Dreams Come True

小池真理子
www.marikojazz.com

こんな事が出来るなんて、夢にも思わなかった。自分のCDが出来るとは!ジャズとボサノバのスタンダードを12曲入れて、1月に自分の始めてのCDをリリースすることになったのである。ティーンエイジャーの頃、テレビの番組で始めてアントニオ・カルロス・ジョビンがギターを弾きながら”イパネマの娘“を歌うのを聞いた時から、ボサノバに魅せられた。やっと手に入れたボサノバのレコード(その頃はCDがなくてLP版だった)を聞いて以来、いつか自分でポルトガル語でボサノバを唄いたいと思っていた。

20代になってエレクトーンの講師を経て、プレイヤーとして仕事を始めてからも、ジョビンのボサノバの譜面を探しては演奏していた。その頃から仕事のためにジャズもよく聞くようになったが、それでも自分で歌うことを仕事にしようとは考えてもいなかった。結婚してから子育ての期間は、自宅にピアノとエレクトーンを置いてはいたが、時々触る程度であっという間に15年が過ぎていた。

再びジャズピアノを練習するようになったのは、1993年に夫の仕事の関係でワシントンDC に住むことになったのがきっかけである。息子達が学校へ行っている間を利用してMontgomery Collegeに通うようになり、ジャズのコースをとるようになったからである。カレッジでは様々な体験をした。中国人の反日感情を体感したり、ベトナム難民が学費を優遇されていることを知った。あるとき”Are you a Vietnamese?”と聞かれて、自分では日本人のつもりでも、他から見るとアジア人の一人に過ぎないと思い知ったこともあった。


ジャズ演奏仲間と

そんな中で”History of Jazz”というコースをとった時、自分がジャズを好きだということを再発見したことは大きな喜びだった。ジャズピアノの個人レッスンが正課になっていることを知って、バンドのクラスとともに2年後にカレッジを卒業するまでそこでジャズを学んだ。ジャズボーカルは英語の発音の勉強になると思って始めたことだった。カレッジではボーカルに関しては何も学ぶものはなかったが、それをきっかけに日本に帰国してからジャズボーカルを習うようになった。

日本ではマーサ三宅先生のボーカルハウスに通うようになり、年2回行われる発表会で100人ほどの参加者の中から新人賞に選ばれ、その後ジャズクラブなどで唄う機会を与えられるようになった。カルチャースクールにある“ポルトガル語でボサノバを唄う“というクラスに通うようになったのもその頃である。3年間この教室で学んだおかげで今回のCDの中にポルトガル語のボサノバ曲を入れることができた。人前で唄うようになり自分一人でのライブも出来るようになった頃に、夫の転勤でロンドンに来ることになったのが2005年の3月であった。


ジャズ演奏風景

ロンドンでは唄うテクニックの点での転機を迎えた。こちらに来て2週間後から、日本人オペラ歌手、榎本明子先生のボイストレーニングを受けられることになり、このレッスンのおかげで今までの発声法の間違いを徹底的に学ぶことができ、これは今回CDを出すことの大きな力となった。毎月一回のロンドンライブを始めたのは渡英後半年もしないうちだったが、それまでにGuildhall音楽大学のオーディションを受けたり、アダルトスクールのジャズのコースを受けたりして、イギリス人ジャズボーカリストのレッスンを始めていた。その先生の一人Clare Fosterが、ライブのために一緒に演奏してくれるプレイヤーを紹介してくれたことに心から感謝している。

 ラッキーなことに、ライブでベースを弾いてくれることになったMalcolm Creeseは、George BensonやDiana Rossなどの著名なアーティスト達との共演を経て、英国ジャズ界でも有名なプレイヤーである。ボーカルを教えていただいているAnita Wordellは、昨年BBCジャズアワードを受賞したが、彼女のCDでピアノを演奏しているRobin Asplandがマンスリーライブに出演するようになったのは最近のことだ。この2人の素晴らしいプレイヤー達との出会いを、ロンドン生活の思い出として残したいと思ったことがCDを作る動機になった。幸いMalcolmがCDの会社を持っていたので、話はとんとん拍子に進んだ。

さらに、自分の中での曲想がトランペットプレイヤーを必要としていた。先に述べたClare Fosterの夫、Shanti Paul Jayasinhaはブラジル音楽に造詣が深く、ボサノバ演奏上まさに適役となった。そしてドラムは、今年の夏に参加したサマージャズコースの講師だったTristan Maillot。この4人のメンバーが10月9日と10日に、ロンドン郊外にあるRed Gables Studioに集まってくれた。素晴らしい演奏だった。後は音の調整とCDジャケットのデザインが残るばかり。1月には私の始めてのCDが出来上がってくる。

振り返ってみると、いつも前向きに突き進んできた自分がいる。目標を目指して少しでも先に進もうとしていると、それが大きなエネルギーとなってある形を創り出してくれた。毎日の生活の中では成長は目に見えてこないが、いつも自分の中に大きな夢を持っていれば、そしてそれに向かって遅々たる歩みを続けていけば、必ずそれは達成できる。この年齢になったからいえるのかな。Dreams Come True!

 

 

小池真理子(こいけ まりこ): 夫の転勤に伴い1985年から89年までシンガポール、93年から97年までワシントンD.C. そして2005年3月よりロンドンに在住。1996年、モンゴメリー・カレッジ卒業。1997年米国から帰国後、ジャズピアノを大徳俊幸に、ボサノバをポルトガル 語で唄うことを中村善郎に師事したのをはじめ、Anointed Mass Choirのメンバーとしての舞台活動も経験。1999年からマーサ三宅ヴォーカル・ハウスでジャズ・ヴォーカルのレッスンをはじめ、2000年に新人賞をとってからマーサ・ファミリー・ライブに出演するようになる。現在ロンドンの日本食レストラン、ソーホー・ジャパンで月一回"Saturday Afternoon Jazz"ライブを行っている。

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