用事あれこれ 中林 美恵子(Nakabayashi, Mieko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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ワシントンと私

用事あれこれ:VIEWS 2006年秋号(第07号)掲載

中林 美恵子(Nakabayashi, Mieko)

ワシントンDCは勝手知ったる安心感を私に与えてくれる街だ、といつも思う。長期間住んでいたからだけでなく、東京よりも小さいので何が何処にあるか分かり易いし、さらに家族のように親しいアメリカ人達がこの街に多いからだ。それに服や靴も殆どワシントンDCで買っている。東京では私の体が大き過ぎるらしく、服の袖が短かったり靴のサイズが無いと言われたりするのは日常茶飯事なのに、DCではそんなことないのだから嬉しい。

そんな訳で、2002年に14年ぶりに日本へ居を移してからもワシントンには頻繁に足を運び続けている。泊まる場所はかつて自分で購入したコンドミニアム。今年4月に大学勤務になってからは、どうも時間のやりくりがマスターできないものの、この9月にもDCを訪れる機会を得た。CEPEX(Center for Professional Exchange)とジョージタウン大学の共催によるシンポジウム(9月15日)に参加するためだ。この日は、パネリストを務めた私の方が、学ぶことや知らされることが多く、非常に勉強になったと感謝している。前日まで参議院で講師をしたり日本のシンクタンク構想日本でパネリストをしたせいもあって、DCで会場を埋めた参加者の方々の広く深い専門知識や経験には、思わず感嘆した。ワシントンDCが政策議論と知識の宝庫だというけれど、遅ればせながら確かに何かが違うと肌で感じた次第である。

DCには他にもいろいろと楽しみがある。長期にわたり朝から晩まで一緒に働いた元の同僚たちに会ったり、政治の裏話に花を咲かせたりすることだ。ただ最近は皆があちこちの職場に散り始めているので、一人ひとりを訪ねていると途方もなく時間がかかる。以前は、連邦議会上院の予算委員会あるいは上院の建物に足を運ぶだけで相当の関係者に会えたのに、この頃は各人が様々なキャリア・アップを実現しているため、上院のみならず下院や行政府、シンクタンクからロビイング・ファームまでウロウロさせられてしまう。

手間がかかるようにはなったものの、それは一方で、話しの幅が広がるという面白さもある。かつて議会合同経済委員会のスタッフだった友人などは、この春に財務省から労働省に転職し省のナンバー3になってしまった。2000年の選挙でブッシュ陣営に貢献度が大きかった人物だが、(当時私が彼の集金作業に協力したせいなのか何なのか)どうも義理を感じてくれているようである。早速、彼の新しいオフィスに行ってみた。昼食(もちろん割り勘)に出かけたが、ナンバー3ともなると、二人もの秘書と運転手が付くことを、この時初めて知った。議会では上院議員でさえ更には委員長でさえ運転手は付かなかったのに。ただし日本と違って、運転手と車が片道ごとに変わるし道端に駐車して待つこともない。昼食の前に、中南米の国の大使館のレセプションに顔を出したこともあって合計3回乗ったが、最初がワンボックスカーで残りの二回は黒塗りの乗用車だった。運転手も気さくで、日本のホラー映画の大ファンだという話しになり、日本には世界一怖い作品が揃っている、などと盛り上がった。

上院予算委員会(共和党側)で同僚だったある女性は、昨年、カリフォルニア州選出下院議員の予算担当スタッフとして転職した。私の最も親しかった同僚の一人だ。彼女との昼食はいつもとてつもない長さになる。今回も、議会の休会中でもないのにオフィスから呼び出しが無いからと、午後1時から4時まで夢中になっておしゃべりをしてしまった。昼食は、NYの国連総会でベネズエラのチャベス大統領がブッシュ大統領を悪魔呼ばわりした演説の後だった。レストランで腰掛けるや否や、今日は非常に悩ましい日だと言う。聞けば、国連総会の演説は始め聞いていなかったのだが、下院議員のオフィスに電話がひっきりなしにかかって来てチャベス大統領の演説を知り、早速テレビで観てみたところ、実に多くの総会出席者が拍手喝采していてショックを受けたのだそうだ。いったいアメリカは世界からどのように見られているのか・・・それが余りにも不当な評価になりすぎてはいないか、アメリカ人について人々は何を考えているのだなど、会話は果てしなく広がっていく。(詳しい内容はこのコラムの趣旨ではないので、ご想像にお任せする。)

また、予算委員会時代に私の上司だった人物は、現在フリスト院内総務の下で財政政策を統括している。彼と彼の夫人は2002年に私が結婚する直前、自宅に議会と行政府の関係者を集め盛大なウエディング・シャワー・パーティーを開いてくれた。私と婚約者がウエディング・ケーキにナイフを入れるシーンまで用意してくれたほど、温かく思いやりに満ちた共和党の幹部である。その彼が、私に会うなり(自民党総裁選挙の直後だったので)「今度の政権をどう思うか」と聞いてきた。

勿論それは私が聞きたい質問だったので、逆に聞いてみると「ちょっと酷い政権になりそうだね。あんなに右寄りのナショナリストで本当に大丈夫なのか」という予想外のコメントだった。安倍政権とは何の関係も無い私だが、思わず安倍氏を擁護せねばならない展開となり、一般的な限られた知識でつたない解説を試みた。それにしても、そんな雰囲気の理由には、前の週に行われた下院外交委員会で日本とアジアの関係についての妙な公聴会があるのではないかと思いきや、上院の主流で忙しい人物たちは下院の些細な公聴会に注目している暇はないようだった。結局、ほとんどの情報源はマス・メディアだったと判明。確かにアメリカの新聞には、安倍氏をナショナリストと呼び危険な匂いさえ漂わせる記事も見受けられた。せっかくドール・ビーチでゴージャスな景色を眺めながらの話しだったのに、ひどくもどかしい気分になる話題であった。

夕食会なども含め、親しいアメリカ人とのおしゃべりは切りがない。それらが積もり積もって、DCは私を家に帰ったような気分にしてくれる。それに日本に居ると日本専門家あるいは日米関係を仕事にするアメリカ人のコメントが多いので少々食傷気味になってしまうが、DCに戻ると政策立案の主流でありながら必ずしも日本を職業のネタにしていない人々とも、たくさんの話しができる。自分の中でバランスを取り戻せる貴重な機会なのである。

DCの自宅では、私の留守中に上階のパイプ工事のせいで天井が被害を受け、その修理の手続きやら保険会社との調整やらで、なかなか面倒なことも多い。DCとのパイプ(こちらは人とのつながり)をキープするにも、いろんな意味で手間・暇・お金がかかると言える。公私共に、DCに舞い戻る理由は数限りないのである。

CEPEX(Center for Professional Exchange):2005年の設立当初から理事・副所長を務めさせて頂いている。2006年には内国歳入庁(IRS)に501(c)3の認可を受け、最も公共性が高いと認められた税免除のNPOとなった。

ドール・ビーチ:Bob Dole院内総務の時代、彼が最も好きな場所としてよく座っていた国会議事堂内の院内総務オフィスに付属するベランダのこと。ワシントン記念堂を正面に見据え、大変な絶景である。

著者紹介

中林 美恵子(Nakabayashi, Mieko)

1992年ワシントン州立大学大学院にて政治学修士号取得。在学中に米国永住権を得て、卒業後、連邦議会上院予算委員会スタッフとして正規採用され、1993年1月1日から2002年4月2日まで勤務。2002年から独立行政法人経済産業研究所研究員等を経て2006年4月より跡見学園女子大学マネジメント学部助教授。早稲田大学と日本大学でも教鞭を執り、文部科学省科学技術学術審議会・国際委員会の委員なども務める。



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