ワシントンDCという「街」への留学生活 河合 顕子(Kawai, Akiko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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ワシントンと私

ワシントンDCという「街」への留学生活:VIEWS 2016年春号(第45号)掲載

河合 顕子(Kawai, Akiko)

ワシントンで生活を始めて3年半が過ぎた。私は現在、ジョージ・ワシントン大学政治経営大学院(GSPM)への留学を経て、インターンから始めたPenn Schoen Berlandというマーケティングリサーチ会社の国際政治チームで働いている。 実務者として「ポリティカル・マーケティング」の専門性を磨くことを目的としている私にとって、ワシントンは常に街全体として何一つ無駄のない時間を提供してくれる。

この街は常に動いている。そして、その動きに巻き込まれるに足り得るよう、こちらにも常時アップデートと自己稼働し続けるエネルギーを要求する。それが爽快感を生み出し、ここでの生活を病み付きにする。

ホワイトハウスにて<br />在学中、一緒に4回日本を訪れたGSPM院長ケネディ教授と
ホワイトハウスにて
在学中、一緒に4回日本を訪れたGSPM院長ケネディ教授と

ポリティカル・マーケティングとワシントン

私とワシントンの出会いは、10年ほど前に遡る。大学で仏文学を専攻していた私は、「悲しみよ、こんにちは」で知られるフランソワーズ・サガンを題材に、人生における「早熟」について卒業論文を書くかたわら、新聞の政治欄で描かれる権力闘争と人間模様に強い関心を持つようになり、議員会館や政党の派閥でインターンや選挙の手伝いをするようになった。すると、日々の報道から受ける政治家の印象と、実際に当人と接した時に受ける印象とのギャップに疑問を覚えるようになった。「実際の印象と報道での印象はこうも異なるのか。政治家の実像は、あまり伝わっていないのではないか」。それを埋めることを自分の職業にしたいと考えて以来、「ポリティカル・マーケティング」が私のテーマとなった。そして、「ポリティカル・マーケティング」の主舞台が、ここワシントンにあることを知った。

大学院で政治経済学研究科に進んでからも研究の題材は常に「ワシントンの政治」。1950年代のアイゼンハワー大統領から、直近の大統領選挙までの選挙戦略を学んだ。特に、ケネディ大統領とのディベートで名を挙げたニクソン大統領に興味を持ち、マーケティング技術は、議論に中身はあるが自身の「見せ方」を不得意とする政治家のためにこそ活用されるものだという思いを持つに至った。

その後、都内のマーケティング会社に入社し、主に消費材メーカーの商品開発支援を行う定性リサーチを担当する一方で、いくつかの国政選挙と地元愛知県での知事選挙に関与する機会を通じて、「ポリティカル・マーケティング」への興味はより一層強まった。

ワシントンにも実際に何度も足を運び、政治系シンクタンクの公開イベントに出席したり、街角で「インフォメーショナル・インタビュー」を実施したりと、「政治の街・ワシントン」の開放感に刺激を受けているうちに、「いつかここに住みたい」という思いが募った。やがて、東日本大震災を機に一念発起し、「ポリティカル・マーケティングが当たり前に機能している本場のそれを学ぼう」と、ワシントンへの留学を決意した。

この街を泳ぐための基礎体力

念願のワシントン留学生活を始めて3週間ほど経った頃、ふと、以前訪れた沖縄で味わった刺身を思い出した。当時、私は学生ながら国政選挙のスタッフとして選挙事務所にお世話になっていたのだが、ある会合での席で振舞われたお刺身が、不思議と美味しく感じられなかった。現地の方に正直に話すと「平和な海で暮らしている沖縄の魚は、筋肉が発達しないから見た目はきれいでも美味しくない」。意外な回答であった。ワシントンでの不慣れな生活で、日本にいた頃には使っていなかった体中の筋細胞が猛烈に稼働し出したのか、私はよく食べ、大いに疲れ、深く眠るようになった。目まぐるしく物事が動くワシントンで、体力作りにも熱心に取り組むアメリカの学生を目の当たりにすると、「この人たちと対等にやっていくためには、平和な海の魚ではなく、たくましく泳ぎ続けるマグロでなければいけない」と痛感した。

GSPMの先輩に紹介してもらった大家のジョーと。<br />ジョーは熱心な共和党員でワシントンでの生活から<br />政治のイロハまで教えてくれる。今や実の祖父のようだ。
GSPMの先輩に紹介してもらった大家のジョーと。
ジョーは熱心な共和党員でワシントンでの生活から
政治のイロハまで教えてくれる。今や実の祖父のようだ。

私なりに出した答えは、自分自身の軸を明確に持ち、自身の指針となるメンターとロールモデル、そしてスポンサーを見つけ、常に激しい潮の流れを泳ぎ回るような環境を作り出すことだった。幾人もの師と出会い、厳しくも優しい指導を受けるうち、いつの間にか「thick face black heart(厚い表情で己を守り、堅い意思で交渉する)」が自分自身の合言葉となっていた。

この街では、常に変化が付いて回る。私がお世話になった師の中にも、今では他州へ移り学長となった者、新しい会社を立ち上げた者、と新たな環境に身を投じていっている。変わり続けるダイナミズム。これもワシントンの姿のひとつである。基礎体力を身につけた今、「ワシントンと私」の第一章は終わり、いよいよ第二章が始まる予感がしている。

著者紹介

河合 顕子(Kawai, Akiko)

愛知県出身。2014年ジョージ・ワシントン大学政治経営大学院修了。



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