ここはアメリカ? 水谷 容子(Mizutani, Yoko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

VIEWS

ワシントンと私

ここはアメリカ?:VIEWS 2006年春号(第05号)掲載

水谷 容子(Mizutani, Yoko)

ワシントンに住み始めて8年半になりますが、人からは「そんなに長い間住んでいるなら、アメリカの水の方が合うでしょう」とか、逆に「単身で故郷を遠く離れた外国の地で暮らすのは大変でしょう」といわれることがあります。確かに、しんどいと思うことはありますが、それはどこにいても感じるような仕事や生活上のことで、「ここが外国だから大変だ」というわけではありません。だからといって「アメリカの水が合うから」でもないのです。ではナゼか?「故郷の札幌と似ているから」、「日本食が手に入るから」、「私がニブだから」など思い浮かびますが、なんといっても一番の理由はワシントンが「アメリカであって、アメリカでは無い場所だから」だと思うのです。

それに改めて気づいたのは、ある企業の米国進出に関する仕事をしている時でした。候補地として上がっていた複数州のいくつかの地域について、気候、人口数、平均年収、人口構成、教育レベル、レストラン数、娯楽施設、酒屋の有無といった項目について調査しました。その結果、平均的な町のプロファイルは、人口の9割が白人、アジア人は1%以下、高卒者が人口の50%、(たぶん、大学進学者が卒業後に町に戻って就職していないということでしょう)、レストラン数軒、うち半数はファーストフード店、娯楽施設は映画館とボーリング場というものでした。でも、教会だけはカトリック、長老派、米国聖公会と宗派別に複数揃っています。調査をしながら、ワシントンとの余りの違いに改めて驚きました。恥ずかしながら、それまでアメリカの他の地域についてあまり考えたことは無かったのです。

振り返って、私が住んでいるワシントンには各国大使館が立ち並び、各国料理のレストランも軒を連ねています。日本食材の調達にも事欠かず、道を歩けば英語以外の言語もたくさん耳に入ってくるメトロポリタンな環境です。なので、日本人であっても着物でも着て歩かない限り、外国人として見られることは皆無。娯楽施設も映画館はもちろん、美術館や博物館、コンサート・ホールや演劇シアター、カラオケ屋と選り取りみどりに揃っています。

「都市と地方はどこも似たようなもの」なのでしょうが、ワシントンにいると、単に都市に住んでいると言うだけでなく、なんとなく自分がアメリカの中心にいて(首都なのでアメリカの中心には違いないのですが)ここからアメリカの全てが見えるという気持ちになってしまいます。舞台装置としては、アメリカの象徴ホワイト・ハウス。それを取り囲む主要な政府機関、連邦議事堂や最高裁判所など、毎日テレビのニュースに登場する建物が揃っています。加えて、街のあちこちには、南北戦争の銅像、キング牧師が演説したリンカーン記念堂、ベトナム戦争記念碑などアメリカ史のエポック的インフラが整っていて、そんな風景の中ではためく赤・白・青の星条旗を見ていると「こここそ、アメリカだ」と思わざるを得ません。

駄目押しは「インサイド・ベルトウェイ」効果です。「ベルトウェイ」はその名の通りワシントンをぐるりと囲む環状高速道路ですが、その内側は「インサイド・ベルトウェイ」と呼ばれています。ベルトの内側、すなわちワシントンには、連邦議会や主要政府機関が集まっているため、ありとあらゆる業界団体がロビー活動を行うためのオフィスを構えています。政策提言を行うシンクタンクも多く、そこでは連日ワシントンで一番ホットなイシューが議論されています。そうした話題が、ワシントン・ポストやニューヨークタイムズといったアメリカの新聞だけではなく、日本の大手新聞の一面を飾る記事ともなったりするので、アメリカが抱える問題を全て分かったような気になります。そして、ベルト内側の住人の価値観が、アメリカ人の持つ価値観であるような錯覚を持ってしまうのです。

けれど、一歩ベルトの外に出てみると、ワシントンではホットな話題でも、誰もそんなことを気にしていなかったりして、いったいワシントンって何なのだろうと思います。ある業界団体のロビイストが「畑に出て働いている農家と、彼らの利害を代表しているはずの自分たちの間には、かなりの温度差があるんだよね」と言っていましたが、ワシントンとその他のアメリカには、確かにそうした温度差があるようです。ワシントンは「アメリカだけど、アメリカではない場所」で、だからこそ私も外国に住む苦労をそれほど感じることなく、生活できているのではないかなと思っています。

このままだと、何年住んでも真のアメリカを知らないままになるかもしれないので、機会があったら田舎に住んでもいいなあ、なんて思うこともありますが、それは投げ縄で私をつかまえてくれるカウボーイが現れればの話です。

著者紹介

水谷 容子(Mizutani, Yoko)

シラキュース大学国際関係論修士号取得後、1997年よりワシントンDCのコンサルティング会社で米国議会及びビジネス動向の調査を担当。



お知らせ

2019/02/01
VIEWS 2019年冬号を公開しました。
2019/11/01
VIEWS 2018年秋号を公開しました。
2018/08/01
VIEWS 2018年夏号を公開しました。
2018/05/01
VIEWS 2018年春号を公開しました。
2018/02/01
VIEWS 2018年冬号を公開しました。
2017/11/01
VIEWS 2017年秋号を公開しました。
2017/08/01
VIEWS 2017年夏号を公開しました。
2017/05/01
VIEWS 2017年春号を公開しました。
2017/02/01
VIEWS 2017年冬号を公開しました。
2016/11/06
VIEWS 2016年秋号を公開しました。
2016/08/06
VIEWS 2016年夏号を公開しました。
2016/05/01
VIEWS 2016年春号を公開しました。
2016/01/30
VIEWS 2016年冬号を公開しました。
2015/11/01
VIEWS 2015年秋号を公開しました。
2015/07/26
VIEWS 2015年夏号を公開しました。
2015/04/26
VIEWS 2015年春号を公開しました。
2015/01/04
VIEWS 2015年冬号を公開しました。
2014/10/09
VIEWS 2014年秋号を公開しました。
2014/07/18
VIEWS 2014年夏号を公開しました。
2014/4/21
VIEWS 2014年春号を公開しました。
2014/1/23
VIEWS 2014年冬号を公開しました。
2013/10/08
VIEWS 2013年秋号を公開しました。
2013/07/08
VIEWS 2013年夏号を公開しました。
2013/04/08
VIEWS 2013年春号を公開しました。
2013/01/09
VIEWS 2013年冬号を公開しました。
2012/10/15
VIEWS 2012年秋号を公開しました。
2012/07/09
VIEWS 2012年夏号を公開しました。
2012/04/09
VIEWS 2012年春号を公開しました。
2012/01/17
VIEWS 2012年冬号を公開しました。
2011/10/12
VIEWS 2011年秋号を公開しました。
2011/10/12
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2011/07/12
VIEWS 2011年夏号を公開しました。
2011/04/06
VIEWS 2011年春号を公開しました。
2011/01/11
VIEWS 2011年冬号を公開しました。
2011/01/11
VIEWSバックナンバーを追加しました。

更新履歴

2019/02/01
VIEWS 2019年冬号を公開しました。
2018/11/01
VIEWS 2018年秋号を公開しました。
2018/08/01
VIEWS 2018年夏号を公開しました。
2018/05/01
VIEWS 2018年春号を公開しました。
2018/02/01
VIEWS 2018年冬号を公開しました。
2017/11/01
VIEWS 2017年秋号を公開しました。
2017/08/01
VIEWS 2017年夏号を公開しました。
2017/05/01
VIEWS 2017年春号を公開しました。
2017/02/01
VIEWS 2017年冬号を公開しました。
2016/11/08
VIEWS 2016年秋号を公開しました。
2016/08/08
VIEWS 2016年夏号を公開しました。
2016/04/20
VIEWS 2016年春号を公開しました。
2016/02/01
VIEWS 2016年冬号を公開しました。
2015/11/01
VIEWS 2015年秋号を公開しました。
2015/07/26
VIEWS 2015年夏号を公開しました。
2015/04/12
VIEWS 2015年春号を公開しました。
2015/01/04
VIEWS 2015年冬号を公開しました。
2014/10/09
VIEWS 2014年秋号を公開しました。
2014/07/18
VIEWS 2014年夏号を公開しました。
2014/4/21
VIEWS 2014年春号を公開しました。
2014/1/23
VIEWS 2014年冬号を公開しました。
2013/10/08
VIEWS 2013年秋号を公開しました。
2013/07/08
VIEWS 2013年夏号を公開しました。
2013/04/08
VIEWS 2013年春号を公開しました。
2013/01/09
VIEWS 2013年冬号を公開しました。
2012/4/9
VIEWS 2012年春号を公開しました。
2011/10/12
VIEWS 2011年秋号を公開しました。
2011/10/12
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2010/12/22
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2010/10/14
VIEWS 2010年秋号を公開しました。
2010/10/10
Webサイトをリニューアルしました。

バックナンバー

2019年
2019年冬号(第56号)
2018年
2018年秋号(第55号)
2018年夏号(第54号)
2018年春号(第53号)
2018年冬号(第52号)
2017年
2017年秋号(第51号)
2017年夏号(第50号)
2017年春号(第49号)
2017年冬号(第48号)
2016年
2016年秋号(第47号)
2016年夏号(第46号)
2016年春号(第45号)
2016年冬号(第44号)
2015年
2015年秋号(第43号)
2015年夏号(第42号)
2015年春号(第41号)
2015年冬号(第40号)
2014年
2014年秋号(第39号)
2014年夏号(第38号)
2014年春号(第37号)
2014年冬号(第36号)
2013年
2013年秋号(第35号)
2013年夏号(第34号)
2013年春号(第33号)
2013年冬号(第32号)
2012年
2012年秋号(第31号)
2012年夏号(第30号)
2012年春号(第29号)
2012年冬号(第28号)
2011年
2011年秋号(第27号)
2011年夏号(第26号)
2011年春号(第25号)
2011年冬号(第24号)
2010年
2010年秋号(第23号)
2010年夏号(第22号)
2010年春号(第21号)
2010年冬号(第20号)
2009年
2009年秋号(第19号)
2009年夏号(第18号)
2009年春号(第17号)
2009年冬号(第16号)
2008年
2008年秋号(第15号)
2008年夏号(第14号)
2008年春号(第13号)
2008年冬号(第12号)
2007年
2007年秋号(第11号)
2007年夏号(第10号)
2007年春号(第09号)
2007年冬号(第08号)
2006年
2006年秋号(第07号)
2006年夏号(第06号)
2006年春号(第05号)
2006年冬号(第04号)
2005年
2005年秋号(第03号)
2005年夏号(第02号)
2005年春号(第01号)
これまでの特集
私が出会った芸術家
移民として生きる
持たない生活
マイアート
海外で第二次世界大戦の歴史に直面する時
トランプのアメリカ
女性と政治
ファミリー・ネームから考える家族関係
シングル・マザー
日本と海外の子育て事情
非営利団体(NPO)で働く
国際機関で働く
マイブーム ~ 私がいま夢中になっていること
世界の新年の祝い方
Eデート体験記
サッカーへの熱い想い
世界に散らばる家族
語学習得への道
40代の過ごし方
日本にいる高齢の親を想う
ソーシャル・メディア
留学の意義を再び考える
復興へ
離婚
地震
高齢になったら
ボランティア
各国出産体験記
受験事情あれこれ
医療保険
新しい日米関係
食を考える
身近に感じる経済不況
異文化の架け橋
女性の社会進出
NPO
2008年大統領選挙
ワシントニアンが伝授する知られざるDCの楽しみ方
環境:私たちにとっての地球
芸術
国際協力
医療
教育への思い
私の夏
戦後60周年特別企画II
戦後60周年特別企画I
ワシントンと私
連載一覧
ワシントンと私
人・マイライフ
世界の街から
世界の家庭料理
家族の風景
私の本棚
旅・ギャラリー
特別寄稿
随筆