比較考察的DCグルメ事情

アメリカ料理ならDCに“ 3ツ星 ”

 

首藤 繭子

私のライフワークの一つは、「美食探求」と言えば聞こえはいいが、要するに「食べ歩き」である。現在は、大概の食材、料理は食べることができるが、幼少の頃は大半の魚、乳製品が食べられないなど偏食がひどかった。転機は、高校時代のオーストラリア留学中に1年間に7カ所のホストファミリーに滞在したことである。それぞれの家族は出身国も異なったため、多様な食文化に適応せざるを得なかったのだ。しかし、そのお蔭で「世界中に美味しい食事があるのだ!」と開眼して以降、食に対する情熱が芽生えた。出身地である東京はもちろん、長期滞在をしたパリ、ロンドン、サンフランシスコ、あるいは観光で訪れた世界各国の都市でアンテナを張り巡らせてきた。そして、07年8月にワシントンDC(以下DC)に居を移して以降、過去7ヶ月で訪問したレストランは実に100カ所、お気に入りのレストランへの再訪を含めた累積の外食回数は127回、つまり一週間に平均4.1回は外食、と自分でも呆れるくらい情熱に拍車がかかってきた。ただし、残念なことに、DC滞在も残り1ヶ月となった。そこで、備忘録を兼ねて、本稿にてDCのグルメ事情について駄文をしたためようと思い立った次第である。

DCのレストランを総括するにあたり、私が直前の2年間を過ごしたサンフランシスコ近郊と、更に何度も訪問しているニューヨークの食事情との比較、という観点から考察してみたい。端的に表現するならば、この2都市と比べたDCの印象としては、

  • 評価が高いレストランは、フレンチやイタリアンではなく、アメリカ料理の店である
  • 人気レストランであっても、レストランの予約は比較的容易である
  • 他の都市より数年遅れて食のブームが到来する

といったところになる。

冷静に考えてみると、DCではニューヨークやサンフランシスコ滞在中と比較して、実に頻繁にアメリカ料理を食していたのだが、結果として、無意識にアメリカ料理を選択していたのには何か原因があるはずである。直感的には、アメリカ合衆国の首都として、アメリカ料理のレストランの質が高いのは至極当然、と合点がいくのだが、これは全く以って客観性を欠いた説明である。そこで、私は自分がレストランを選択するプロセスを反芻し、何故アメリカ料理がこれほどまでに地位を確立しているのかについて、拙いながら分析を試みたのである。

訪問するレストランに関する情報を収集する際、私はアメリカで最も支持されているレストランガイド「ザガット(http://www.zagat.com)」や口コミ情報が充実している「Yelp(http://www.yelp.com)」を参考にしつつ、更に味覚に信頼のおける友人や同僚の評価も確認することで、努めて広く支持されているレストランを選択するようにしていた。そこで、「ザガット」の米国内主要5都市における評価上位30店舗が供している料理の種類について集計してみることにした。その結果、DCではアメリカ料理のレストランが圧倒的な差をつけて上位を独占したのだが、その他の都市ではフランス料理とアメリカ料理が拮抗している。このことからレストラン業界においても、アメリカ料理の中心はDCである、ということが客観的に証明されたのである。

写真下:DCのOceanaire Seafood Roomのクラブケーキ
ところで、私が2日に一回のペースでレストランでの(大抵の場合は)美食にありつけた最大の要因は、前述のような徹底的な事前調査と前もってテーブルの予約をしてきたことだと考えている。その点で、オンライン予約サイト「Open Table(http://www.opentable.com)」が大いに役に立った。DCに住み始めた当初は、念には念を入れ、非常に人気のあるお店を訪問するときには少なくとも2週間前から計画を立て、予約を入れていた。しかし、「Open Table」で細かく検索してみると、数軒の超人気レストラン(例えばモダンアメリカ料理のCentralMichel Richardや地中海料理のZaytinya等) を除いて1週間前でも予約可能なことが多いことに気づいたのである。そのため、直前まで予定が決まらなかったり、直前の気分によって料理を選びたいと思っても、DCという 街はそんなワガママにも応えてくれるのである!

2写真下:BaltimoreのFaidley’s のクラブケーキ
そんなこんなでDCでの食べ歩きを120%満喫してきた私だが、残念に思うのは、食のブームが他の大都市に比べて数年遅れてやってくることである。再開発されたPenn Quarterを中心に次々とモダンな料理を提供するお店が開店するのを目にすると、この10年弱で当地のグルメ事情が相当改善したという一般の評価には賛成する。他方で、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドン等でほぼ定着した高品質なアジアのフュージョン系レストランやオーガニック料理を供するレストラン、ワインバー、ベーカリー、デリの類はまだまだ少ないと言わざるを得ない。特に、(ようやく)去年からブームに火がついたワインバーであるが、店舗数が少なく現時点ではどこに行っても常に混んでいる。これではせっかく何十種類ものグラスワイン、何百本ものワインが掲載されているメニューがあってもじっくりと吟味できず、ワイン好きにとってはもどかしく、切ない気分になってしまう。

3写真下:RockvilleのWoodmont Country Clubのクラブケーキ
まだまだ不満の残るDCの美食事情ではあるが、それでも私はDCという土地、そして食文化を愛しており、日本に帰国したら、当分の間お預けとなるDCのアメリカ料理、特に当地の代表的な料理であり、私が1週間に1度は食べているクラブケーキ(Crab cake)を思い出すたびに「郷愁」にかられることになるのは間違いない。(DCのOceanaire Seafood Room<写真左上>BaltimoreのFaidley’s<写真左中>およびRockvilleのWoodmont Country Club<写真左下>のcrab cakeが私のcrab cake top 3である)。

とはいえ、しばらくは不覚にも3年間の遅れを取ってしまった東京の最新の食文化にキャッチアップしなければならないと思うと、早くも帰国後の訪問計画に思いを馳せている困った私なのであった・・・。

しゅとう まゆこ:東京都出身。外資系証券会社の証券アナリストとして勤務後、スタンフォード大学でMBAを取得。現在は、コンサルティングファームにて、公共・民間セクターのプロジェクトを担当。日々の「食べ歩き」をhttp://qualite-mayuko.blogspot.com/にて執筆中。

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