スイスのヘルスケア

 

林 三千子

 

 

 


近くの山から一望するジュネーブとレマン湖。
この町で赤十字創立者のヘンリーデュナンが生まれ育った。


スイスには国民健康保険がなく、民間会社の保険に加入しなければならない。

 しかし政府が補助金を出しているので、完全なる民間とは言えない。保険は、健康保険、高齢及び身体障害保険、追加保険の3種類があり、追加保険を除いて、加入は全部義務となっている。スイス住民の98%が義務保険に加入している。 義務保険の運営については規制されており、保険料は一般市民が払える金額にすること、利益追求禁止、保険の対象となる医療サービスは各保険会社同じであること等が定められている。保険会社は、保険料と患者負担の割合を調節して、義務保険を売っている。患者負担の割合は8%から30%で、保険料もそれによって上下する。 利益追求禁止とあるが、公共サービスではないし、補助金の恩恵などで、保険会社にとって儲かる仕事だ。最近国民投票が行われた、健康保険基金設立案には、保険会社連合はもちろん大反対していた。この案は、国民健康保険のようなシステムをスイスに設立しようと言うもので、熱烈な論議がされたが、結局、反対70%、賛成30%で没となった。  
  
(写真下)サンモリッツで。アルプスの村には療養所や高級病院がある。

州によって随分異なるが、私の住むジュネーブ州では、義務保険の掛け金は毎月、子供2人の家族で約1000ドル、子供1人の場合800ドル、独身は500ドル。 保険料が所得の8%以上になる人には、州から掛け金に補助金が出る。補助金を受けている人はスイス全体で約30%だ。デンタルケアは義務保険ではカバーされない。また、義務保険の場合、入院は4人部屋を与えられる。現在は、義務保険でも担当医師の許可を得ず、スペシャリストに診てもらえるが、もうじき、許可が必要になるということだ。追加保険はデンタルケアや入院時の個人部屋をカバーするが、保険料が高く、義務保険だけという人は多い。雇用者が健康保険の掛け金を援助している場合もあるが、個人で保険に入っている人も多い。ジュネーブ州は義務保険の掛け金がスイスで最も高いそうで、掛け金全額を自分で払わなければいけない人は、不満を持っている人が多いということだ。 

スイスの医療レベルについては、最近のWHOとOECD共同レポートに、世界のトップレベルと報告されていた。私も、病院施設は大変充実していると思う。公立と私立の病院があり、入院施設は公立病院の場合、国から補助金が出る。 医療費は州によって随分異なるそうだが、スイスの医療費はヨーロッパで一番高く、医療費のGDPに対する割合はアメリカについで先進国中で二番ということだ。医療費は毎年、保険会社と医師連合が話しあい、州ごとに医療費を設定する。上記のレポートによると、スイスの医療は必ずしも効率にもとづいておらず、将来、医療費の高騰を防ぐには、効率改善の必要があるとあった。

私はアメリカのジョージタウン大学病院とスイスのジュネーブ大学病院で手術入院の経験をした。前者は私立、後者は公立だが、どちらも大きな総合病院。入院部屋は両方とも個室をもらったが、ジュネーブ大学病院の部屋のほうが広く、日向ぼっこができるようなバルコニーもついていた。ジョージタウンの手術のほうが、技術的に難度が高く、手術にかかった時間はジョージタウンで5時間、ジュネーブで2時間半。しかし入院期間はジュネーブのほうが2日多かった。なんと言っても、最大の違いは費用だ。手術入院代全部で、ジョージタウンでは8万ドル、ジュネーブでは1万6千ドル。手術の難度、かかった時間、私立と公立の違いを考慮しても、やはり、この差は大きいと思う。しかし、アメリカでの保険は全額を払ってくれたが、ここでの保険は自己負担が2400ドルで、痛かった。アメリカでは夫の職場の保険で、毎月の掛け金は今と同じぐらいだったと思うので、この点では、アメリカの方が良かった。とは言え、アメリカの保険も困難があった。制約が多くややこしいので、病院側と保険会社のやりとりでよく手違いがある。そうすると、保険会社は私への支払いを拒否する。それで、私が何度も電話で病院と保険会社に交渉しなければならず、実に面倒くさかった。第一、保険会社に電話をしても、録音を聞かされるばかりで、10分以内に人が出てきたことはなかった。 

最後にスイスの薬品と薬局について一言。スイスの薬は大変高い。ジェネリックの薬も最近増えてきているそうだが、見たことがない。スイスは製薬会社の国でもあるが、R&Dのためと称して、高い値段で国民に売りつけている。薬品市場も保護されていて、薬品の関税は高い。薬局はたくさんあるのだが、同じ経営者が多く、あまり競争がない。もっともスイスは何に関しても競争がなく、サービスも物も何でも高いが。スーパーマーケットでは、薬は売っておらず、コンタクトレンズ液さえない。 薬局では、薬は奥にしまってあり、客が自分で見て選ぶことができない。普通の頭痛薬でさえ、レジの人に頼まなければならないので、薬の名前を知らないと、薬局の推薦する薬を買うはめになる。医者に行くと処方箋で高い薬をいくつも買わされるので、医者、製薬会社、薬局は、薬の高値で甘い汁をすっているに違いない。保険と医療はアメリカとスイス、どちらが良いか難しいところだが、薬と薬局については、アメリカの方が消費者にとって便利で進んでいると思う。


林 三千子(はやし みちこ): コロラド州で高校卒業、カルフォルニア大学 アーバイン校でBS、MBAを習得。 就職 の為、1982よりスイスのジュネーブに在住。国際機関(UNCTAD)で発展途上国の通商政 策に関する仕事に従事している。2000年から3年間、UNCTADを休職、ワシントン DCに滞在する。

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