ワシントン・ジャパニーズ・ウィメンズネットワークはワシントンD.C.を中心として世界中の女性、日本女性をつなぐネットワークです。
米国国立公文書館本館
ワシントン名物と言えば、まずはポトマック河畔の桜にスミソニアンの博物館や美術館でしょう。ゆったりとした緑の中の観光都市ともいえる程の名所が盛りだくさんでとても魅力的な街ですね。一方、ワシントンは国際政治の中心、米国政府、米議会、各省、それに各国大使館がそのオフィスを構えるフォーマルな都市というイメージも強くあります。そこから想像されるのは「お固い街ワシントン」との印象も大きいようです。最近は様々な情報が簡単に得られる時代ですから事情が異なるかも知れませんが、もう十数年前、知り合いの日本人ビジネスマンがワシントン出張を会社から命じられた時、「ニューヨークだったら仕事の合間に楽しめるのに、ワシントンじゃーねー」なんて不服そうでした。所が実際にワシントンに出張で来て、フリーな時間にナショナルモールを歩き、いくつかミュージアムを見学している内に、「なんと立派なコレクションだろう」と感嘆。おまけにどこも「無料」で見学、観光できると、次回は家族でゆっくり観光に来ると決めたと興奮めいた声で話していました。「知れば知る程魅力的」とすっかりお気に入りになったとのことです。
そこで今日はもう一歩踏み込んで、普段観光では行かない「お固い」と思われがちな側のワシントン、しかしよく知ると結構楽しめる施設について少しご案内致します。ワシントンの中心、ペンシルバニア通りと7番アヴェニューの角に米国立公文書館本館(National Archives and Records Administration) があります。 公文書館と聞いただけで「退屈」と思われてしまいがちなせいか、実際に足を運ばれた方は少ないのではないでしょうか。1934年に設立された比較的新しい政府機関で、米国のあらゆる公文書が保管保存されている施設です。毎日作成され、増え続ける政府関連の文書だけでも並みの量ではなく、新しいものだけでなく、古い情報もきちんと保管され、基本的には30年を経過した記録については一般に公開されることになっています。米国人のみならず世界中の誰もがここに保管されている記録を閲覧することができます。米国の「記録すること」、そしてそうした記録を保存していくということに対する情熱は「あっぱれ」と賞賛すべきものでしょう。 さて、最近は名所を訪れるだけでなく、そこで機会があれば体験してみる観光も流行っているとのこと、アーカイブスでリサーチ体験等も楽しいかも知れません。比較的簡単に検索できる映像リサーチをお進めします。日本人なら日米関係の記録に興味を持たれるでしょう。まずは7番アヴェニュー側から一時間おきに出ているアーカイブス無料シャトルで、第二次大戦以後の日米関係記録が多く保管されているメリーランド州カレッジパーク市にある分館へ向い、ここで手続きを済ませ、4階にある映像リサーチ室で行えます。スタッフの親切なアドバイスもありますので、心配ご無用です。勿論ここも無料で利用できます。
米国公文書館カレッジパーク分館、リサーチャー用閲覧室
公文書館に保管されているのは文書や映像や写真、地図など、大量の資料です。すべてオリジナルが基本です。そして、こうした資料をそれぞれの分野の研究者や学生、マスコミ関係、小説家やドキュメンタリー作家、弁護士、様々な分野の専門家がそれぞれ必要な資料を捜し、その中の情報を仕事や研究のために利用しています。資料捜しも慣れるまでに時間がかかります。特に文書の場合ですが、資料の山からほんの一部の小さな情報を見つける訳ですから、自分が求める情報(オリジナル文書)に辿り着くのはそう簡単ではありません。それは公文書館に保管されている文書の量が極端に多いのと、そうした資料の分類がシステマティックに行われているものの、結構複雑だからです。そんな理由から、公文書館で文書を見つけるプロのリサーチャーという職業が存在しています。仕事や研究などでここを利用する人たちにとって、公文書館は宝の山です。依頼者の求める文書をより速くより正確なものを見つけるプロのリサーチャーは言わば、昔話の「花咲かじいさん」の愛犬、ポチのようです。宝の山をあちこち嗅ぎまわり、何か「臭うぞ」とばかりに「ここ掘れワンワン」です。テレビのドキュメンタリー番組内容に関連する歴史的資料(文書や映像や写真等)を見つけたり、作家の執筆に必要な資料を捜したりが依頼される仕事の大半でしょう。筆者自身もここ20数年プロのリサーチャーとして大量の日米関係や核関係他の資料を捜し、見つけ、これを読んで、大体の内容を依頼者に伝えるという仕事を行ってきました。ここ10年程の間に一部はオンラインでも検索できる様になり、世界中どこにいてもある程度はインデックスで求める資料を検索できる様になっています。筆者が最初にプロとしてリサーチを始めた頃は、資料探しのためのインデックスというようなものは殆ど無で、多くの場合は、各分野の資料のエキスパート(アーカイビスト)と一緒に資料倉庫に入り、そこで、求める資料が入っていそうなボックスをいくつか見つけ出し、その中身を閲覧室で検索するという具合でした。当りもあればはずれもある。まず最初に見つかった関連資料の中からヒントを得て、核心の情報に辿り着くなどなかなか面白く、エキサイティングな仕事です。時には「日本の○○議員は英語が上手だと言われているらしいが、聞いてみて何を話しているのかよくわからなかった」などという私的なメモが文書に添付されていたりでこっそり微笑んだりです。
ここで米国人による検索数が一番多いのが、自分の家系を調べる「ファミリー ツリー」の検索です。昔、米国テレビ映画で、「ルーツ」というドラマが放送され、大きな反響を呼びました。このオリジナルの小説を書いた作家、アレックス・ヘイリーもこれを書く為に公文書館に足を運び、資料を検索し、それをもとに物語を書いたといいます。又、社会の悪を追求する小説で多くのベストセラーを生んだ日本の山崎豊子も公文書館の資料から一部の作品を書いたそうです。この様に公文書館は様々な公文書の中に多くの貴重な物語の原点が埋まったまさに宝の山を持つ施設です。是非一度足を運んでみられ、過去にタイムスリップされてはいかがでしょう。
ジョージワシントン大学心理学部卒業
米情報会社で日米関係、自動車関連のリサーチ
フリーランス・リサーチャーとしてテレビドキュメンタリー番組や新聞記事、ミュージアムなどの依頼で主に米国立公文書館他、全米各地の資料館等でリサーチを行っている。
情報専門誌等に執筆。