Love at the First “Step”:ダンスに導かれて 野辺 明子(Nobe, Akiko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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ワシントンと私

Love at the First “Step”:ダンスに導かれて:VIEWS 2010年春号(第21号)掲載

野辺 明子(Nobe, Akiko)

プロの競技会にて1
プロの競技会にて1

バージニア州アーリングトンにある「Dance Factory」というスタジオで社交ダンスのインストラクターを始めて5年半になった。アメリカに来てからもうすぐ10年。日本外国語専門学校でアメリカ留学科を出て、ウエストバージニア州Farimont State University で社会学と政治学を専攻した。卒業後は、国際的人道援助をしている NGOで働いてみたいと思っていた。ところが、私の大学生活を一変させたのが、社交ダンスとの出会いだった。

留学当初から寮に住んでいて、ルームメートが学期初めのダンスの練習会に一緒に行こうと言うので、全く乗り気ではなかったが付き添っていったのが運命の始まり。Love at the first sight (一目惚れ)ならぬLove at the first “step”で、すっかりはまってしまった。大学4年半、生活のほとんどは、寮の部屋、図書館、ダンスの練習場で過ごした。クラブ内でも私は一番練習熱心で(ちなみにこれ日本人の気質かと)、学期が進むにつれ、クラブの書記、部長、キャプテンまで務めることになったが、シャイだった私にとって、英語とリーダーシップを磨くとてもいい訓練になった。大学生の競技会にもたくさん出場した。州内にはほとんど社交ダンスの場がなかったので、レッスンを受けるのも大会に出るのも、チームの仲間と「フィールドトリップ」と気合いを入れて取り組んだのでとても楽しかった。

スタジオでのショーケースでプロ・パートナーとダンスを披露
スタジオでのショーケースでプロ・パートナーとダンスを披露

日本に居た頃は、ダンスといえば、地元の盆踊りか学校の体育会でやったものくらい。まったくの素人が、大学で学び始めて、インストラクターになり、敷居の高い講師資格試験をパスし、プロとしての競技生活も経験することができたのも、ほんとうに運に恵まれたと感じている。

アメリカの社交ダンスでいいなと思う点は、スタジオの外でも社交の場で踊る機会がたくさんあること、そして、幅広い年代の人がダンスを楽しんでいることである。結婚式、Promと呼ばれる高校卒業パーティ、ビジネスパーティ、海上クルーズの旅、ラテン系のナイトクブなど、ちょっとサルサやスウィング、ワルツ、フォクストロットが踊れたらずっと楽しみが増える機会があちこちに。特に男性は、踊れれば「モテル」!。さらに、ワシントンD.C.周辺では、いろんな国の大使館の舞踏会に行くとこも可能である。結婚間近の若いカップルやその両親など、イベント準備のためにスタジオを訪れる人もたくさんいる。私たちのスタジオの生徒は、10代後半から80代まで年齢層は実に様々だ。40代、50代の独身がもっとも多いように思う。最近の「Dancing with the Stars」などの人気テレビ番組も幅広い人をダンス惹きつける理由になっているようだ。私の母はこの3年ほど日本で社交ダンスをやっているが、地元のサークル内では58歳の母が一番若いメンバーである。ほとんどの人は70代以上。先日、弟の結婚式のために一時帰国したが、アメリカの生徒や友達に「踊ったの」と聞かれて、日本では結婚式で踊る風習はないのだと説明しなければならなかった。

プロの競技会にて2
プロの競技会にて2

私は、フルタイムのインストラクターとして、個人レッスン(80%男性、20%カップル)と2、3のグループレッスンを合わせて、毎週30レッスンほどを教えている。もう4、5年、最低週一回は私のレッスンに通ってきてくれる生徒も何人かいる。仕事の時間帯は、普通の職場勤めの正反対である。月曜日から木曜日のだいたい午後5時から午後10時、金曜日はほとんど仕事なし、日曜日は正午から午後6時まで教えている。その日や生徒さんの都合によっては、平日の正午、午後1時に教えることもある。自由業者のように、ある程度自分で仕事の予定が入れられて、とても便利である。

その他、週末の夜はスタジオ主催のダンスパーティがあって、10人余りのスタッフがローテーションでホストをする。大きなイベントとしては、年に二回発表会があり、各講師が生徒と組んで踊りを披露する。それぞれ違うダンスで曲を選び、音楽と生徒の個性や経験に合うように振り付けをし、練習に練習を重ねて本番となる。衣装や小道具も題目に合うように、それぞれの生徒と調整。時間と努力の要る作業だが、スタジオ全体の活気が一番盛り上がる期間でもある。毎回、100人を超える観客がスタジオを満たす、ほどよい緊張感と喝采に包まれた大切な夜になる。

私が、社交ダンスに感謝することは、まず、いろいろな人との出会いである。社交ダンスの最小ユニットはカップル。It takes two to Tango. 一人ではできないのだ。私自身が教えた生徒たちはもちろん、グループクラスや週末のパーティに来る人を含めたら数え切れない人と知り合いになった。風邪で寝込んでいる日にチキンヌードルスープを持ってきてくれる友達も、私の誕生日にアップルパイを焼いてくれる「お母さん」も、スタジオで知り合った人たちである。とてもありがたい。生徒同士もしばらくして顔馴染みになると、自然と友達になってしまうことがほとんど。リピーターが多いのも、この「Dance Factory 」ならではのファミリー的連帯感があってのことだと思う。

そして何より、社交ダンスは、自分自身をよりよく知るための勉強になった。私が私らしくいるには、等身大の自分を認めることが大切だと解かった。教え始めた頃は、講師として完璧であろうとしていつも精神的汗をかいていた。客観的自己確認と現実的な目的、そして計画設定に欠けていた。プロの競技会に出ることで、この点が浮き彫りになった。競技のためには、男も女も、より大きく強くセクシーでなければならない。周りのダンサーと比べて経験と野心に劣るのが目に見える中、完璧でありたい自己イメージと、見ている人の期待を裏切りたくないというプレシャー、ミスをする恐怖とで葛藤した。いくら人に褒められても、心の中ではnot good enough という不満でいっぱいだった。自分なりの上達のペースをつかむことができず、焦りで空回りしていたような気がする。そうして一年続けた後、競技からしばらく離れることにした。やめて、どっと安堵感を覚えた。競技に挑戦しなければよっぽど後悔しただろうし、「やらなきゃよかった」という気持ちは全くないが、今はやめる決断をしてよかったと思う。競技選手として頂点に立つことはできなかったが、自分を人間として成長させるいい経験をもらった。

5年半、基本的に毎日同じことをやってきて、正直、少し飽きたというところもある。もっと自分にできることが他にもあるのでは、と思うところもある。気持ちに余裕ができた今、これからまだ何にでも挑戦できる気がする。このまま講師を続けて、さらに上級の資格を取って審判員になるもあり。競技に戻り今度はゆっくりと長い目で取り組んでいくもよし。全くキャリアを変更し、もともと興味のあった国際支援の道に進むもあり。この一月で29歳になった。まだまた可能性は無限だ。

著者紹介

野辺 明子(Nobe, Akiko)

埼玉県出身。日本外国語専門学校アメリカ留学科を卒業して2000年に渡米。Farimont State University(ウエストバージニア州)から政治学と社会学で学士号を取得。在学中にダンスと恋に落ち、気が付けばインストラクターに。ロンドン拠 点の国際組織であるImperial Society of Teachers of Dancingから認定を受けている。



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