ワシントンと祖父の思い出 黒岩 直子(Kuroiwa, Naoko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

VIEWS

ワシントンと私

ワシントンと祖父の思い出:VIEWS 2015年春号(第41号)掲載

黒岩 直子(Kuroiwa, Naoko)

ワシントン・モニュメント<br />(写真提供:ベルジェールえりか)
ワシントン・モニュメント
(写真提供:ベルジェールえりか)

スミソニアン航空宇宙博物館を訪れた際、祖父への思いが募ったことがある。祖父は戦前、飛行機工場で働き、その後、中国大陸に召集された。祖父が製造に携わったかも知れない零戦*(ゼロせん)を目の当たりにして思ったのは、「祖父は何を思って時代を生き抜き、異国の地で何を感じていたのだろうか」と言うことだった。

祖父は戦争について何も語らなかったが、ただ一言、「おじいちゃんは青春を戦争に持っていかれたよ」と呟いたことがある。この言葉が、アメリカで生活し年齢を重ねるごとに、私の中で切なく響いてくる。

私が最初に海外に行きたいと思ったのは中学の時だった。ニュースで流れる映像を自分自身で体感したいと願った。当時両親は海外に出ることに反対だったので、大学生になってようやく、Washington州Spokaneに短期留学する機会を得た。怖いもの知らずだった私は「Thank you」 と「Sure」だけを覚えて授業に臨んだが、日本の板書教育だけでは英語力は得られないことを身をもって体験し、失意の中で帰国した。しかし、やり残し感がいつまでも消えず、その数年後、自費留学によりCalifornia州Riversideに舞い戻る事となった。今思い返せば、祖父の思いが私をアメリカに呼び戻し、日本では見ることの難しい零戦の前に導いてくれたのかも知れないと思った。

アメリカンドリームを求めて

政治の街ワシントンには色々な顔がある。ホワイトハウス、リンカーン記念堂、ワシントンモニュメント、トーマスジェファーソン記念堂、アーリントン国立墓地、スミソニアン博物館や大使館街など、見どころ満載である。多くの緑に溢れ、どこからでも空が臨める落ち着いた街並みも、魅力の一つであると思う。大統領就任式や全米桜祭りなど、多くのイベントも開催され、特に独立記念日には星条旗が街中をはためく。アメリカで働きたかった私はワシントンで星条旗を見るたびに、働いていることを実感し、とても嬉しく思う。

アメリカでは、特にポジティブ思考を学びたいと思っていた。ポジティブな発想が夢の実現に繋がり、更にアメリカンドリームを目指す人が続くという、良い循環が連鎖していると思う。自分の経験を振り返っても、夢の実現に向け努力をしている最中に関連する人が現れ、夢に繋がるきっかけを頂いたことがあった。その方にお礼を述べると、「貴方が困っている人に出会ったら、その人を助けてあげなさいね」と言われた。私はここにアメリカ人の持つ懐の深さを感じた。この考え方が私は大好きで、現在もアメリカで生活を続けるに至っている。

クリスマスに友人と(右側が筆者)
クリスマスに友人と(右側が筆者)

いい加減さもアメリカの良さ?

いい加減さもある意味では、アメリカの良さだと思う。今となっては笑い話だが、空港で迷子になり飛行機に乗り遅れ、カウンターにやっとの思いで辿りつくと、エージェントから「今日は混んでいるから皆乗れてないの、でも貴方は特別に次の便に変えてあげるから、走って行きなさい」と言われたことがある。当時はいい加減だなぁと感じたけれど、私はこのアメリカのいい加減さに救われたのだとも思った。日本の基準で物事を考えると、確かに思い通りに進まない事が多いけれども、人生「いい加減が良い加減」というように、どこかで心の余裕を持つことも大事だと思うようになった。

アメリカは色々な面で寛大でもある。ボランティア活動は必ず評価されるし、奨学金制度を含め様々な教育プログラムが選択できる。学生には、カウンセリングなどのサポートが充実し、インターンシップも質量共に豊富である。特に女性にとって、女性支援の無料プログラムや、仕事に応募する際の年齢制限が無い点は、とてもありがたく感じる。

日本とアメリカの狭間で思うこと

このように、充実した毎日をアメリカで過ごしているが、冒頭に記した祖父の「青春を戦争に持っていかれた」との言葉は、折に触れて思い起す。

日々、日本とアメリカの狭間で思うことや感じる事はたくさんある。世界は今どう動いているのか、そして日本の行く末はどうなるのか、と。アメリカにいなければ日本の事を考えることもなかっただろうし、日本人としてのアイデンティティーや愛国心、そして外国で生きるマイノリティーとしての立場についても、到底思いは及ばなかっただろう。私にとって外国から見る日本は、日本にいる時とは全く違う視点で物事を捉えるためか、別の国のように思え、祖国に対する自分の考えを深めてくれる。

祖父への回想はもう一つの想いに繋がる。祖父は心に決めた人に何も告げず、戦地に赴いた。きっと、生きて戻る保障がなかったからだと思う。戦火を生き残り、混乱の祖国で想い人を探したが、再び出会うことは叶わなかった。戦後、祖父のような悲しい体験をした若人は少なくなかった筈だ。

だからこそ、現在を生きる私は思う。「想いは伝えないと伝わらない、明日伝えようと思っても届かないかもしれない」と。そして、大切に思う人には、自分の想いを自分の言葉で伝えたいと強く願う。

私は未だ、人生の航海途中にあり、どこに行きつくのか全く分からない。しかし、世界中から人が集まるワシントンで色々な経験ができることは今後の人生を豊かにしてくれると信じている。これからもワシントンで多くの人と出会い、様々な経験を積み、祖父が味わうことの出来なかった青春の足跡をしっかりと残して行きたい。
*編者注:「零戦」は「ゼロせん」あるいは、「れいせん」と呼ばれ、太平洋戦争当時の日本海軍の主力戦闘機。 戦闘爆撃機や特攻機としても使われた。

著者紹介

黒岩 直子(Kuroiwa, Naoko)

三重県生まれ。大学卒業後、商社に就職するも自分の目で世界を見たいとアジア・アメリカを遊牧する。現在、夢が叶い、ワシントンDCにある日系金融機関勤務。



お知らせ

2019/02/01
VIEWS 2019年冬号を公開しました。
2019/11/01
VIEWS 2018年秋号を公開しました。
2018/08/01
VIEWS 2018年夏号を公開しました。
2018/05/01
VIEWS 2018年春号を公開しました。
2018/02/01
VIEWS 2018年冬号を公開しました。
2017/11/01
VIEWS 2017年秋号を公開しました。
2017/08/01
VIEWS 2017年夏号を公開しました。
2017/05/01
VIEWS 2017年春号を公開しました。
2017/02/01
VIEWS 2017年冬号を公開しました。
2016/11/06
VIEWS 2016年秋号を公開しました。
2016/08/06
VIEWS 2016年夏号を公開しました。
2016/05/01
VIEWS 2016年春号を公開しました。
2016/01/30
VIEWS 2016年冬号を公開しました。
2015/11/01
VIEWS 2015年秋号を公開しました。
2015/07/26
VIEWS 2015年夏号を公開しました。
2015/04/26
VIEWS 2015年春号を公開しました。
2015/01/04
VIEWS 2015年冬号を公開しました。
2014/10/09
VIEWS 2014年秋号を公開しました。
2014/07/18
VIEWS 2014年夏号を公開しました。
2014/4/21
VIEWS 2014年春号を公開しました。
2014/1/23
VIEWS 2014年冬号を公開しました。
2013/10/08
VIEWS 2013年秋号を公開しました。
2013/07/08
VIEWS 2013年夏号を公開しました。
2013/04/08
VIEWS 2013年春号を公開しました。
2013/01/09
VIEWS 2013年冬号を公開しました。
2012/10/15
VIEWS 2012年秋号を公開しました。
2012/07/09
VIEWS 2012年夏号を公開しました。
2012/04/09
VIEWS 2012年春号を公開しました。
2012/01/17
VIEWS 2012年冬号を公開しました。
2011/10/12
VIEWS 2011年秋号を公開しました。
2011/10/12
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2011/07/12
VIEWS 2011年夏号を公開しました。
2011/04/06
VIEWS 2011年春号を公開しました。
2011/01/11
VIEWS 2011年冬号を公開しました。
2011/01/11
VIEWSバックナンバーを追加しました。

更新履歴

2019/02/01
VIEWS 2019年冬号を公開しました。
2018/11/01
VIEWS 2018年秋号を公開しました。
2018/08/01
VIEWS 2018年夏号を公開しました。
2018/05/01
VIEWS 2018年春号を公開しました。
2018/02/01
VIEWS 2018年冬号を公開しました。
2017/11/01
VIEWS 2017年秋号を公開しました。
2017/08/01
VIEWS 2017年夏号を公開しました。
2017/05/01
VIEWS 2017年春号を公開しました。
2017/02/01
VIEWS 2017年冬号を公開しました。
2016/11/08
VIEWS 2016年秋号を公開しました。
2016/08/08
VIEWS 2016年夏号を公開しました。
2016/04/20
VIEWS 2016年春号を公開しました。
2016/02/01
VIEWS 2016年冬号を公開しました。
2015/11/01
VIEWS 2015年秋号を公開しました。
2015/07/26
VIEWS 2015年夏号を公開しました。
2015/04/12
VIEWS 2015年春号を公開しました。
2015/01/04
VIEWS 2015年冬号を公開しました。
2014/10/09
VIEWS 2014年秋号を公開しました。
2014/07/18
VIEWS 2014年夏号を公開しました。
2014/4/21
VIEWS 2014年春号を公開しました。
2014/1/23
VIEWS 2014年冬号を公開しました。
2013/10/08
VIEWS 2013年秋号を公開しました。
2013/07/08
VIEWS 2013年夏号を公開しました。
2013/04/08
VIEWS 2013年春号を公開しました。
2013/01/09
VIEWS 2013年冬号を公開しました。
2012/4/9
VIEWS 2012年春号を公開しました。
2011/10/12
VIEWS 2011年秋号を公開しました。
2011/10/12
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2010/12/22
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2010/10/14
VIEWS 2010年秋号を公開しました。
2010/10/10
Webサイトをリニューアルしました。

バックナンバー

2019年
2019年冬号(第56号)
2018年
2018年秋号(第55号)
2018年夏号(第54号)
2018年春号(第53号)
2018年冬号(第52号)
2017年
2017年秋号(第51号)
2017年夏号(第50号)
2017年春号(第49号)
2017年冬号(第48号)
2016年
2016年秋号(第47号)
2016年夏号(第46号)
2016年春号(第45号)
2016年冬号(第44号)
2015年
2015年秋号(第43号)
2015年夏号(第42号)
2015年春号(第41号)
2015年冬号(第40号)
2014年
2014年秋号(第39号)
2014年夏号(第38号)
2014年春号(第37号)
2014年冬号(第36号)
2013年
2013年秋号(第35号)
2013年夏号(第34号)
2013年春号(第33号)
2013年冬号(第32号)
2012年
2012年秋号(第31号)
2012年夏号(第30号)
2012年春号(第29号)
2012年冬号(第28号)
2011年
2011年秋号(第27号)
2011年夏号(第26号)
2011年春号(第25号)
2011年冬号(第24号)
2010年
2010年秋号(第23号)
2010年夏号(第22号)
2010年春号(第21号)
2010年冬号(第20号)
2009年
2009年秋号(第19号)
2009年夏号(第18号)
2009年春号(第17号)
2009年冬号(第16号)
2008年
2008年秋号(第15号)
2008年夏号(第14号)
2008年春号(第13号)
2008年冬号(第12号)
2007年
2007年秋号(第11号)
2007年夏号(第10号)
2007年春号(第09号)
2007年冬号(第08号)
2006年
2006年秋号(第07号)
2006年夏号(第06号)
2006年春号(第05号)
2006年冬号(第04号)
2005年
2005年秋号(第03号)
2005年夏号(第02号)
2005年春号(第01号)
これまでの特集
私が出会った芸術家
移民として生きる
持たない生活
マイアート
海外で第二次世界大戦の歴史に直面する時
トランプのアメリカ
女性と政治
ファミリー・ネームから考える家族関係
シングル・マザー
日本と海外の子育て事情
非営利団体(NPO)で働く
国際機関で働く
マイブーム ~ 私がいま夢中になっていること
世界の新年の祝い方
Eデート体験記
サッカーへの熱い想い
世界に散らばる家族
語学習得への道
40代の過ごし方
日本にいる高齢の親を想う
ソーシャル・メディア
留学の意義を再び考える
復興へ
離婚
地震
高齢になったら
ボランティア
各国出産体験記
受験事情あれこれ
医療保険
新しい日米関係
食を考える
身近に感じる経済不況
異文化の架け橋
女性の社会進出
NPO
2008年大統領選挙
ワシントニアンが伝授する知られざるDCの楽しみ方
環境:私たちにとっての地球
芸術
国際協力
医療
教育への思い
私の夏
戦後60周年特別企画II
戦後60周年特別企画I
ワシントンと私
連載一覧
ワシントンと私
人・マイライフ
世界の街から
世界の家庭料理
家族の風景
私の本棚
旅・ギャラリー
特別寄稿
随筆