ナショナル大聖堂の聖家族像 種子島 美加(Tanegashima, Mika) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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ワシントンと私

ナショナル大聖堂の聖家族像:VIEWS 2011年秋号(第27号)掲載

種子島 美加(Tanegashima, Mika)

聖家族像
聖家族像

ワシントンD.C.に初めて来るきっかけになったのは、十年来着々と計画を進めていたJuris Doctor学位取得のためであった。現地の法律事務所で弁護士見習いとして働きながらジョージワシントン大学で研鑽を積んでいたのだが、ある時神様の呼びかけを聞いて休学した後中退をし、暫く日本、アメリカの神学校で修行をした。その私は、アメリカ・カトリック教会の総本山、ワシントンD.C.のナショナル大聖堂の聖家族像に初めて出会った時、聖母マリアの神々しい気高さに無性に惹かれ、聖家族の劇的な運命によく思いを巡らしたものだ。

聖家族像と歴史を通して

生まれたばかりの初子イエスを匿うように胸に抱きつつ、即刻エジプトの地へと逃避すべく神のお告げを受けた聖家族は、エジプトの地へと発った。幾世紀も預言されていたメシア、ユダヤ人の王が生まれたことを知ったヘロデ王が自分以外に王が立てられることを恐れ、生まれたばかりの嬰児を全て虐殺するように命じたのとほぼ時を同じくしてのことだった。疲れ切った家族がエジプトへの途上で休息を取っている姿がこの聖像である。慣れ親しんだ土地を離れ、ただ神のお告げに導かれて歩む中、それぞれの胸の中にはどんな思いがよぎっただろうか。

ユダヤ民族が約束の地に戻るよう神様がエジプトの地から民の奴隷の軛を外して救済し、様々な奇跡を行い出エジプトを実現させてくださったのはご存知かと思う。聖家族もキリスト殺害を企てた王が亡くなり安心して帰国してよいとの命を受けて初めてユダヤの地に戻られた。ユダヤ民族は荒野で数々の試練に遭いつつも、神の愛を豊かに注がれ、神の慈しみに養われ、神のご加護のもとで民族としての成長を遂げたのだが、この救済の史実はユダヤ人にとっての救済の原体験となっている。

旧約聖書のホセア書第十一章は神の愛について唄っている。神ご自身が民を「呼び出され」「腕を支え」「歩くことを教え」「いやしを与え」「かがむようにして食物を与えられ」「熱い思いに胸を焼かれ」「決して見捨てず見放さない」という歴史上の事実であり、現実である。このように神様とは人間と人格的な交わりをし、歴史の中で生きて働かれるお方である。ある神学者は世界が神様の劇場であり、私たち一人一人は神様に立てられた役者であると述べている。しかし、神様に立てられた人間の中でも最も重要な役割を与えられたお方はキリストであった。キリストこそが十字架上において無類の形で神の栄光を現し、預言通り肉体の死を乗り越えた復活によって救済を完成して下さった。そしてキリストこそが脆い肉体をまとった赤子としてこの世に降りてこられ、神ご自身を通して「人間の綱、愛の絆によって」養われ導かれ歩まれたお方であった。

歴史とは現在置かれた位置から将来を見据えつつ過去を見ることである。聖書における歴史とは救済の歴史であり、神が主語であるHis Story(神の物語)である。私はアメリカで生まれて14ヶ月目に日本に帰国し、日本人の家庭で育った。父はよく私がサンタ・アナ川で籠に入れられて仔猫のような声を出して鳴きながら流れてくるのを釣りをしていたところで見つけ、拾い上げた、と彼独特のジョークを飛ばしては私をからかい泣かせたものだ。出エジプトのモーゼになぞらえたのであろう。

私自身の原体験

私自身にも人生における様々な試練の中で神に出会い、一人格者として神に呼びかけられ、神と愛の交わりを持ち、救出され、支えられ、癒され、養われた出エジプトの瞬間が度々あった。私は人生で最も辛い時でさえ、自分は神様にこんなに愛されていてよいのだろうかという恍惚感にさえ浸ったことがある。そのような辛い時期にはよくナショナル大聖堂の地下聖堂近く(売店傍)にあるアンナ・ハイヤット・ハンチントン作・聖家族像(1963年)を思い浮かべた。そしてワシントンに来る機会があればいつもそこに立ち返っては、自分の救済の原体験を確認した。したがって聖家族のエジプトへの待避や旧約の民の出エジプトの事件は私にとっては決して単なる他人事ではない。それは全世界を創造された全知全能の神様ご自身が私に語りかけられる真実の物語である。

様々な聖堂は見てきたがワシントンの大聖堂は他のどの聖堂とも違う。大好きな聖家族像があるばかりではなく、全世界のカトリック教会の信仰の歴史が眼にも彩なそして敬虔に満ちた美しい様々な小礼拝堂として置かれている。またキリストの建てられた教会を古代から唯一継承するカトリック教会の懐の広さ、深さ、高さを荘厳な雰囲気の中で味わえるからである。クリスマスには素晴らしい音楽会が開催され、広い礼拝堂が文字通り熱気で埋め尽くされ、一人一人が手に取ったロウソクが灯ると文字通り心の中に希望が宿る。ワシントンにいらっしゃる間に是非一度は訪れて頂きたいものである。(National Shrine of the Immaculate Conception, 400 Michigan Ave., NE, Washington, D.C.) (2011年秋)

著者紹介

種子島 美加(Tanegashima, Mika)

ロスアンジェルス出身。司法省通訳・翻訳者(2011年8月時点)。ジョージワシントン大学法学博士課程単位取得後中退。



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