渡米からベリーダンスまでの系譜 小出 治子(Koide, Haruko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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渡米からベリーダンスまでの系譜:VIEWS 2008年夏号(第14号)掲載

小出 治子(Koide, Haruko)

ベリーダンス1
Photo by John H. McShane

2002年7月に渡米し、ワシントンDCに住んで今年の夏でもう6年になる。連れてきた小学5年生だった息子もこの秋からLangley High SchoolのJunior(11年生)である。渡米のきっかけは、IFC(国際金融公社)という世銀グループの会社に就職が決まったからだった。それまでは、Boston Consulting Groupという経営コンサルティング会社の東京事務所で、昼も夜もなく働いていた。一人息子も学童保育とベビーシッターの大学生に育ててもらっているような状況だった。そんな中「ティーンエイジャーになると、男の子なんてお母さんと口きかなくなっちゃうわよ」と聞き、「子育てをしないうちに、口をきかなくなられたら困る」と思って、息子との時間を作るために転職を決めた。

渡米後の1年半ぐらいは、生活の焦点を息子との時間においた。英語をまったく話せない息子がうまく現地の学校・生活になじめるようにと、家には毎晩6時ごろには帰宅して息子の宿題を一緒にやったり、学校にも何度か一緒に登校し、息子のそばに座って同時通訳の役割を果たしたりした。お陰で息子はいまではアメリカの学校にすっかりなじみ、ミュージカルの舞台に立ったり、高校のファッション・ショーでモデルとして踊ったり、ハイスクール生活を満喫しているようである。母子2人でアメリカ生活を一緒に立ち上げてきた連帯感からか、16歳になった息子は「口をきかない」どころか、相変わらず母親と楽しげにおしゃべりをしてくれる。

息子の生活も軌道に乗りやれやれと思って、ふと気づくと自分のことがすっかり後回しになっていた。日本にいたときは、子育てとの両立とか、自分のキャリアを積むことにひたすらがんばってきたので、生活を楽しむ余裕なんてまったくなかった。息子は自分の人生を切り開いて、ますます自立していってしまうだろう。ひとりになった私はどうしたらいいのか。「これはまずい」と焦りを感じた。しかし、それまで十数年も子供と仕事ばかりの生活をしてきたのである。美容院や歯医者に行く時間も惜しんで走ってきた私は、急に「なにか楽しいことを始めよ」と言われても、情けないことに何から始めていいのかよくわからないのであった。

そんなとき、ベリーダンスに出会ったのである。きっかけは、何の気なしに行ったスポーツジムでのフリーレッスンだった。エキササイズに行ったら、ちょうど"Belly Dance Free Lesson---Today at 8 pm"というポスターが目に入ったのだ。時計をみると8時5分前ではないか。つられるように、スタジオにはいった。その後、「技術的な面を本格的に習おう」と思い、ダンス・スクールのクラスを週1回取ることにした。こうしてクラスを取り始めて、もう2年半になろうとしている。

ベリーダンスは、エジプト、トルコ等アラブ全域で踊られる女性による即興のソロダンスで、古代エジプトでは出産を助ける女神を奉り、繁栄と豊穣を祈って女性のために踊られたのがはじまりとされている。肌を露出した衣装を着て腹部や腰をくねらせて踊るため、最近ではイスラム教国であるアラブ地域では法律で禁止されているとも聞くが、本来は女性の持つ優しさ、生命力、個性の輝きなど表現するための踊りである。

私が個人的にベリーダンスに魅せられている理由として次の4つがある。

ベリーダンス2
Photo by John H. McShane

  1. 「肌を露出して腰をくねらせて踊る」ような、はしたないことを人前でするなと教えられて育ったため、非常に女性的でセクシーな動きを人前で堂々とできることに快感を覚える(「やってはいけない」と言われることをやる快感)。
  2. ベリーダンスの動きを実際にしてみると、女性性を美しく表現するしぐさが多く、見ていても美しい。普段あまり表に出さない側面、自分の中の女性性を発見できるのが目新しいし、また、それを表現する手段があることがうれしい。
  3. 最近のベリーダンスは、Hip Hopの要素も取り込んだフュージョンとよばれる新しいスタイルの踊りも入っており、踊っていて楽しい。
  4. 身体的なダイエット効果については確かではないが、おなかを露出して舞台に立つため、おなかを平らにしなきゃという意識が強くなり、心理的にダイエットに役立つ。

昨年ぐらいから、ベリーダンスへの熱が益々高まり、クラスを取っているだけでは物足りなくなり、舞台に立ってパフォーマンスをしたいと思うようになった。現在は、オーディションに無事合格して2つのダンス・カンパニー("Ensemble Mumtaz"、"U St. Caravan")に所属している。”U St. Caravan”はDC Dance Festivalでも踊るダンス・カンパニーで、最近ではチケットが公演の数週間前には売り切れるほど、人気も出てきているようだ。女性13人のダンサーからなるグループで、ほかの多数は若い独身女性ばかりなので、その中に高校生の息子がいる40代半ばの私が混じっているのはいかがなものかと思わないでもないが、小柄なアジア系というのが幸いして、周囲はあまり違和感をもっていないようだ。

今年は、3月、6月、9月と3回2つのカンパニーによるショーに出演、いずれも5曲ずつ踊った。来年2月にはKennedy CenterのMillennium Stageでも踊るかもしれない。きらびやかな衣装を曲ごとに変えて、舞台に立つのは楽しい。毎週2-3回のリハーサルとクラスがあって時間的拘束は長いが、その分ダンス仲間との友情も深まった。非日常の中で新しい自分を楽しむ方法を見つけたことは、私にとって大きな喜びである。

著者紹介

小出 治子(Koide, Haruko)

津田塾大学学芸学部卒。国際基督教大学(ICU)大学院から米国コーネル大 学修士課程政治学科に留学、修士号を取得。第一勧業銀行、KPMGピートマーウィック(MandA部門)を経て、1996年ボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社。2002年に渡米、国際金融公社 (IFC) のインベストメントオフィサーとして、開発途上国における民間プロジェクトの投融資に従事。今秋大学進学の息子と2人でバージニア州マクレーン在住。



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