師の教え:京都東山慈照寺銀閣・花務佐野珠寶先生 美甘 朋子(Mikamo, Tomoko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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師の教え:京都東山慈照寺銀閣・花務佐野珠寶先生:VIEWS 2010年夏号(第22号)掲載

美甘 朋子(Mikamo, Tomoko)

京都東山慈照寺銀閣寺
京都東山慈照寺銀閣寺

五月の澄み渡る空の下、ワシントンD.C.の National Cathedral (ワシントンナショナルカセドラル)で「フラワーマートFlower Mart 2010」が開催され、そこで献花させていただく機会に恵まれました。立てさせていただいたのは、「慈照寺の花」・京都東山慈照寺銀閣に伝わる無双真古流の「立て花」。このお花は、室町幕府八代将軍足利義政公が、応仁の乱(1467~1477年)の後、東山殿に於いて同朋衆と共に「茶、花、香、庭、建築、水墨画、能」など「禅」の思想をもとにつくられ、日本人の美意識の礎として伝えられているお花です。足利義政公が開かれた「東山文化」発祥の地である「慈照寺、銀閣」で華務・花方をつとめられる師、佐野珠寶先生のご指導によるものです。師は、「生け花のはじめ」としてのお花への思想と精神性を伝えていただく「銀閣寺花道場」で、指導くださっている女性です(師は現在、フランス プチパレ美術館に於いて1年に1ヶ月「花道場」を開いていらっしゃいます)。

師の珠寶先生は、神仏に供える花(供花)の教えに基づき、「慈照寺・銀閣の花」は「大自然に素直に生きる草木花を観て人もその一部であることを実感するもの」と教えてくださいます。毎月一回、京都東山慈照寺・銀閣の「大江捕魚図」の大襖絵のある大書院に実社会を忘れ修行にのみ専念したいと願いつつ伺います。その稽古場には、凛とした空気が流れ、それぞれの花台に道具が寸分の狂いも無く置かれています。鋏、ノコギリ、小刃、なた、竹ぼうきなどの刃物類、使えなくては一歩も前へ進むことができません。花を留める「こみ藁」も意味深いものです。珠寶先生は、これを「天日干しして何度も使える500年前から続くエコなオアシスです」と表現されます。「こみ藁」は寒の頃に何度も水をかえて灰汁を抜いた藁を花器の高さにあわせてその都合つくり直します。なににおいてもそうであるように土台が全てを左右します(自らの人生の反省をいたす大切な時間です)。

佐野珠寶先生
佐野珠寶先生

そして師は、見えていない部分こそが一番大切です、とおっしゃいます。お花を立てる際、常に対象には正面から向き合い、「立て花」の本来の意味である「仏様にお供えしたお花」は仏様の方が正面となります。いつもこれを意識して立てたお花は、自然と四方から見て「円い花」になっていることが理想です。以前、インド・ラダック地方のアルチ・チョスコル寺を訪れた時、草木一つない岩山(ダライ・ラマ14世がこの地方を通ってインドへ向われたとのこと、さぞかしの……と思える光景でした)の寺院で仏様にたむけられた白いお花は、まさに仏様側に向かい合っていました。それから14年経た今、これを理解できることの幸せを感じます。花の生命と自分の生命、見えないところと見えるところがあり、「立て花」はお互いの和を求める精神の修道場であることを、花を完成させるプロセスの中で教えられます。これが、師が語られる、「互いを尊重し平和を求める、それが美」なのです。500年の昔、足利義政公が求めた平和という理念、美を追求し、芸術をつくり上げた精神。その精神を受け継いだ「立て花」を、9.11の追悼式が行われ人々が平和を祈り続けたNational Cathedralにて献花できましたのは、500年もの時や、京都東山ーワシントンDC間の距離も含めて、「花」は、民族・国家・時間を超越して平和を表現しているという、師の教えがあったからこそでした。人間という本質が求めるものに違いはないということ、アメリカと日本という国の違い、文化の違い、神様と仏様の違いがあっても、そこに集まる人々が求めているものは平和だということをまさに身を以て体験した貴重なものでした。

ワシントン ナショナル カセドラルに於いて
ワシントン ナショナル カセドラルに於いて

ワシントンナショナルカセドラルに於いて、その昔、海外生活をはじめるおりに私に、「いろいろな国や言葉がちごうてもみんな同じ人間なんやさかい、きっとおなかん中では同じことを願うてはることやと思うえ。おいしいとか美しいものとかいうのは、国が違うても同じなんやと思う。みんなまるい円の中でくらしていくのやしな」と言われた武者小路千家懐石料理研究家の故千澄子先生(VIWES2009年夏号、http://www.wjwn.org/views/09summer/mikamo.htmlに同先生のレシピを掲載)の言葉も蘇ってまいりました。その時には判らなかったことも、こうして経験を重ね、体験しているうちに目の前のレースのカーテンをひいたようにクリアにわかる瞬間がいずれ来るということでしょう。その師の教えの大切さを感謝し日々の精進を重ねていく人生を送りたいと願っています。

著者紹介

美甘 朋子(Mikamo, Tomoko)

武者小路千家官休庵茶懐石料理進典、千茶道文化学院にて千澄子(十三世家元夫人)に師事する。京都平安女学院卒業、夫の赴任に伴い、ダッカ、ニューデリー、北京、 カイロに暮らす。現在、メリーランド州べセスダに在住。一男一女。趣味は、お茶、お華(未生流師範、生け花インターナショナルワシントン支部会員)、現在、銀閣寺慈照寺同仁花、フラワーデザインニューヨークスタイルを勉強中。  



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