サッカーが教えてくれたもの キクチ シルビア(Kikuchi, Silvia) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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特集:サッカーへの熱い思い

サッカーが教えてくれたもの:VIEWS 2014年春号(第37号)掲載

キクチ シルビア(Kikuchi, Silvia)

2002年ワールドカップの決勝戦と閉会式の様子。撮影:ロベルト・ナカムラ
2002年ワールドカップの決勝戦と閉会式の様子。撮影:ロベルト・ナカムラ

間近に見た母国ブラジルのW杯優勝

2002年6月30日、私は大勢のブラジル人サポーターとともに、横浜スタジアムで日韓ワールドカップの決勝戦を見ようとしていました。芝生の匂いを感じながら、「セレソン」(ブラジルチーム)のシャツを着て、ほっぺに黄色と緑のフェイスペイントをして、Ronaldo、Ronaldinho、Roberto Carlosなど、選手達が入場するのを待っていました。

そして、キャプテンのOliver Kahn率いるドイツとの試合が始まりました。ボールを目で追い、ブラジル人同士で歓声を上げ、歌い、サンバのリズムに乗った感動的な応援でした。

ついに最初のRonaldoのゴールが決まった瞬間、サポーター全員が選手のように盛り上がり、「ショーツとシュテイラ」(サッカーパンツとスパイク)を履いてピッチにいるかのような感覚でした。周りからは、「ブラジルから28時間かけて来て良かった」と喜ぶ声が聞こえました。私自身もチケットを購入するために徹夜で並びましたが、その時の苦労が吹き飛ぶほど、全員の感動がピークに達しました。

Ronaldoの足から2度目のゴールが決まると、応援はさらに激しくなりました。涙がこみ上げ、周りを見るとみんな同じ気持ちで、一瞬静かになりました。ほんの一瞬の間でした。その後、「é pentacampeão! 」(5回目の王者)と言う歓声が最後の最後まで止まりませんでした。ブラジルがドイツを2-0で破り、優勝したのです。

シルビア・キクチ
シルビア・キクチ

私自身は、ブラジルで生まれ育ちましたが、こんなにサッカーに熱狂するとは思ってもいませんでした。逆に日本に来てから、試合観戦に行ったりフットサルをするようになり、故郷を離れて初めてこのスポーツに興味を持つようになりました。

ブラジルでは、サッカーは趣味以上のものです。時には、宗教、出身地、学歴より、「どのチームのサポーター」であるかが重要視されます。みんな「パッション」をもってお気に入りの選手達のことを語ります。たとえば、クラブ・チームCorinthiansのサポーターのイベントに緑色の服を着て行くことは許されないことです。緑色はライバルのPalmeirasのユニホームの色だからです。サポーター同士のトラブルでたまには死にいたるケースもあります。

たまに、付き合い始めたばかりのカップルで相手がライバルのサポーターだと分かると、熱心なサッカーファンの場合は戸惑ってしまいます。まあ、でも情熱の国のことなので、愛の力を信じて何とかなります。

なぜW杯自国開催反対の動き広がる?

2002年大会の決勝戦に集まったブラジル・サポーター。<br />今年も優勝に期待がかかる。<br />撮影:ロベルト・ナカムラ
2002年大会の決勝戦に集まったブラジル・サポーター。
今年も優勝に期待がかかる。
撮影:ロベルト・ナカムラ

そんなサッカー王国ブラジルの中でも、一部の国民で今回のワールドカップ開催に反対する動きがあります。調査会社Datafolhaが2月に行った世論調査によると、自国開催に賛成すると答えた人は約8割から半分近くに減り、開催反対意見は1割から約4割と大幅に増加していました。

ブラジルにいる私の友人に聞けば、「ワールドカップのためにそんなに資金を使うより、まず教育や医療のために使われるべき」と言う意見でした。リオ・デ・ジャネイロでは、約6万人がインフラ整備のため転居をする事になりました。試合予定会場の12競技場の建設・改築に費やした36億ドルのうち、9割は国民の税金が財源です

近年、ブラジルは目覚しい経済成長を遂げていますが、昔のように子供達が道路でボールを、あるいは丸めた布切れを蹴っている光景が少なくなっています。特に、サン・パウロやリオのような大都市ではそうです。Pelé、Sócrates、Romárioなどのような「クラッキ」(スタープレーヤー)が少なくなり、サッカーに対するモチベーションが下がってきているような気がします。

それにサッカー王国といっても、ブラジル人全員が熱狂的なサッカーファンと言うわけではありません。また、治安問題、チケット価格の上昇や、日用品の深刻な値上がりに加え、政治家の公約と違い一向に改善されない教育・医療問題など、多くの問題がワールドカップへの期待より上回っているような気がします。

間に合わせることができるのか

そういう中で、ワールドカップ開催日までにインフラの建設・改築が間に合うのかが心配でなりません。航空局までもが警鐘を鳴らしています。ブラジルの主要空港、Guarulhos(サン・パウロ)・Juscelino Kubitschek(首都ブラジリア)空港ではまだ約8割の改修状態です。私自身も最近Guarulhos空港を利用し驚きました。2階にある出発ロビーへ行くために、手荷物カートを押しながらエスカレーターを探してもどこにも見当たりません。隠れた角にエレベーターを見付け、乗ろうとすると長い列ができていました。エレベーターは2つしかなく、1つは2階からカートを降ろすために使用されていました。インターネットのWi-Fiスポットはどこにもありません。

それでも準備は進んでいます。後3ヶ月しかありません。でも、まだ後3ヶ月もあります。

皆さんは「jeitinho brasileiro」と言う言葉を聞いたことがありますか?それはブラジル人特有の「(本当は無理・違法だけど)何とかする」という、国民性を一番よく表している表現です。

どうか6月のワールドカップ開幕までに、すべての準備が間に合うよう私は祈っています。

著者紹介

キクチ シルビア(Kikuchi, Silvia)

ニュース番組JPTVの元リポーター・キャスター。日本で16年間、ポルトガル語新聞、ウェブサイト、テレビで記者をしてきました。現在eラーニングのポルトガル語講座「poogo」のスタッフを勤めています。



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