私を成長させてくれる街ワシントン 鈴木 忍(Suzuki, Shinobu) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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ワシントンと私

私を成長させてくれる街ワシントン:VIEWS 2007年春号(第09号)掲載

鈴木 忍(Suzuki, Shinobu)

今年でワシントンDCに住み始めてからちょうど10年になります。バージニアの大学院に来たのがこの辺りに住むきっかけになったのですが、来た当時は大学時代を過ごし、友人も多く残っているシカゴにいずれは戻るつもりでいました。でもDCは想像以上に居心地がよく、いつの間にか居着いてしまったという感じです。

DCは古い町並みの残る美しい町です。また、自然豊かで、春にはポトマック川の入り江沿いの桜を、秋には国立森林公園で紅葉が楽しめるのは、日本人である私にとって大きな魅力です。いろいろな人種が混ざり合っている上に外国人も珍しくないので、自分が外国人だということをほとんど意識せずに生活できることも、ここを居心地良く感じさせる大きな要因であると思います。でも、やはりそういった環境だけではなく、DCで出会った様々な人達がこの町をいっそう魅力的に感じさせるのだと思います。

例えば、職場を通して知り合ったポリシーウォンク達。まだ今の職場Congressional Budget Office(CBO)で働き始めて間もない頃、あるパーティーで仕事は何をしているのかと聞かれ、CBOのアナリストだと答えると、「じゃあ、あなたはポリシーウォンクですね」と言われ、全く自覚していなかったのでちょっと驚いたことがありました。仕事柄そう思われても不思議はないのですが、根っからのポリシーウォンクとしか形容のしようがない同僚たちを見ていると、自分はまだまだポリシーウォンクとしては半人前だと感じます。まず、同僚たちは、政治家の動向、また自分の専門の如何にかかわらず様々な政策とそのプロセスについてかなりの知識を持っており、しかも純粋に一個人として感心を持っているのです。だから、仕事の一環として政治、政策について勉強している自分とは、情報収集のスピードも理解度も全く違うように感じます。州またはカウンティーのレベルであろうと、国家のレベルであろうと、政策に関心を持ち、その将来を本気で心配する人達と毎日共に仕事をするのは、色々な意味で刺激的であり、勉強にもなります。

また、つい最近のことなのですが、ある朝同じco-opに住むAさんが今日は寒いからと言って、メトロの駅まで車で送ってくれたことがありました。 会えば少し立ち話をする程度で特に親しい間柄ではないのですが、70歳前後のとても感じの良い方です。彼女は私が車に乗るとすぐ「私、今リビー裁判に夢中なの!」と言うのです。もちろん、新聞やテレビのニュースで裁判についてある程度は知っていましたが、有罪判決が下されるのだろうか、という程度の興味しか持っていませんでした。でも彼女は私が車に乗っていたほんの5、6分の間にリビー、フィッツジェラルド、チェイニー、更には陪審員に選ばれた人々についてまで、彼女なりの評価を興奮気味に語ってくれました。「目が離せない」のだそうです。Co-opの運営や、コミュニティーの活動にいつも積極的に参加している彼女に「さすがだな」と思わされた一場面でした。

DCで出会った友人達にも感心させられることが頻繁にあります。電気技師である友人は自分の技術をハリケーンの被害に遭った人達のために役立てたいと、自費で被害地域へ出向き、壊れた家屋の修復を手伝っていたそうです。コンピュータープログラマーである別の友人は、所得の低い(そしておそらくは教育レベルも低い)人達の納税申告の手伝いをするボランティアを始めたと話していました。理由は自分にできることだから、だそうです。医者であるまた別の友人も忙しいスケジュールの合間をぬって、糖尿病の子供達のキャンプでのボランティアをここ何年も続けています。面倒だし忙しいからと、ついつい人任せになってしまう社会貢献を、ごく普通のこととしてやってのける友人達を見ていると、自分も社会の一員としてもっと積極的に自分の責任を果さなければ、と感じさせられます。

また別の意味での出会いなのですが、DCには政治家やちょっとした有名人、それに由緒ある家柄の人々が大勢住んでいるので、そういう人達を見かける機会が比較的多くあります。仕事でキャピトルへ行ったりすると、有名な(=自分でも知っている)議員の方を見かけたりすることがあります。政治に多少なりとも興味を持つ者としては、それは良い話の種にもなるし、ちょっとエキサイティングな出来事でもあります。また、様々な人種、階層の人々が混ざり合って住んでいるのを目の当たりにするのは色々な意味で社会勉強になります。数年前のことですが、芸術を支援するためのパーティーに参加する機会がありました。それは多分普段は私が招待されることなどあり得ない様なイベントなのですが、会場が日本大使館であったので、主催者側に知り合いがいるという友人がわざわざ招待状を取り付け誘ってくれたのです。ポリシーウォンクの一人であるその友人は会場に入るなり、目ざとく最高裁判所裁判官のルース=ギンズバーグを見つけ、その後も他に政界の大物はいないかと目を光らせていました。そこに集まっていた人々の大半はDCのglitterati、特に時間もお金もたっぷりある人達の様でした。オークションも大方終わり、大使館内にある茶室を見せてくれるというので小さなグループと共に説明を受けながら見学をしていると、近くにいたお年寄りの女性達が「Japanese are so interesting!」と話しているのが聞こえました。その言い方があまりにも珍しい生き物を初めて見たという様な言い方だったので、友人達と苦笑しながらも、実際別世界に住んでいる人達がいる事を今更ながら実感しました。

1990年に父親の転勤でアメリカに来て以来、ケンタッキー、テネシー、シカゴ、バージニア、そして今のワシントンDCに落ち着くまで様々な経験をし、その度に色々学んで来ましたが、DCでの10年間が自分を一番成長させてくれた様に思います。

著者紹介

鈴木 忍(Suzuki, Shinobu)

1997年からワシントンDCでリサーチアソシエートとしてヘルスケア関係の仕事に従事。2003年よりCongressional Budget Office のアナリストとして、主にMedicareやMedicaidに関する法案の国家予算に及ぼす影響を分析する。



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