体は禁止しないものの、未成年者の場合の親の承諾、妻が夫に知らせる義務など、中絶を制限する法律が各州で作られた。中絶支持派はこれを同判決で認められた権利を切り崩すものだとして裁判を起こしており、その一つが1991年の『Planned Parenthood of Southeastern Pennsylvania 対ケイシー』である。ペンシルバニア州法の中絶を制限する条項のうち、特に妻が夫に知らせる義務について、中絶支持団体は、夫婦関係によっては虐待を受ける危険性がありそのような義務は負わせるべきではないと主張したが、フィラデェルフィアの連邦高裁判事だったアリトーはこの訴えを退けた。(このケースは上告され、最高裁は中絶支持団体側が勝訴した)

アリトーはこのほか、司法省に勤務していた1985年に、「憲法は女性の選ぶ権利を保障してはいない」としてロー対ウェイド判決を覆すための戦略メモを書いており、この実績を法務長官補佐官補のポジションへの昇進申請に利用している。公聴会でこれについて問われたアリトーは「85年当時のレーガン政権司法省の中で自分の役割として書いた適切な文書だ。今、最高裁判事に承認されてその問題が提示されたら、先例を尊重するが、それ以上の考察が必要な場合は、オープンマイドで望む」と述べ、
(1)ロー対ウェイド判決に反対する可能性を否定しなかった。

 そもそも中絶問題とは何なのか?中絶支持派の団体「計画的に家族をつくる会」のステファニー・フォスター政策担当副代表は、「いつ子供をつくる、つくらないを決める権利は女性にあり、彼女と家族が医療関係者のアドバイスを受けながら決めるのが一番です。政府や政治家が口出しすることではありません」という。
(2)一方、中絶反対派団体「憂慮するアメリカ女性の会」のウェンディ・ライト副代表は「人の命は神聖です。中絶とは生む生まないではなく、命を殺すか否かということ」と説明する。(3)こうした見方の背景にはもちろん、中絶、同性愛を忌まわしいものとするキリスト教の価値観がある。

一般には、中絶は望ましくないが仕方のない場合もあると考えるアメリカ人が多く、1月初めのギャロップ世論調査では、自分を「pro-choice」とする人が53%、「pro-life」とする人が42%で、
(4)割合自体はこの30年間大きく変化していない。1990年代後半には、過激な中絶反対派が中絶手術を行う医師を射殺したり、診療所を爆破するなどの事件が相次いだ。しかし最近では、中絶反対派は議会に働きかけて法規制をつくることにエネルギーを注いでおり、特に宗教右派が政治的発言力を増し、ブッシュ大統領がその意を受けて二人目の保守派判事を最高裁に送り込もうとしているだけに、この問題をめぐる対立は先鋭化してきている。

中絶反対派は、中絶が許される期間を定めたり、手術前24時間の待機や医師によるセラピーの義務づけ、医療機関への規制を強めて手術を困難にするなど、中絶を実質的に制限する法制定を各州でさらに進めようとしている。こうした法律の是非が今後、最高裁まであがってきて、アリトー判事の一票が結果を左右する可能性が高く、「計画的に家族をつくる会」のフォスター政策担当副代表は、「非常に憂慮すべき事態。問題の重要さをもっと女性に訴えて、一つ一つ戦っていなかければなりません」と話している。
(5)

(1) “That was a correct statement of what I thought in 1985 from my vantage point in 1985, and that was as a line attorney in the Department of Justice in the Reagan administration.” “Today, if the issue were to come before me, if I am fortunate enough to be confirmed and the issue were to come before me, the first question would be…the issue of stare decisis.” “And if the analysis were to get beyond that point, then I would approach the question with an open mind.” Excerpts from Alito’s answer at the hearing at the Senate judiciary committee on January 10, 2006.
(2) Stephenie Foster, Vice President for public policy of Planned Parenthood, interviewed by Aki Naganuma, January 24, 2006.
(3) Wendy Wright, Executive Vice President of Concerned Women for America, interviewed by Aki Naganuma, January 13, 2006.
(4) CNN/USA Today/Gallup poll January 6-8, 2006. http://www.pollingreport.com/abortion.htm (January 28, 2006)
(5) Foster interview.
参考
Amy Goldstein and Charles Babigton, “Alito Leaves Door Open to Reversing ‘Roe’,” Washington Post, January 12, 2006.
Charles Lane, “Nominee’s Reasoning Points to a Likely Vote Against Roe v. Wade,” Washington Post, November 2, 2005.
Adam Liptak, “In Abortion Rulings, Idea of Marriage is Pivotal,” New York Times, November 2, 2005.
Charles Lane, “Roberts Seeks Middle Ground; Court Hears Appeal on Parental Notification of Abortion,” Washington Post, December 1, 2005.
Linda Greenhouse, “Case Reopens Abortion Issue for Justices,” New York Times, November 29, 2005.
“Liberty at Risk: the Vulnerability of Reproductive Rights Under Alito,” NARAL Pro-Choice America, http://www.prochoiceamerica.org/publications/liberty_risk_alito.cfm (January 10, 2006)

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