ペンシルバニア州予備選体験記
3月下旬、予備選(4月22日)を控えたペンシルバニア州で一週間ほど、オバマ、クリントン両陣営の選挙活動を間近に見る体験をした。現場で選挙活動を取材するのは、2004年以来のことでなかなか新鮮だった。 今回はオバマ旋風の背景を探るのが主な目的だった。したがって、ペンシルバニアではクリントンの勝利が予想されていたが、オバマが優勢なフィラデルフィア市をベースとする取材となった。 まず両陣営の州本部を訪問してみて、両者の活気の差に驚いた。オバマ陣営はダウンタウンにあり、若者から年配まであらゆる人種のボランティアで賑やかだ。何度かの訪問中にも、続々と新しいボランティアが登録していた。中には遙かカリフォルニアから来たという黒人男性もいた。取材では、ボランティアたちにも自由に質問させてくれた。これに対してクリントン州本部はさびれた町はずれにあり、数少ないボランティアは若い白人女性中心だった。取材も広報担当者にしか許されなかった。日々、どのようなボランティア活動が行われているか両陣営のウェブサイトで把握できるのだが、フィラデルフィア地域のイベント数も圧倒的にオバマ陣営の方が多かった。 フィラデルフィア周辺では、オバマ側のボランティアたちが熱心に有権者登録活動を行っていた。通勤時の駅やバス停、ランチタイムのファーストフードチェーンやレストラン、夕方のスーパーマーケット周辺などだ。ちょっと郊外の金融センターでは共和党支持者が多いようだった。そこで元小児科医と元製薬会社役員という白人男性2人が登録活動をしていたが、2人ともオバマの本を読んで共鳴して、初めて選挙ボランティアになったとのことだった。黒人中流層地区では、11月の総選挙日までに18歳になる高校生たちの有権者登録を行っていた。みな、「オバマに投票する」と言っていたが、理由は「母親が支持しているから」という意見が多かった。不思議にも、「初の黒人大統領誕生の可能性に期待している」という声は聞かれなかった。 有権者登録活動を取材して、興味深かったのは、無党派から民主党支持者に登録を変更した人たちが多かったこと。これはペンシルバニアでは二大政党に登録していないと予備選で投票できない制度を採用しているためだ。彼らはまだクリントンとオバマのどちらを支持するか決めていなかったが、今年の予備選の盛り上がりに自分も一票を投じることで結果を左右したいとのことだった。 ペンシルバニア大学教授夫妻(白人)は、高級住宅街の自宅で寄付金集めパーティーを開催した。両人とも予備選挙期間に個人から許される上限$2,300を寄付してしまったので、他の人たちに寄付を奨励するためだった。選挙献金も初めて、このようなパーティーを開くのも初体験とのことだった。その場で黒人女性がオンラインで小口の寄付をしたが、「ちょっと余裕ができるたびに、何度も献金している」とのことだった。彼女のような支持者が、予備選でオバマに$200以下を寄付した300万人という驚くべき数字の典型なのだろう。 黒人貧民層地区で州・地方政府議員候補が参加する集会があった。オバマ陣営はスポークスマンがスピーチし、ボランティアがボタンやステッカーを売っていた。が、クリントン陣営は招待されていたにもかかわらず、誰も出席せず、最初からさじを投げていた。 クリントン元大統領やヒラリーのスピーチは政策ずくめだった。来場者たちは皆、「経験の豊かさ」を支持する理由として述べていた。しかし、オバマは「変化」と「団結」という夢と希望を売る候補だ。両者の政策に大差がない以上、これはクリントンに不利な戦いだった。 オバマが民主党大統領候補となった今や、同陣営の選挙戦略が優れていたことが明らかとなった。キックオフのアイオワ州での勝利に賭け、また獲得票に比例して代議員が配分される方式を考慮して、クリントンが勝った州でも、票差を最小限にとどめることで、手堅く代議員数を確保していったのだ。一方、最初は民主党大統領候補になることが確実視されていたクリントンの陣営は、党員集会の州は見捨てるというミスや、仲間割れなどに悩まされた。勝てるはずの大統領選で敗北した2000年のゴア元副大統領や2004年のケリー上院議員もそうだが、そもそも自分の選挙活動ですらマネージできない候補に大統領職など勤まるはずがないのではないか。 私がフィラデルフィア入りした日、オバマは通っていた教会の牧師の人種差別的発言問題に対応するため、”A More Perfect Union”というスピーチをした。その際、彼を紹介したウォフォード元上院議員はインタビューで、「オバマはケネディー大統領やキング牧師以来、初めて登場した偉大なリーダーだ」と熱く語った。キングやJFKのアドバイザーを務め、両人をよく知っていた人物からの言葉はオバマに託す夢であふれていた。オバマは「変化」に賛同した人たちの期待通り、果たして大統領就任を果たし、アメリカの歴史を書き換えることができるのか。今年の大統領選はこれまでになく興味深い。
池原麻里子:東京生まれ。成蹊大学英米文学科卒。ソニー本社国際通商業務室、法務部に勤務後、米ジョージタウン大学外交学部で国際関係修士号取得。公共政策専門チャンネルC-SPANの日本向け番組制作を経て、現在ワシントン在住のジャーナリストとして活動中。趣味はオペラ、演劇、バレー、モダン・ダンス、美術の鑑賞、遺跡巡り、読書。 |
©2008 Washington Japanese Women's Network. All rights reserved.