子連れ留学で培ったタフネス


−日本に新しい風を吹き込みたい−




森雅子

 戦争被害を引きずった貧しい家庭で生まれ育った。友達が皆、二段式の筆箱を持つ中で、ひとり母の手作りの布製の筆入れ。つぎはぎのついた体操服。追い討ちをかけるように、中学1年生の夏、父親が財産を失い、貧困は更に深刻になった。貧しい者、弱い者は、一生その中から抜け出せないのか。子どもながらに社会の仕組みに疑問を感じた。コンプレックスを抱え続けた中学時代、地元福島県で人権派の弁護士に出会い、学んだ知識を生かして困っている人を救える職業があると知った。「弁護士になりたい。」担任の先生が両親を説得してくれた。遠くの町で開かれる奨学金の試験にも、担任の先生が車を運転して連れて行ってくれた。中学時代は小学生を家庭教師して学費を稼ぎ、以後大学を卒業するまで働きながら進学し、苦労して司法試験に合格。弁護士になってからは、消費者事件(詐欺で財産を取られた人を弁護する仕事)に打ち込んだ。人権派弁護士としての活動が認められ日弁連推薦でニューヨーク大学ロースクールへ留学し「消費者保護制度の日米比較」を研究。実はこのとき第一子出産直後。乳飲み子を連れてママさん子連れ留学を果たした。主人は大手法律事務所の弁護士。NYと日本を行き来して母子留学を支えた彼に対して風当たりはきつかった。「離婚したの?」と聞かれることもあった。男性の単身赴任は普通でも、女性となると周囲の認識が低い。日本では働く女性が出産すると、否が応でも壁が立ちはだかる。少子化の一因だ。国連の女性会議に出席した。日本の実情は、世界の中でも最低レベルだった。   
 
  一方、専門の消費者研究はというと、アメリカの消費者保護は進んでいた。日本は立法・行政面で20年から50年の遅れ。アメリカでは弁護士が消費者事件をする場合は限られる。行政が消費者のために違法収益を剥奪して被害者に分配するからだ。一弁護士として、消費者を救う活動をしていくことに限界を感じる。官庁が職員を募集していることを知り、応募して金融庁に入った。政策面で、消費者保護に関わりたいと思ったからだ。かねてから、消費者問題の金融化の波も感じていたから、金融庁の中で学びとるものは多いと判断した。しかし、金融庁にもママさんキャリアは皆無。ある意味神経図太くないとやっていけない面はある。誰も使わない「子育て支援制度」を率先して利用し前例を作る。「官庁は一般企業と違って忙しいからね。」「7時半に帰られちゃあ、皆の士気が下がるんだよ。」しかし官庁から始めなくてはキャリアウーマンの出産回避・少子化は阻めない。アメリカでキャリア女性が母業と両立して生き生き働いていた姿が忘れられない。アメリカでは独身女性が積極的にフォローする。日本では未出産女性の理解・関わりが低いが教育の責任だ。私は黙々と、自分の仕事の成果を上げることに専念した。結果、半年経った今、周囲の評価は変わりつつある。外部から入った職員として初めて一人で海外調査に派遣された。信頼されていると感じ嬉しかった。これからも国民のために価値ある仕事をしたい。    

  自分が経済的に苦労したので人の生活の糧を狙う経済犯罪は許せない。ヤミ金問題でクローズアップされた「犯罪収益の吐き出し制度」作りに先陣を切って取り組んできた。しかし消費者保護は決して企業征伐ではない。利益追求のために人の平穏な生活や命まで奪う行為は厳正に処罰しなければならないし、消費者と企業の力の差異を考慮し、生身の人間である消費者を擁護する必要性は高い。だが、ほとんどの人が消費者であると同時に供給者である。両者のバランスを常に考える。留学研究で学んだことだ。官僚はこの点のバランス感覚が非常に鋭い。民間人として消費者保護を訴えてきた弁護士時代とは異なる知的刺激を受けている。
 

  アメリカで、二人の子どもたちを学校に通わせた。3歳の子のプリスク-ルで、毎週自分の発表時間がある。日本では全く見られない制度だ。クラスメイトの前に一人で立つ。自分の好きなもの、好きなことに関して話をする。質問も受ける。自分と違ったものが好きな人間がいることを知る。それを受け入れる。子ども達は、自分の意見をはっきり言えるようになった。また、自分と異なった存在も受け入れられるようになった。このような良い点は日本の教育にも採りいれて欲しいものだ。アメリカで育った子ども達、海外に友人を持つ子ども達が、将来、外国に対して親しみを感じてくれるだけでも、国際的な相互理解・世界平和の一助となると信じている。   

 そんな子ども達と夫に支えられながら、今日も霞ヶ関へ。日本に新しい風を吹き込みたいと願って。

 

もりまさこプロフィール
弁護士。森雅子法律事務所長。00年NY大学ロースクール客員研究員。日弁連国際人権委員会幹事。現在金融庁信用制度参事官室課長補佐。専門分野は消費者法、犯罪収益吐出制度など。 


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