DC子育て日記 ローゼンバウム 幸子(Rosenbaum, Sachiko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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ワシントンと私

DC子育て日記:VIEWS 2012年秋号(第31号)掲載

ローゼンバウム 幸子(Rosenbaum, Sachiko)

十年余りの気ままなDC一人暮らしの後、結婚してフェアファックスに引越した。子供が2歳半の時に一時的にDCに居を戻すことになったが、母親の目線から見るDCではまったく違う世界に足を踏み入れることとなり、多くの発見があった。その体験のいくつかを、徒然なるままに書き留めてみた。

赤ちゃんも一個人

まず、母親になってみて最も印象的であったことは、少なくとも私の知る限りのアメリカでは、一概に大人が子供をきちんと相手にすることである。叱る時にはちゃんと理由を説明し、子供の言い分も聞く。子供相手に話をする時でも、まるで大人と会話をしているように真剣に受け答えし、質問を投げかけ、意見を尊重する。そんな光景を公私両方の場で何度も目にした。また、この社会では人々が乳幼児にとても優しいように思う。特に、年齢を問わず、男性も子供に関心を持って笑ったり話しかけたりすることが非常に多いのだ。日本に里帰りした時に、公共の場で幼い娘を連れていて度々感じた冷たい視線や無関心さにむしろ驚き、その違いに気付かされたと言った方が正確かもしれない。こんなに幼い時から、個人が社会の一員として認められていて、それが自然と本人にも認識され、その結果、社交性や自他の尊重を培う環境となっているように思う。個人が尊重されるアメリカ社会がこんなところから始まっているのかもしれない、と、なんとなく納得できるような気がした。

メルティングポット

十五年の在DC歴で一番暑く感じる今年の夏。溶けてしまいそうな灼熱の午後。沢山の子供たちとナニーや親が、木陰を探して午後のひと時を過ごすジョージタウンの公園。砂場にジャングルジム。話に花を咲かせるナニーたち。その周りをかけまわる幼い子供とストローラーの中で目をきょろきょろさせている赤ちゃん。一見すると、どこにでもよくある普通の公園のワンシーンだ。が、決定的に何かが違う。英語以外の多数の言語が飛び交っているのだ。スペイン語とフランス語はもちろん、ドイツ語、イタリア語、オランダ語、おそらく北欧の言葉であろうと思われる耳慣れない言語、そして時々タガログ語や中国語、ヒンディー語、タイ語、それに自分の日本語。そこはまるで国連総会の縮小版のようだ。そして大人も子供も、話している相手によって皆、巧みに英語と母国語を使い分ける。そんな沢山の言語が飛び交うのを聞いているうちに、言葉というものが一種の音楽のような、あるいはまるでかけ抜けていく風のように自然なものに感じられてくる。一人ひとり、性格や能力が違うと同時に、肌の色も文化も言語もそれぞれ違うことがこれほど当たり前の日常である環境の中で子供が成長していくことは、なんて素晴らしいことだろう。そしてもちろん、ボディー・ラングエージも忘れてはならない。娘が渡したミカンを嬉しそうに受け取った2歳のイタリア系の女の子。まだ言葉があまり出ていない子なのだが、お礼はギュ。多言語のパワーに圧倒されていた矢先の、これまたほほえましい光景だった。

これはあなたの子?(Is she yours?)

今では慣れっこだが、初めて聞かれた時は度肝を抜かれた。つまり、質問は、ナニーか母親か、ということだ。平日の日中、ジョージタウン付近の公園やお店は子連れのナニーであふれ返っている。国籍も様々。アジア人のナニーと間違えられるのも自然な環境なのである。半年で沢山のナニーと友達になった。上記したように、皆様々な言葉を使って子供と接しているため、自分が日本語で娘とやり取りしていてもまるで違和感がない。英語と母国語を行ったり来たりしながら、お互い拙い英語で子育ての情報交換をし、相手の境遇も興味深く聞かせてもらった。世界の隅々からあらゆる事情で渡米したそれぞれが、たまたま同じDCの公園で子供の面倒を見るという共通の任務を果たしていることが、何だか運命的であるようにすら思う。

色々な文化背景を持つ人たちで成り立つこの国では、各自の文化を次の世代に受け継がせたいと思えば、意識してそれなりの努力をしなければならない。公園で知り合った多くの子供たちの親は、ナニー選びの際に言語を大きな要素として考えていることを知った。文化伝承の課題は私自身も日々感じていることである。日本にいたら考えもしなかったことだが、日本文化をどの程度、どのように娘に受け渡すか、それは我が家の大きな課題でもある。でも、DCの公園で出会った多くの家族が同じような課題に取り組んでいることを知り、励まされる気がした。この国にありながら日本語や日本文化を身につけさせることが、将来、娘が大人になった時にきっとメリットとなると分かっていながらも、わが子の経験するであろう苦労を思うと気が重かった。しかし、文化や言語が違えども、同じような状況にある友達がこれだけいれば、本人もハードルを乗り越えやすいだろう。

おそらくDCならではの国際色豊かな育児環境に少しでも身を置かせてもらえる機会があってラッキーだった。橋を渡るとまた少し違う世界が待っているが、いずれにしても母親の視点から見る世界は毎日が新鮮で、これからも様々な発見が楽しみである。

著者紹介

ローゼンバウム 幸子(Rosenbaum, Sachiko)

アメリカン大学で教育学修士を取得。2000年から2010年まで、学習障害児のための高校で数学教師を務める。娘の出産を機に辞職し、家庭教師や翻訳、教育コンサルティングなどを少しずつ手がけている。



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