英国の家庭料理

土屋 ゆかり

 

三月に入ったというのに、今日のワシントンは吹雪でした。春の雪でしたからたいしたことにもならず、夕方には日が射し始めましたが、風の冷たかったこと。でも、そんな寒さなどものともせず、庭の黄水仙は凍りついた土の中から頭をもたげ、春に向かってぐいぐいと伸びようとしています。黄水仙(ダフォディル)の時期になると、早春のイギリスの風景が目に浮かびます。紫や白のクロッカスに続き、いたる所でダフォディルが鮮やかな黄色の花を咲かせます。そうすると、長く陰鬱な冬もやっと終わりを告げたかという思いがして、心が浮き立ったものでした。ところが、イギリスの春は日本と違って、四月、五月になっても曇よりと肌寒い日が多く、人々が毛皮のコートを着て歩いるのもごく普通の光景でした。それだけに、いったん晴れると、それはもう、人々の心も顔つきもほころび、イギリスの風景は、例えようもないほど美しい緑の国に一変します。太陽の光を浴びて木々は輝き、どこまでもなだらかに続く丘陵では、乳牛や羊の群がのどかに草を食んでいます。特に春先は、生まれたばかりのラムが時々黒いのも混じって、ころころと牧場で遊んでいるのを見かけます。これは二十年も前、私がロンドンのパディングトン駅とウェールズを往復したときに楽しんだ車窓からの風景です。私は六年間ウェールズで働き、学び、生活しました。厳密な意味で、イングランドで暮らしたのはオックスフォードでの三ヶ月間だけですが。

さて、その六年間のほとんどを、ウェールズの首都カーディフで暮らした数ヶ月を除いて、ポースコールという小さな海辺の町で暮らしました。ここはカーディフからさらに西に位置し、そこをもっと西に行くとスワンジーというウェールズでは、カーディフについで二番目に大きい都市があります。ご存知の方もおありかと思いますが、カーディフもスワンジーもひと昔前までは石炭の積出港として大変栄えたところです。田舎の小さな町に一人で暮らしていたせいか、友だちの家のサンデーディナーに幾度も招待されました。また、出かけないで家にいる日曜日には、スープの冷めない程度のところに住んでいた大家さんが、必ずディナーをお盆に載せて運んでくださいました。奥さんが料理したのを大皿に盛って、冷めないようにと蓋をし、さらに布巾でくるむようにして旦那さんが届けてくださるのでした。「熱いうちに食べるんだよ。」と言って。イギリス人は冷たいとか、友だちになりにくいとかということをよく耳にします。確かに、gentlemanの言葉が表すとおり、物静かな話し方をする人が多いです。また、英国人はプライバシーをとても大切にします。私はあなたのプライバシーを尊重するから、あなたも私のプライバシーを侵害しないで欲しい、といった態度が慣れない外国人にとっては、よそよそしく感じられるのかもしれません。私も英国生活が浅かった頃、イギリス人はフレンドリーじゃないと、あるイギリス人に訴えたことがあります。そのとき、彼は私を諭すようにこう言いました。「でもね、時間はかかるかもしれないけれど、彼らはいったん友だちになったら、一生の友だちだよ。」 彼が言ったことは真実でした。オックスフォードでも、カーディフでも、そして、ポースコールでも、本当に良い友人たちに恵まれました。私に真実を教えてくれた彼も含めて、何人かはすでに他界しました。他の友人たちとはここ数年、一年に一度のクリスマスカードの交換でお互いと家族の安否を確かめ合っているというのが現状です。でも、彼らがアメリカに来たいといえば、いつでも暖かく迎えたいと思っていますし、もし、それが逆だったとしても昔同様、両手を広げて迎えてくれると信じています。六年間の英国生活で彼らから学んだものは、人に対する思いやり、親切の仕方、良い意味でのプライドと精神的自立、そして家庭料理でした。お世話になった多くの友人、知人に感謝の想いを馳せながら、今日は素朴で暖かい英国のサンデーディナーをご紹介いたしましょう。
                                  
                       
 2005年3月8日記

 

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英国のサンデーディナー




 

*** メニュー ***

 

グレープフルーツ

ローストラム

馬鈴薯と芽キャベツ(またはグリンピース)の付け合せ

ミントソース

アップルパイ(またはトライフル)

紅茶

ワイン(お好みで)

 

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作り方(6〜8人前)

・ラムの骨付きもも肉(2〜2.5kg/ 4〜5 lb

・じゃが芋適量

・芽キャベツ適量

1、肉を水でさっと洗い、水気をよくふき取る。

2、
塩、コショウをして、肉によくすり込むようにする。(ラムの匂いの苦手な人は、ここで、ローズマリーを加えると良い。生のが良いが、乾燥したのでもよい。香りが強いので、あまりかけ過ぎないこと。)

3、深めの天板か耐熱皿にラムを入れ、暖めておいた中火のオーブンの真ん中に置く。約
180oC(350oF,Gas4)で3時間ほど − 0.5kg(1 lb)あたり3040分。

4、じゃが芋の皮をむき、大きければ半分に切り、中小ならば丸のまま、肉ができる一時間ほど前に、肉の周りに並べて、ローストポテトにする。


5、残りのじゃが芋は、肉ができる頃に合わせて火にかける。



6、同様に、芽キャベツも肉が出来上がる時間に合わせて火にかける。芽キャベツを茹でる時に使った湯をグレイヴィーを作るのにとっておく。


7、ラムとローストポテトが出来上がったら、べつの皿に移し暖めておく。


8、グレイヴィーの作り方: 天板から肉汁
(上汁はほとんど脂なので捨て、下のほうの肉汁をスプーンで取る)を別の鍋に移し、水溶きコーンスターチを芽キャベツを煮た湯で溶いたのを肉汁に加え、火にかけ、とろみがつくまでゆっくりとかき混ぜる。

ラム、野菜類をそれぞれ温めておいた器に盛り、食卓に運びます。グレイヴィーとミントソースも器に移し、各自が取り分けられるよう、テーブルで順番に回します。大きな骨付きラムは、食卓で家長たる父親がスライスして、各々のお皿に載せてくれます。付け合せの野菜類は、順番に回ってくるので、好きな量だけ自分のお皿に取り分け、次の人に回します。このとき、隣の人が料理を自分のお皿に取りやすいように、野菜の入った器を支えてあげるようにします。お料理を取り分けた隣の席の人は、器を持っていてくれた隣の人に、“サンキュー”と言って、同じように次の人に回します。こうして全員のお皿に料理が行きわったったら熱いうちにいただきます。

ミントソース:は市販のものを買うこともできますが、新鮮なミント(はっか)の葉が手に入るならば、ラムをオーブンに入れている間に、下記の方法で簡単に作れます。
                                         
 ・手のひら一杯くらいのミントの葉:みじん切り

 ・砂糖:
大匙一杯                
 ・沸騰している湯:約100cc(0.5カップ)
 ・湯と同量のワインヴィネガー
 ・塩少々


みじん切りしたミントの葉に沸騰した湯を注ぐ。 
(ミントの香りと緑色をたもたせる。)           
砂糖、ワインヴィネガー、塩を加えて良く混ぜ合わせる。
冷ましてから別の容器に入れて、食卓で各自に回す。
ラムには欠かせないソース。
 

グレープフルーツの代わりに、メロンとかアボカドのサラダでも良いと思います。 後につずく料理が重いので、前菜はあっさりと簡単に。英国のロースト肉料理には、ローストポテトと茹でポテトは必ず添えられておりました。そのほかに、季節の野菜を一、二種、パンはでませんでした。 基本的には、肉、野菜そのものの味を楽しむというのが、英国風と言えるかもしれません。

サンデーディナーはだいたい、日曜日の12時頃始まりました。朝教会に行って帰ってからいただく正餐です。客人、家族が食卓につくと、熱々の塊り肉が運ばれてきます。お料理はたいてい母親なり奥さんがしますが、テーブルでこの肉を切り分けるのは、家長である父親の役目です。そして、食後、速やかに食器をかたずけ、台所に運び、食器洗いをするのも父親や旦那さんの仕事でした。(ディシュウォシャーの出現で、このへんは英国と言えども大分変わってきているとは思いますが。)

さて、ディナーでお腹はいっぱい、デザートのアップルパイにも満足。熱いミルクティーも何杯も御代わりしたし、ところで、次は? 感心なことに、私の友人たちは、必ずと言っていいほど、食後散歩に出かけました。近くのイングリィシュ ガーデンに足を運び、四季折々の草木を愛で、小鳥の声に耳を傾けるという感じで、小一時間を過ごすのでした。時には、車で、あまり遠くない国立公園に出かけたこともありました。

要は、ここでは、カロリー計算も栄養分析も致しませんので、美味しいものをたくさん召し上がったら、あなたも、是非、散歩にお出かけくださいね。

For those who find English easier, please see the attached English version of the above recipe.  Enjoy cooking!

English version (PDF) 

©Yukari Tsuchiya

2005 03 28


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