フランスの大学と受験システム 大野=デコンブ 泰子(Ono=Descombes, Yasuko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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特集:受験事情あれこれ

フランスの大学と受験システム:VIEWS 2010年夏号(第22号)掲載

大野=デコンブ 泰子(Ono=Descombes, Yasuko)

フランスでは大学に進むのに大学別の受験はなく、いわゆるバカロレアと呼ばれる高校卒業資格がそのまま大学入学資格なので、それが日本の大学受験に相当するのかもしれません。バカロレアは全国的に一斉に行われます。大半の者が取得し、取得すれば大学に入学できます。しかし、誰でもがその後進級できるわけではないので、大学にさえ入れば一安心といったものではありません。因に文科系の1年生では毎年平均半数が落第、そのうちのまた半分は大学での勉強を諦めて、専門学校などに進路を変更していきます。

その他、受験に相当するものといえば、グランゼコールのコンクールでしょうか。高校卒業生数全体のほんの5%ぐらい(このごろは理系のグランゼコールが増えて来たのでもう少し多いかもしれません)の学生が、高校卒業後約2年間、グランゼコールのコンクールに備える準備学級で鍛えられてからコンクールに挑戦します。コンクールは一次と二次試験があり、それぞれ科目別に試験は3、4日続きます。(グランゼコールというのは、一連のエリート養成機関で、理系、文系、経済系、そしてビジネス系、と分かれています。理系やビジネス系のグランゼコールの増加で、一概に語るのは難しくなってきましたが、一応一般に言われているのは、グランゼコールは将来のエリート官僚や理工科系、あるいは文系のスペシャリストを養成するということです。グランゼコール出身者は会社に入った場合、新入社員の時から普通の大学院出身者よりも格段高いお給料を給されると言われます。)

ただ、これは全体からみるとほんの一部の学生たちのことで、この進路の選択は成績が良いということのほかに、そうした受験体制に耐える覚悟がないと、かえって貴重な青春の一時が灰色、ということにもなりかねません。そういうことを考慮にいれて、実力があっても大学でマイペースを保ちながら自分の好きな学科で勉強する方を選ぶ学生もいます。ただ、大学には勉強をするということに対する自覚のない学生も入って来るので、意志を強く持って、自分で自分のスケジュールをしっかり管理していくことが必要です。つまり、グランゼコール受験の道を選ぶ学生と、最初から大 学に登録する学生を比べると、受験をめざす準備学級の学生たちは最初から厳しい訓練を受けることを覚悟しているわけで、馬車馬のように勉強させられます。一方大学の学生たちはそれぞれ自分のペースで勉強するので、プレッシャーがないだけにうっかり怠ければ落第ということにもなりかねません。ですから、大学では 本当に自分のペースを確保している学生は伸びますが、怠け者は脱線したり、進級するのに何年もかけたりしています。(医学や司法関係を目指す学生には準備学級はなく、高校卒業後すぐに大学に進みます。医学部も大学ですから1年目は誰でも登録できますが、2年に上がるのはその20%と言われているほど でなかなか大変なようです。)

グランゼコールのコンクールに合格すれば、晴れてエリート養成機関に入りますが、コンクールに落ちた場合は、多くの学生は大学に編入します。大学で勉強して、それで本当に達成したい目的に向かって行けるのなら、それはそれで失敗も人生経験なのだと思います。人生いろいろあっていいはず。受験に受かる受からないは人生のほんの一部分、所詮生きるのは自分なのですから、要はいろいろな出来事にどう対処していくかです。本当にしたいこと、自分が人生で望んでいる事が何なのか、彼らの歳でそれが分かっているなら大したものです。17、18、19、20歳の若者たちのどれだけが、本当に自分のしたいことを知っているのか疑問です。

それにしても、フランスの大学の雰囲気が、日本やアメリカの大学のキャンパスで見かける青春謳歌の雰囲気とは ちょっと違うように感じられるのは、キャンパスの有無の問題だけではなく、原則的に経費は国の負担となっているフランスの大学と社会との結びつき方とも関係しているのでしょう。フランスの大学は、学問の場でありながら、ともすると、日本のような学生たちの為のつかのまの学問と青春の場というよりも、むしろフランス社会の若い市民に向かって開かれた文化的空間のような観も醸しています。

著者紹介

大野=デコンブ 泰子(Ono=Descombes, Yasuko)

仏国オルレ アン大学文学部准教授(応用言語学科、日本文化史及び日本語)専門は日本文化論(伝統文化と現代性を廻る文化変容に関する考察)。2001年より 現職。在仏25年(米国滞在7年)



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