ボルチモアと私-メリーランドと神奈川の架け橋に 岡島 喜久子(Okajima Murray, Kikuko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

VIEWS

ワシントンと私

ボルチモアと私-メリーランドと神奈川の架け橋に:VIEWS 2006年夏号(第06号)掲載

岡島 喜久子(Okajima Murray, Kikuko)

ボルチモアに5世代続けて住んでいる夫とシンガポールで知り合いになり、東京とクアラルンプールの長距離恋愛3年半を経て結婚したのが1991年だった。交換留学生として1年留学した大学がオハイオ州、ケミカルバンクの研修で1年過ごしたのがニューヨーク・マンハッタンで、ボルチモアとのつながりは結婚以来、夫を通じてのものである。結婚前の1年間は二人とも東南アジアに住んでいたが、夫の希望でボルチモアに移り住むことになった。本人が高校卒業以来一度も住んだことがないのにもかかわらず、さすがに夫の家族は地元ボルチモアでは知り合いが多く、私が仕事を探し始めて2週間でボルチモアに本社がある金融機関すべてと役員面接をセットしてもらい、そのうちのひとつ、First National Bank of Maryland(現M & T Bank)の国際部で、日本企業担当の仕事を始めた。

たまたま1991年はメリーランド州と神奈川県の姉妹州提携10周年に当たり、会議やレセプションがかなり頻繁にあった。上司が姉妹州・ビジネスコミッティの活動に参加していたことから、レセプションやミーティングに行っているうちに、姉妹州交流に深く関わることになってしまった。自分ではよくわからないうちに巻き込まれたという感触であるが、周りからは、ぴったりの人がボルチモアにやってきたので、これはなんとしても中心人物として活躍してもらわなくては、と思っていたらしい。

ボルチモアは、ワシントンDCから車で1時間弱ではあるが、ワシントンとはまったく違う都市である。まず外国人が少ない。特にプロフェッショナルなポジションについている外国人がDCと比べると圧倒的に少ない。日本人は、ジョンズホプキンス大学病院に一,二年の滞在予定で研究・研修に来ている研究者が70名ほど、その他日本企業に勤務する人が30名ほどしかいない。ボルチモアのビジネスも、国内を向いているものが大部分である。全米11位の取扱高があるボルチモア港があるにもかかわらず、海外に子会社を持ち国際的な取引をしている会社は、香辛料メーカーのMcCormick、電動工具メーカーのBlack & Deckerなど数えるほどである。おかげで、海外経験が長かった夫か私のどちらかは常にワシントンDCで仕事をする羽目になっている。

また、ボルチモア出身者は大学卒業後ボルチモアに戻ってくることが多いことで知られている。「出身校はどちら?」という質問は、出身高校のことを指しており、知らない人はアメリカ人でも戸惑うらしい。夫が小学校から高校まで通ったGilmanという私立の男子校は、卒業生のボルチモア在住率が83%という普通のアメリカの都市では考えられない数字で、高校であるにもかかわらず、ボルチモアの企業に応募する際にはレジメに記入する人がいるほどである。(私が見たレジメは55歳の人のもの。55歳で高校の名前を書くなんて信じられます?ちなみに大学院卒でした)。Gilman校の卒業生はいわゆるOld Boys Networkで仕事の上でメリットがあるに違いない。ボルチモア出身者の間での仲間意識が強いということは排他意識の裏返しという面がないわけではない。アメリカ人でもカップルの両方がボルチモア出身でない場合は、社交面で努力が必要といわれている。(片方がボルチモア出身の私たちのような場合は問題ない)

このように数少ない日本人の大半は短期滞在者、メリーランド州の人々は国内、特にボルチモアへ注意が向いているという背景があるため、ボルチモアに腰を落ち着ける予定の日本人で、活動のスポンサーとなってくれるメリーランドの日本企業と取引がある私は、姉妹州に関わる人には打ってつけ人材に見えたことだろうと、今から考えるとよくわかる。

15周年の1996年には、女子の高校生ラクロスチームを日本に送った。20周年の2001年には、メリーランド大学にある米軍占領下の日本の出版物を集めた「プランゲコレクション」から、神奈川にゆかりのあるものを選んでボルチモアで展示をした。今年は25周年である。一番大きなイベントは、美術品の交換展示で、神奈川県からは11月に浮世絵がやってくる。メリーランドからは、地元作家のを30点選び、来年1月に神奈川で展示をする計画だ。美術品の選択にキュレーターを雇い、梱包、航空便での輸送、保険など、美術品の交換にはかなりのコストがかかるため、今は資金調達で忙しい。

2004年ボルチモアでのフレンドシップトーナメント
2004年ボルチモアでのフレンドシップトーナメント

私が中心になって取り組んでいるのは、ラクロスを通じた日米交流である。昨年からボルチモアの中学・高校のラクロス選手(13歳、14歳)を2年ごとに日本に送る活動を始めた。日本文化や神奈川の街、人々の暮らしについてのオリエンテーションを開き、日本語での挨拶ができるよう会話レッスンをし、ホームステイを含む12日間の旅程で昨年8月神奈川県・東京・京都を訪れ、交流試合を4回行った。メリーランド側からは親を含めて60名以上が参加した。また、5年ほど前から毎年いくつかの日本の大学チームがボルチモアを訪問し、強化試合を行っている。2004年にはボルチモアの大学・クラブチームを集めて慶応大学、立教大学を招いたトーナメントを開催した。ティーンエージャーのうちから日本に親しむ機会があれば、将来日本にいい印象を持つ大人になってくれるのではないか。私自身、高校生のときから女子サッカーの日本代表選手として海外遠征するチャンスに恵まれたため、英語ができるようになった経験がある。スポーツを通じての国際交流は両国の子供たちによい影響を与えると信じている。

慶応大学(男子チーム)、立教大学(女子チーム)が参加
慶応大学(男子チーム)、立教大学(女子チーム)が参加

15年前内容がよくわからないまま参加したメリーランド・神奈川姉妹州交流であるが、周りの人の思惑通り、今では中心人物に近い形になってしまった。ボルチモアの中だけに目を向けがちな人たちの関心を、数日間でも日本に向けられるよう、これからも交流の手助けをして行きたい。

著者紹介

岡島 喜久子(Okajima Murray, Kikuko)

メリルリンチボルチモアオフィス勤務。CFP、ファイナンシャルアドバイザーとして、主にアメリカ在住の日本の企業、個人、財団などの資産運用に携わる。



お知らせ

2019/02/01
VIEWS 2019年冬号を公開しました。
2019/11/01
VIEWS 2018年秋号を公開しました。
2018/08/01
VIEWS 2018年夏号を公開しました。
2018/05/01
VIEWS 2018年春号を公開しました。
2018/02/01
VIEWS 2018年冬号を公開しました。
2017/11/01
VIEWS 2017年秋号を公開しました。
2017/08/01
VIEWS 2017年夏号を公開しました。
2017/05/01
VIEWS 2017年春号を公開しました。
2017/02/01
VIEWS 2017年冬号を公開しました。
2016/11/06
VIEWS 2016年秋号を公開しました。
2016/08/06
VIEWS 2016年夏号を公開しました。
2016/05/01
VIEWS 2016年春号を公開しました。
2016/01/30
VIEWS 2016年冬号を公開しました。
2015/11/01
VIEWS 2015年秋号を公開しました。
2015/07/26
VIEWS 2015年夏号を公開しました。
2015/04/26
VIEWS 2015年春号を公開しました。
2015/01/04
VIEWS 2015年冬号を公開しました。
2014/10/09
VIEWS 2014年秋号を公開しました。
2014/07/18
VIEWS 2014年夏号を公開しました。
2014/4/21
VIEWS 2014年春号を公開しました。
2014/1/23
VIEWS 2014年冬号を公開しました。
2013/10/08
VIEWS 2013年秋号を公開しました。
2013/07/08
VIEWS 2013年夏号を公開しました。
2013/04/08
VIEWS 2013年春号を公開しました。
2013/01/09
VIEWS 2013年冬号を公開しました。
2012/10/15
VIEWS 2012年秋号を公開しました。
2012/07/09
VIEWS 2012年夏号を公開しました。
2012/04/09
VIEWS 2012年春号を公開しました。
2012/01/17
VIEWS 2012年冬号を公開しました。
2011/10/12
VIEWS 2011年秋号を公開しました。
2011/10/12
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2011/07/12
VIEWS 2011年夏号を公開しました。
2011/04/06
VIEWS 2011年春号を公開しました。
2011/01/11
VIEWS 2011年冬号を公開しました。
2011/01/11
VIEWSバックナンバーを追加しました。

更新履歴

2019/02/01
VIEWS 2019年冬号を公開しました。
2018/11/01
VIEWS 2018年秋号を公開しました。
2018/08/01
VIEWS 2018年夏号を公開しました。
2018/05/01
VIEWS 2018年春号を公開しました。
2018/02/01
VIEWS 2018年冬号を公開しました。
2017/11/01
VIEWS 2017年秋号を公開しました。
2017/08/01
VIEWS 2017年夏号を公開しました。
2017/05/01
VIEWS 2017年春号を公開しました。
2017/02/01
VIEWS 2017年冬号を公開しました。
2016/11/08
VIEWS 2016年秋号を公開しました。
2016/08/08
VIEWS 2016年夏号を公開しました。
2016/04/20
VIEWS 2016年春号を公開しました。
2016/02/01
VIEWS 2016年冬号を公開しました。
2015/11/01
VIEWS 2015年秋号を公開しました。
2015/07/26
VIEWS 2015年夏号を公開しました。
2015/04/12
VIEWS 2015年春号を公開しました。
2015/01/04
VIEWS 2015年冬号を公開しました。
2014/10/09
VIEWS 2014年秋号を公開しました。
2014/07/18
VIEWS 2014年夏号を公開しました。
2014/4/21
VIEWS 2014年春号を公開しました。
2014/1/23
VIEWS 2014年冬号を公開しました。
2013/10/08
VIEWS 2013年秋号を公開しました。
2013/07/08
VIEWS 2013年夏号を公開しました。
2013/04/08
VIEWS 2013年春号を公開しました。
2013/01/09
VIEWS 2013年冬号を公開しました。
2012/4/9
VIEWS 2012年春号を公開しました。
2011/10/12
VIEWS 2011年秋号を公開しました。
2011/10/12
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2010/12/22
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2010/10/14
VIEWS 2010年秋号を公開しました。
2010/10/10
Webサイトをリニューアルしました。

バックナンバー

2019年
2019年冬号(第56号)
2018年
2018年秋号(第55号)
2018年夏号(第54号)
2018年春号(第53号)
2018年冬号(第52号)
2017年
2017年秋号(第51号)
2017年夏号(第50号)
2017年春号(第49号)
2017年冬号(第48号)
2016年
2016年秋号(第47号)
2016年夏号(第46号)
2016年春号(第45号)
2016年冬号(第44号)
2015年
2015年秋号(第43号)
2015年夏号(第42号)
2015年春号(第41号)
2015年冬号(第40号)
2014年
2014年秋号(第39号)
2014年夏号(第38号)
2014年春号(第37号)
2014年冬号(第36号)
2013年
2013年秋号(第35号)
2013年夏号(第34号)
2013年春号(第33号)
2013年冬号(第32号)
2012年
2012年秋号(第31号)
2012年夏号(第30号)
2012年春号(第29号)
2012年冬号(第28号)
2011年
2011年秋号(第27号)
2011年夏号(第26号)
2011年春号(第25号)
2011年冬号(第24号)
2010年
2010年秋号(第23号)
2010年夏号(第22号)
2010年春号(第21号)
2010年冬号(第20号)
2009年
2009年秋号(第19号)
2009年夏号(第18号)
2009年春号(第17号)
2009年冬号(第16号)
2008年
2008年秋号(第15号)
2008年夏号(第14号)
2008年春号(第13号)
2008年冬号(第12号)
2007年
2007年秋号(第11号)
2007年夏号(第10号)
2007年春号(第09号)
2007年冬号(第08号)
2006年
2006年秋号(第07号)
2006年夏号(第06号)
2006年春号(第05号)
2006年冬号(第04号)
2005年
2005年秋号(第03号)
2005年夏号(第02号)
2005年春号(第01号)
これまでの特集
私が出会った芸術家
移民として生きる
持たない生活
マイアート
海外で第二次世界大戦の歴史に直面する時
トランプのアメリカ
女性と政治
ファミリー・ネームから考える家族関係
シングル・マザー
日本と海外の子育て事情
非営利団体(NPO)で働く
国際機関で働く
マイブーム ~ 私がいま夢中になっていること
世界の新年の祝い方
Eデート体験記
サッカーへの熱い想い
世界に散らばる家族
語学習得への道
40代の過ごし方
日本にいる高齢の親を想う
ソーシャル・メディア
留学の意義を再び考える
復興へ
離婚
地震
高齢になったら
ボランティア
各国出産体験記
受験事情あれこれ
医療保険
新しい日米関係
食を考える
身近に感じる経済不況
異文化の架け橋
女性の社会進出
NPO
2008年大統領選挙
ワシントニアンが伝授する知られざるDCの楽しみ方
環境:私たちにとっての地球
芸術
国際協力
医療
教育への思い
私の夏
戦後60周年特別企画II
戦後60周年特別企画I
ワシントンと私
連載一覧
ワシントンと私
人・マイライフ
世界の街から
世界の家庭料理
家族の風景
私の本棚
旅・ギャラリー
特別寄稿
随筆