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「ラッキーカントリー」のエネルギー政策:VIEWS 2011年夏号(第26号)掲載

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「ラッキーカントリー」のエネルギー政策

2011年2月22日にニュージーランド(以下NZ)南島のクライストチャーチを襲った大地震、そして、それから1か月も経たぬ3月11日に起った東北地方太平洋沖地震。二つの大震災に関する報道に接するたびに、胸を痛める日々が続いています。とりわけ、今回の日本での原発事故により、電気に支えられた便利な日常生活が、いかに多大なリスクの上に成り立っていたのかを痛感せずにはいられません。

日本の人口は約1億3,000万、NZは約440万です。つまり、日本の人口はNZの約30倍ということになります。さらに、日本の主要産業は製造業、NZは酪農や農業です。このように、人口規模や経済構造が大きく異なりますので、NZのエネルギー政策がそのまま日本の参考になるとは思えませんが、この機会に、原子力発電を行わないNZのエネルギー政策を、簡単にご紹介してみたいと思います。

ニュージーランドの電力源を担う水力発電

マナプウリ湖(撮影:芝川尚由氏)
マナプウリ湖(撮影:芝川尚由氏)

まず、国際エネルギー機関(IEA)の2008年のデータによると、日本における電力生産の構成は、火力65.7%、原子力23.9%、水力7.7%で、残りの3%弱がバイオマス、廃棄物、地熱、太陽光、風力です。NZは水力51%、火力35.6%、地熱9.6%、風力2.4%です。

このように、NZでは水力発電が電力供給の半分以上を担っています。NZの国土の大部分は、北島および南島という二つの島から成り立っています。

マナプウリ水力発電所(撮影:芝川尚由氏)
マナプウリ水力発電所(撮影:芝川尚由氏)

特に、南島にはフィヨルド、氷河、湖沼、急流河川があるため水資源に富んでいますので、水力発電所の70%以上が南島にあります。例えば、マナプウリ湖には1969年に完成した南島最大の水力発電所があります。アルミの製錬には大量の電力を必要としますが、NZ唯一のアルミ製錬所であるニュージーランド・アルミニウム・スメルターズ社(New Zealand Aluminium Smelters Limited) は、このマナプウリ水力発電所の電力を用いてアルミ製錬を行っています。ちなみに、この会社の株式の20.64%は、日本の住友化学株式会社により保有されています。

化石燃料から再生可能エネルギーへ

水力発電の次に比率が高いのは火力発電で35.6%です。火力発電は、供給量が降水量に左右される水力発電の弱みを補う役割を果たしています。しかし、今後の見通しとしては、火力発電による電力供給比率が大幅に拡大することは、あまりなさそうです。政府は、2010年7月、「NZエネルギー戦略草案」(Draft New Zealand Energy Strategy: NZES)を発表しました。その中に、「電力の安定供給を妨げないことを条件に、2025年までに、再生可能エネルギーによる発電をNZ全体の電力発電の90%とする」という目標が含まれています。従って、化石燃料を用いる火力発電よりも、水力、地熱、風力などの再生可能エネルギーによる発電の比率の方が、今後更に高まることが予測されます。

ところで、私が暮らしている首都ウェリントンは、「ウィンディ・ウェリントン」という愛称がある位、年間を通じて強い風が吹きます。このウェリントンに、1993年に建設された、NZで最初の風力発電機があります。それは、中心地から車で20分程の丘にあるブルックルン風力発電機(Brooklyn Wind Turbine)です。私がこの写真を撮影した日も強風で,風車が勢い良く回転していました。その後、マカラという所に、ウェリントンで最初の風力発電地帯が建設されて、2009年に運転が開始されました。ウェリントン以外でも風力発電に適した地域で発電が行われており、風力発電による電力供給の成長が期待されています。

原子力に頼らないラッキーカントリー

マカラ風力発電地帯
マカラ風力発電地帯

さて、先進国の多く、そして先進国以外でも、原子力発電を行っている国が少なからずあります。また、原子力発電は、発電過程においてはCO2を排出しないので、気候変動問題に対処できるという利点もあります。それでもNZが原子力発電を導入しないのはなぜでしょうか。

まずは、先述のとおり、NZは人口及び経済の規模が比較的小さいため、建設や管理、そして事故が起った場合のコストなどの方が、原子力発電から得られるメリットを上回るからではないでしょうか。次に、1966年から96年にかけて行われた、南太平洋でのフランスの核実験を契機として反核感情が高まったことも理由として考えられます。更には、観光が主要産業の一つであるため、「クリーンでグリーン」なイメージや環境を保つことに敏感な国柄であることも、背景にあるでしょう。

隣国オーストラリアは「ラッキーカントリー」と呼ばれます。これは、リラックスしたライフスタイル、豊富な天然資源、更には、国際的な紛争が起りやすい地域から地理的に離れていること等を指して(時として皮肉を込めて)使われます。NZも、オーストラリアの場合と似たような文脈で、「ラッキーカントリー」と言われることがあります。再生可能エネルギーに依存できる条件が多い点を見ても、ニュージーランドは幸運な国だと思わずにはいられないのです。

<参考文献>
由比濱省吾「核に頼らないエネルギー資源」および山口悟「非核政策」(それぞれ『ニュージーランドを知るための63章』明石書店、2008年)
オークランド日本経済懇談会(二水会)「ニュージーランド概要2009-2010」

著者紹介

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ニュージーランド・ウェリントン在住。 



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