ワシントン生活の終わりに 小林 いずみ(Kobayashi, Izumi) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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ワシントンと私

ワシントン生活の終わりに:VIEWS 2013年春号(第33号)掲載

小林 いずみ(Kobayashi, Izumi)

月日が過ぎるのは経年と共にますます加速していき、つい先日来たばかりのワシントンで5度目の冬となりました。初めに当地に到着した2008年のサンクス・ギビング直前は0℃に満たない気温に強風が吹き、完全防寒で最初の買い物に出かけた記憶があります。年が明けた2009年1月のオバマ大統領最初の就任式の寒さは、その後にやってきた大雪と合わせ忘れられない体験でした。それと比較すると昨年、今年の冬はずいぶんと暖かく、すっかり甘やかされている気持ちになります。一方これがワシントン最後の冬と思うと、耳が切れるような寒さも名残惜しい事です。

2度目のアメリカ生活

アメリカ生活は90年代初頭のNYに続き2度目になりました。日本とアメリカの様々な違いについては最初のNY生活で洗礼を受けていたので、むしろワシントンののんびりとした雰囲気は馴染易いものでした。一方NYの「インターナショナル」とワシントンの「インターナショナル」の違いの面白さや、20年間の生活スタイルの変化には目を見張るものがありました。20年前のスーパーマーケットでは醤油とカップヌードルが唯一手に入る日本の食材でした。今や味醂、寿司の巻すから、はてはひじきまで種類を問わなければ近所のスーパーで事足ります。レストランではアメリカ人が箸で弁当箱をつついている!昼にイギリス人の同僚からうどんを食べに行こうと誘われる。(いったいこの変化の原因はどこにあるのか誰か研究をした人はいないのでしょうか)しかしこの変化はNYもワシントンも同じです。

New Yorkとワシントン

NYとワシントンの違いは色々ありますが、外国人の生活という点では顕著な違いがあるように思います。NYには様々な国から多様な人達が集まっていますが、基本的にそこにやってきた人たちはNYのスタイルに自らを合わせなければなりません。「New Yorker」になりたければNYの暗黙のルールに従わなければならないのです。車を運転するならばアグレッシブにアクセル・ブレーキを踏み、クラクションを鳴らさなければならず、はやりのレストランでは物おじせずジョークを言いながら注文をしなければただの田舎者に見られます。

Ben's Chilli にて
Ben's Chilli にて

ところが、ワシントンはすべてが「外国人だから」で許される大らかさに包まれているように感じられます。交通規則は千差万別、これほど外交官プレートが多く走る街は世界のどこにもないと思いますが、皆それぞれ自分の国とDCの交通規則をごっちゃにして走り、周囲も「まあ、仕方がないか」という雰囲気です。訛の強い英語も何の引け目もなく、服装も様々、ワシントンという街そのものの仕組みが期間限定で外からやってくる人たちを受け入れるように出来上がっているように思えます。確かにワシントンはNYのような刺激に満ちた街ではありあません。様々な文化活動もNYの量と質にはかなわないでしょう。しかし、常にそれなりのレベルを維持し、しかもNYやロンドン、東京と比べたらイベントへのアクセスは格段に容易です。街並みの美しさ、あふれる緑、空の広さ等々、基本的な生活の質のレベルはNYよりずっと高いように思うのは私だけでしょうか。

ワシントンならでは

そんなワシントンの街での4年超の生活では、私の仕事の性質もあり様々な国の人達と知り合う機会に恵まれました。職場のスタッフだけでも50か国を超える国の出身者です。そして友達の友達、日本に生まれ育った自分の人生でこんなに多くの国の人達と交わる機会があるとは思ってもいなかった幸運に恵まれました。そしてそうした交流から、それぞれの国の抱える問題、文化、歴史の生の話を聞くことが出来ました。異なる社会環境が作り上げる物の見方、行動、理念の違い、多様な楽しみ方。その一方で意外な共通点を発見する事も。なんとワシントンで経験出来るものはワシントンのみならず世界の文化であったのです。ワシントンとはアメリカの首都であり、政治の街であると同時に世界に通じるプラットフォームへの入り口でもあります。

何をおいてもワシントン生活でのもっとも得難い経験は、グローバルな動きと大きな流れを身近に感じ、知る事が出来たことでしょう。海に囲まれた日本の中にいては決して耳にする事のない様々な情報と視点をワシントンという特殊な街は惜しみなく与えてくれます。

逃げ出さなくては

雪が降り、雷雨が来れば何日も停電がつづき、週末の地下鉄では目的地に行き着くことが出来ず、政府の要人が通る毎に日に何度も交通が遮断され、消防活動まで寄付に頼る街であるにも関わらず、外から来るものを大らかに受入れ、共存させるこんな不思議な街は世界のどこを探してもここワシントンしかないでしょう。こんな街、長居をするのは危険です。この快適さに慣れてしまうと離れることが出来なくなります。そうなる前に出なければ。くわばら、くわばら…

とは云うものの、5度の冬を越したのであればやはり5度目の桜を愛でねばこの地を離れることはできません。合わせてマグノリアとハナミズキ、緑にそそぐ陽光を堪能することにします。

著者紹介

小林 いずみ(Kobayashi, Izumi)

東京都出身、米投資銀行勤務を経て2008年より世界銀行グループ・多数国間投資保証機関(MIGA)長官(2013年3月現在)



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