リセッションプルーフ・ビジネスと不況風景のグローバル化
林 ゆう子 ◎対岸の火事? 私が住んでいるトロントはオンタリオ湖の北側に位置するカナダの金融中心地。車で1時間半ほど南下するとナイアガラの滝があり、川向こうは米ニューヨーク州だ。 米国発の金融危機は長らく、文字通り「対岸の火事」として扱われてきた。カナダの大手銀行は1990年代の業界再編を経て収斂されている分、米銀に比べて資本基盤が強く、投資手法も保守的だと地元メディアは説明していた。 2007─08年には原油高の影響で資源国カナダの通貨が一時強くなったことから、国境の南側まで陸路買い物に出かける人も少なからずいた。 もちろん、危機の影響が皆無だったわけではなく、金融・不動産・建設業界を中心に職が失われた。住宅市場では価格が下落したものの、サブプライムローンが比較的少ないことから、米国ほど深刻な事態には陥らなかった。
◎自動車産業に飛び火 しかしここへ来ていよいよ雲行きがあやしくなっている。ここ10年以上、財政黒字だったカナダ政府が、09年は過去最大の赤字が見込まれると発表したのだ。金融危機の影響が経済全般、特に自動車産業に波及したことが痛手となった。 米自動車産業の中心地デトロイトに隣接するウィンザーやトロント近郊のオシャワなどは、自動車産業への依存度が極めて高く、地域経済の構造的問題が浮き彫りとなった。 08年1月には5.8%だった失業率は、この3・4月には8%と7年ぶり高水準となり、5月はさらに8.4%に上昇した。カナダ経済は08年第4・四半期から2四半期連続してマイナス成長となり、公式に景気後退入りした。 今や対岸の火事がナイアガラ川とデトロイト川を越えて飛び火し、その煙が全土に広がった格好だ。 <GM車を撮影しようとトロントのダウンタウンを歩いたが、なかなか見つからなかった。 ◎リセッションプルーフ・ビジネス トロントでも閉店に追い込まれた飲食店・小売店が目に付くようになった。外食や買い物を控える人が増えたことを物語っている。ある食品卸売り業者によると、ホテルの客室稼働率も極端に落ち込んでいて、観光業も打撃を受けているとのこと。 企業の人事担当者からは、就労ビザがおりにくくなっていると聞いた。国民と永住者の就職を優先させるための措置らしい。新卒者の就職難は言わずもがな、有給のサマージョブを見つけるのも大変だと学生は嘆いている。 ただ、こうした不況の景色は、ほぼ万国共通なのではないだろうか。 半面、不況に強い業界・企業がある。トロントでは、例えば、ロマンス小説のハーレクイン・エンタープライゼスが健闘している。月に120タイトル超を29言語・6大陸107市場で発行している出版社だ。一般的に景気動向に左右されにくい業界と言えば、公益事業や食品・医薬品など、生活に欠かせないモノやサービスが挙げられるが、不況時にハーレクイン・ロマンスが売れる理由とは・・・安価で楽しめることに加え、幾多の苦悩や障害を乗り越えてハッピーエンドにいたるストーリー展開が受けていると、ヘイズ最高経営責任者(CEO)はTVインタビューで説明していた。 ハーレクインのほか、トロント・スター紙などを傘下に置くトースター・コーポレーションが開示している情報によると、なるほど今年第1・四半期は新聞やデジタル部門の広告収入が減少した一方で、出版部門(=ハーレクイン)が伸びている(ちなみに、日本で昨年から始まった電子コミック事業も寄与しているもよう)。 トロント郊外ミシサガを拠点とする映写システム開発会社IMAXのCEOは今年1月、世界経済フォーラムが開かれたスイスのダボスで、映画産業は不況知らずとの自負を示した。今年リリース予定のIMAX作品は最大10本で、昨年の7本を上回る予定ということだ。 カナダでは昨年のビデオゲームの売り上げも過去最高となった。 また、3月時点の小売店売上高統計を見ると、スーパーマーケットやビール・ワイン・蒸留酒の伸びが目立つ。 巣篭もり消費、外出しても映画館止まりという消費者の姿。コクーニング現象は今始まったものではないものの、世界的な景気低迷を背景にこうした傾向もまたグローバル化しているのだろうか。 ちなみに、カナダのヴァンクーヴァーは10年冬季五輪開催地であることから、マスコットをはじめとする関連商品も売れている。オリンピックの頃までには景気が回復しているとよいのだが・・・。
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