家族の風景

−無駄な時間−

 

岡根 由里

道で占い師に会った。川辺で戯れている私たちをじっと見ている品の良い初老の女性。3歳の息子が声を掛けた。中学校の先生だったというその女性は、占い師だとのこと。面白半分にいろいろ聞いてみたら、当る!私の仕事、家族構成、そして悩みをズバズバ言い当てた。面白い!露骨にいやな顔をする主人を尻目に夕食に招待し、もっと話を聞くことにした。

「人生はもう生まれる前から決っている」と彼女は言う。それでは、努力は無駄なのか?そうでもなく、頑張れば道は開けるそうだ。夕食を共にしながら、私は自分の過去、そして将来訪れるであろう試練等を聞き捲った。ほっとしたり、がっかりした。

そのうち、子供の事を聞くのは辞めようと思った。確かに、当るのかもしれないし、ただのインチキかも知れない。どちらにしろ、子供たちの将来は何も決っていない白紙と私は信じている。子供は、私を前向き(または冷静)にしてくれているようだ。

自分の人生占いを聞きながら、食べ物でぐちゃぐちゃの子供たちを見ながら更に思った。前向きになる前に、もっと大切な事がある。それは、受容すること。ありのままを受け止める。押し付けない。その子の個性を横からそっとサポートしてあげるのが親の役割であろう。もちろん躾けは別で、「ちゃんと面倒見てよ!」と主人を睨む。

子供に限っては占ってもらうことはなさそうである。子供が出来てから、私はいろいろな事を考えるようになった。毎日、人生観を「シャッフル」している。以前はいろいろな事に、自信があったように思う。簡単に答えを見つける事も出来た。だが今、3歳と11ヶ月の2人の子を抱え、とても臆病になった。いつも、はらはらどきどき。「絶対」なんて絶対に言えない。時々、この心労を知っていたら、子供を産もう思っただろうかと考える。無意味な思考である。

占いの中で、「より」幸せという表現が耳についた。子が出来て、親のいやな部分にも気付く。それは「比較すること」である。母親たちが集まると、必ず比較が始まる。全く無意味であるが、ついついその競争に参加してしまう。子が出来ると、親はエゴイステックになる様だ。気をつけねば。

子供と出かけると、よく声を掛けれられる。「可愛いねー」が一般的。一応「Thank you」と言うが、「もし、可愛くなかったらどうするのか」とひねくれ者の私は考える。子供はその愛くるしい仕草と外見で、親の愛を惹きつける。多くの動物がそうであるように、親にとって我が子程可愛い存在は無いであろう。外見の評価は言語道断。「もし、こうだったらどうなんだ」と想像する事は、更に無駄。ありのままを受け止めるしか無い。

3歳の息子がまだ2歳にもならない時、私たち夫婦は、息子は天才かも知れないと思った。彼は、一度聞いた車の車種を覚え、2歳までにはほぼ全車を言い当てていた。母に言ったら、「私もあなたが天才と思った事もあったねー」と笑っていた。母の予言通り、保育園に入った息子は、他の児童と変わりない。あえて言えば、皆よりやんちゃ坊主で手がかかる。天才ではなかったかもしれないが、がっかりもしない。親というものは、子供が何であれ、受け入れていくものだと思う。

占い師の話をいろいろ聞いて、私の人生も結局なるようにしかならないという当然の結論にたどり着いた。無意味な質問を繰り返す私を見て、「当たり前だろう」と呆れる主人。何時も冷静な主人は、私の羅針盤である。

羅針盤といえば、障碍(がい)のある子供を育てている近所のお母さんからいい話を聞いたことがある。子育ては「イタリア旅行のようなもの」なのだそうだ。

イタリアに行こうと決めて、いろいろと準備をする。ローマ、フィレンツェ等観光地を調べ、楽しい旅行のプランに胸躍らせる。しかし、飛行機が着いた先はイタリアではなく、聞いた事も無い島だった。落胆し、嘆き悲しんだ。どうしてと運を恨んだ。しかし、その島を良く見ると、イタリアに勝るとも劣らない美しい 発見がある。もうイタリアなんてどうでもいい。

私にも、以前「計画していたイタリア旅行」があったような気がする。そして今は、発見した島の散策に忙しい毎日を過ごしている。激しく汚れたテーブルや子供たちと格闘する主人を見ながら、占い師の話をうわの空で聞いていた。前世も来世もあっても無くても関係無い。まずはあるがままを受け止め、そして前向きに子育てをしていきたいと思う。

比較も予言も、今の私には無駄な時間である。

 

岡根由里:2000年より米大手ヘッジファンドで日本の政策調査を担当し、年4回、調査のため訪日。それ以前は英国ドレスナー銀行経済調査部所属。東京支店7年、ロンドン本店3年勤務。英国City Universityにて修士号取得。論文「日本の競争法」。3歳男児と10ヶ月女児の母。パラグアイ生まれ、岩手県育ち。現在、ワシントン在住。

Top    Home    Backnumbers

©2008 Washington Japanese Women's Network. All rights reserved.