アメリカで落ち込まないための処世術 スポールディング二宮 陽子(Spalding Ninomiya, Yoko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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ワシントンと私

アメリカで落ち込まないための処世術:VIEWS 2007年夏号(第10号)掲載

スポールディング二宮 陽子(Spalding Ninomiya, Yoko)

私は今年でアメリカ在住40年になります。日本のコメディアン綾小路きみまろさんの「あー、あれから40年!」で始まるジョークではありませんが、40年という歳月の重さを感じています。人生哲学といえば大げさですが、この40年で私なりの処世術を身につけたように思います。

「今日も暮れ行く異国の丘に」の歌が身に滲むような貧乏留学生活を始めたのが1967年。右を向いても左を向いても他人だらけの私を案じる母の手紙を励みに、そして母校京都ノートルダム女子大学のシスター方の祈りに支えられて、心身病むことなく、今日まで無事に過ごしてきました。

アメリカで落ち込まないための処世術は、その人となりで異なるでしょうが、私の経験から言いますと、まず独立心を養うこと、体力と気力を養うこと、人との付き合いで余り深く悩まないこと、趣味を多く持ち気持ちの切り替えが出来るようにすること、警察、弁護士、医者の世話にならないように気をつけること、常に好奇心と目標を持って怠慢に陥らないよう自分なりに努力、精進すること、などです。

経済的独立

アメリカでは、独身、既婚者を問わず経済的に独立すること(独立するよう努力すること)が必須です。そのためには、時間はかかりますが、英語を勉強し、仕事に就いて、少しでも自分の収入を得て生活するよう努力することです。アメリカの既婚女性の大半は共働きですが、その理由のひとつは、意外にもアメリカの男性がお金に細かいからと言われています。これが日本の既婚男性と大きく異なるところです。アメリカでは、夫が財布のひもを握っている家庭がよく見受けられます。そういう我が家もご多聞にもれず、私の夫は収支をいちいちチェックする人です。しかし、私もお金では苦労しましたので、37年前結婚する時の約束で、財布のひもは今でも私がしっかり握っています。言いにくいことは結婚前に言っておくと後が楽です。若かりし頃の私でしたが、貧乏留学生の生活がそうさせたのでしょう。「えっ!」と驚く夫に構わず、「日本では家計の切り盛りはすべて妻がするのだ」と強引に日本の習慣を押し付けました。これが現在に至るまで心身とも落ち込まなかった原因のひとつだと自負しています。夫は「しまった!」と後悔しているようですが、全ては後の祭り。私は自分の思い通りの生活を楽しんでいます。私がずっと働いてそれなりの収入があった点も大きいと思います。精神的に自由を謳歌するためにも経済的独立は欠かせません。

移動の脚の確保

アメリカでは、ニューヨークやサンフランシスコなど交通機関が発達している大都会を除いては、毎日の生活に車の運転が必須です。ここワシントン首都圏でも、地下鉄やバスなどがあり、通勤時間帯はかなり頻繁に走っているものの、それ以外は1時間1本位しか走っていないこともあります。おまけに郊外に住んでいますと、その地下鉄駅やバス停まで車で行かなければならないことも多いのです。学生は、キャンパス内や学校の近くに住むことが多いので、車を持たない方が良いかと思いますが、一般の方は、1年や2年の短い滞在でも、買い物や郊外に住む友人を訪問する時など車が必要になります。まして長期滞在の方は、運転免許を早く取得して車を運転されることを強くお勧めします。人に頼らず行きたい所へ自由に行くことが出来るのも、気が滅入った時の打開策のひとつになります。私の母がこちらに2ヶ月ほど滞在したことがありますが、運転免許のない母はちょっとお豆腐を買いに行くのも、車に乗せてもらって行かなければならない不便さに辟易していました。それが証拠に、二度とこちらに遊びに来たいとは言いません。運転免許の筆記・実技試験は、学校で語学の勉強よりはるかに易しく、免許は案外早く取れます。

何事もNever too late

アメリカで落ち込まないための私流の三種の神器は「学歴、職歴、芸歴(順不同)」です。このひとつでもあれば、ある程度の職には就けるし、人の輪が広がり、人の役にも立て、ひいては生きていて良かったなあと感謝の念さえ湧いてきます。勉強したり、働いたり、趣味のお稽古事をしたりするのに、「今さら」とか、「これからでは遅すぎる」ということはありません。Never too lateです。日本ではよく「思い立ったが吉日」と言います。先日フジサンケイテレビで、加山雄三さんが「若大将も70歳の古希を迎えましたが、これから日本縦断リサイタルをします」と張り切っていました。「何かを始めるのに遅すぎることは絶対ない」、そして「人生、死ぬまで勝負だ」 と言っていました。全く同感です。英語を学びたければ、外国人のための英語のクラス(ESL)が、あちこちの教会であるし(無料で教えてくれる所が多い)、レベルに応じてコミュニティーカレッジで勉強するのも良いし、学位や資格希望者は、専門学校や大学、大学院で勉強すると良いと思います。折角アメリカにいるのに、英語を勉強しない手はありません。英語が通じるようになると、アメリカ人はもとより、外国人の友達もできるし、言いたいことが言え、胸のつかえがとれ、心が晴れ晴れして、もっともっと勉強しようという意欲が湧いてきます。

外国人でも向上心と勤勉さがあれば、アメリカンドリームを手に入れることが出来ます。目標を掲げ、体力と気力そして能力(私はこの順序だと思うのです)を養い、目標達成に全力投球する生活を送りたいものです。そして運を当てにしたり、人の運の良さを妬んだり、自分の不運を嘆き悲しんで自分を悲劇の主人公にするのは避けたいものです。他人との比較は不幸の始まりと言われますから。

思えば家族の反対を押し切り、当時の留学生に必要だった大きなレントゲン写真を持って、お金はなかったけれど、夢と希望と情熱そして若さをたっぷり抱えた、たった一人のアメリカ留学生活が始まった1967年の夏から、もうすぐ40年になります。この40年は、長かったようでもあるし短かったようでもあります。様々な人と出会い、幾つかの仕事に就き、数々の境遇に遭遇して、その都度危機を乗り越え、私なりの人生経験を重ねてきました。「今日も暮れ行く異国の丘に...」と、どこかしこも他人だらけだった私を心配した母は、今年で90歳になります。今やアメリカは、私にとって異国ではなくなり、他人だらけではなくなっています。

著者紹介

スポールディング二宮 陽子(Spalding Ninomiya, Yoko)

通訳、翻訳者。さくら協会会長



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