ワシントンで日本語幼児教育 山下 広海(Yamashita, Hiromi) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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ワシントンと私

ワシントンで日本語幼児教育:VIEWS 2013年夏号(第34号)掲載

山下 広海(Yamashita, Hiromi)

一年の予定で始まった留学生活

1988年、大学時代に知り合った女性の親戚を頼って日本から東部ロード・アイランド州に来ましたが、当初は1年ほど勉強したら日本に帰るつもりでした。ルームメートが日本語を勉強したがっていたので少し教えていたら、地元の私立高校から教えないかという話がありました。その後、現地で知り合ったアメリカ人の男性と結婚し、大学院を修了、教員免許もとって公立学校で日本語を教え始めました。最初はパートタイムだったのですが、教えている生徒たちを日本へ交換留学に送ったり、スピーチ・コンテストに出場させることで財団などから助成金をもらい、フルタイムにすることができました。

ワシントンDCへ

夫はロード・アイランド州の出身で実家がマリーナを経営していました。将来は継ぐつもりで夫はそこで働いていましたし、義父母は私にも学校の仕事を辞めて手伝ってほしいと言っていたこともあったのです。それがある時、生まれたばかりの長男を日本へ連れて行き帰ってきたら、義父母が突然、マリーナは売却すると宣言したのです。私は私立の学校で日本語を教えるフルタイムの仕事がやっと決まったところでした。

日本語教育との縁

引っ越してしばらくしたころ、どこで私のことを知ったのかわからないのですが、モンゴメリー・カレッジ(メリーランド州モンゴメリー郡のコミュニティ・カレッジ)から電話があり、日本語を教えられる人を探しているということでした。同カレッジではそれから今もずっと教えています。

子どもが生まれたら、日本語の本を読み聞かせたいという気持ちは前からありました。ワシントンに来たばかりのころは仕事もしていなかったので、毎日時間を決めて長男を連れて散歩に行って、絵本を読んであげて、外で運動して、お昼寝から起きたらまた絵本を読んで・・・午後は手を使ってクラフトや料理をしました。多様な経験をさせることで、日常の生活だけだと限られてしまう語彙を豊かにしたかったのです。そのうちに、絵本の読み聞かせをするなら相手が一人ではもったいないかなという思いもあって、読み聞かせの会「もみの木の家」を始めました。子どもと一緒に何かするのが楽しいんですね。読んでいる間に、これは紙の本じゃなくて、布の絵本にしてあげたらいいかも、などとアイデアが浮かびます。

たんぽぽ幼稚園への道

お話会をしているうちに二人目の子が生まれました。長男は地域の日本語幼稚園に通わせたのですが、自分が思っていた幼稚園ではないと感じました。それだったら自分で始めればいいと思い立ったのですが、設立までは大変でした。一番苦労したのが税金や法人設立に関することで、役所に直接電話して問い合わせたりもしました。

2006年にメリーランド州ベセスダで「たんぽぽ幼稚園」を始めた時は全体が一クラスで園児は18人だったのが、今では3クラス57人になりました。常に手伝って下さる方がいて、助けられてここまで来ました。日本から駐在などで滞在される方と永住の方が主ですが、昨年はお母さんが日本育ちのインド人でお父さんはアメリカ育ちのインド人というお子さんがいました。最近では入園希望が増えて希望者全員を受け入れられない状況になってきました。「日本から来た方が優先ですよね」と、批判的におっしゃる方もいます。でもこれは、日本から来たばかりで言葉がわからなくて精神的な負担を感じている子供たちに、せめて土曜日だけでも日本語を話せる環境で遊ばせてあげたいという考えがあってのことです。

教育理念

教育理念は、自分から主体的に遊びを見つけて遊べる子どもになってほしい、子どもが成長した時、どんな環境にいてもハッピーだと思えるようになってほしい。そのためには幼児期を幸せに暮らすことが重要だと思っています。どんなことでも無理がなく、「お勉強」としてではなく、本人が興味を持って接していけるようになってほしい。そのためにたんぽぽ幼稚園では様々なアクティビティをしています。もやしを栽培したり、オタマジャクシを家庭に配って育ててもらうのも、そうした考えからです。

何かをする時に、どうしてなんだろう、面白いな、やってみたいなという気持ちがなかったら、物事を覚えるだけだとつまらない。色々なことをつなぎ合せられる力が大切で、それができる柔軟な脳を作るには幼い時に大いに遊ぶことが必要です。

たとえば「はないちもんめ」などの集団遊びも力を入れていることの一つです。アメリカの一般のプリ・スクールなどでは何をするにもそれぞれが自分のペースでということが多く、「ほかの子が待っているから」、「お友達と一緒にやろうね」という考え方がありません。友達と一緒に遊んだり何かを学ぶことができるようになってほしいので、集団の中にいることを意識して行動できるように指導しています。

お受験準備だと思ってたんぽぽへの入園を希望される方もいますが、そのようなことは一切していません。ひらがなを教えてほしいと言われることもありますが、自宅でして下さいと答えています。幼稚園では子どもたちが自宅ではできない経験をさせてあげたいのです。

遊び上手な夫

夫はコンピュータ・プログラマですが、彼のお父さんは家やボートを自分で造ってしまうような人です。マリーナを売った義父母はその後、マリーナにあったブルドーザーとクレーンを使って林を切り開いてキャンプ場を作り、経営しています。二人は元は教師だったのですが、息子三人を健康的に育てるために野菜などを自分たちで育て、自給自足に近い生活をしていました。毎日搾乳が必要な牛を連れてスキー旅行に行ったこともあったそうです。子どもたちには勉強にこだわらない一方で、そうした豊かな経験をさせてあげた。夫はそのせいか、常に好きなことを見つけて楽しむことが得意な、本当に幸せな人です。ワシントンDCとその中の日本人コミュニティには職業的に成功している人たち、優秀と言われる人たちが多くいますが、本当に幸せなのかなと思うこともあります。

たんぽぽ幼稚園の将来

幼稚園の定員は増やせないわけではないのですが、借りている校舎でスペースを確保するのが大変なので、今の段階では難しいです。将来は平日にも幼稚園を開きたいと思っていますが、そのためには幼児教育の資格が必要なので、今もそれに関連した授業を履修しています。子どもが好きですが、コミュニティ・カレッジで接する大学生も好きです。人と関わるのが好きなんですよ。将来はこの地域で日本語を話す高齢者のためのシニア・ハウスなどもできたらいいなと考えています。
(インタビュー:小野恵子)

著者紹介

山下 広海(Yamashita, Hiromi)

千葉県出身。日本にいたころから幼児教育に興味を持っていたが、幼稚園の先生はピアノが弾けることが必須だったため、一旦は断念した。その後、留学のため渡米。現在はたんぽぽ幼稚園(メリーランド州ベセスダ)の園長の他、Washington Waldorf Schoolで親子教室の先生、9月からは同学校で日本語保育プログラムを開始、モンゴメリー郡のコミュニティ・カレッジで日本語教師をしている。



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