アメリカで受ける外来医療の基本 延 エミー 佳子(Nobu, Amy Y) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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ワシントンと私

アメリカで受ける外来医療の基本:VIEWS 2016年夏号(第46号)掲載

延 エミー 佳子(Nobu, Amy Y)

Amy Nobu, MD, FFPFO
Amy Nobu, MD, FFPFO

ワシントンDC近郊に住むようになって30年になります。日本から高校留学でやって来たのが41年前。日本とアメリカ東部西部を飛び回り、自身の興味も語学や国際関係学などに移り変わりました。しかし、医者である母の影響でしょうか、結局は医学を目指すようになり、研修課程のためワシントンにたどり着きました。その頃、ワシントンには婚約者がおりましたので、その近郊に移るのは当然のことでしたが、加えて、バージニア州にあるフェアファックス・ファミリー・プラクティス (Fairfax Family Practice)は、私が目指していたファミリー・プラクティス研修プログラムの中でも有数のプログラムの一つでした。

ファミリー・プラクティス (Family Practice)とは

ファミリー・プラクティスでは、家族全員、新生児からお年寄りまでの主治医として、一人一人それぞれのプロファイルに沿った、全身全体の健康管理を目指します。専門課程として出来上がったのは1970年代でした。それまでは、ジェネラル・プラクティショナー(GP)と言って、医科大を卒業しただけでもなれる、何でも比較的簡単な相談に駆け込める近所の医者がおり、それでなければ、自分で選ぶ専門医に行くというのが通常でした。しかし、何人もの専門医にかかり、ばらばらでコーディネートできていない医療を受けることになるケースが増える一方でした。そこで、総合的に診てくれて、しかも多々専門に通じる知識と経験を兼ね備えた医者を求める声が出るようになりました。そうした要望に応えてできたファミリー・プラクティスに入るには、医科大卒業後、内科、小児科、産婦人科、外科などの基礎的なトレーニングを3年かけて病院内外で受け、ボード・サーティフィケーション(Board Certification)という専門検定試験を受けます。その後も7年から10年毎に更新する試験を通らなければ専門として名乗ることができません。

アメリカの外来医療を受けるには

研修後開業して27年になりますが、アメリカの医療は急速度で大変貌し続けています。オバマケアは、「誰でもが受けられる医療」を掲げましたが、それを実現するにはメディケア(Medicare: 受給資格のある65歳以上の高齢者および障害者が受けられるアメリカの公的医療保険制度)、メディケイド(Medicaid: メディケアの受給資格がなく、他の医療保険を購入できない低所得者向け公的医療制度で全年齢に適応される)を含む健康保険制度改革、医療費削減といった非常に大きなバリアがあります。私たち医者は効率的な医療のデリバリーを余儀なくされています。

そうした中で、私から皆様へ「上手な医療の受け方」のアドバイスがあります。

主治医を持つ

アメリカではファミリー・プラクティス、小児科、そして、内科をプライマリー・ケアと呼び、まずはその中から何でも相談できる自分のかかりつけの医者を持つことを奨励しています。必要な専門医への相談はそこから紹介してもらうのが最適です。他の専門医は治療費が高いので、プライマリーケアのレベルでこなせる事はなるべくそのレベルで相談検査治療を受けるべきという考えもあります。

必要なければERを使わない

病院付きのER(Emergency Room)は、入院の可能性を含む、病院での検査治療を要する急病を扱うための場所です。重病でない場合は、他にアージェント・ケア(Urgent Care)やウォークイン・クリニックといった、病院とは別で予約なしでも駆け込める場所があります。緊急時に備え、近所にある緊急医療の場所、開業時間などを確認しておくと良いでしょう。ちなみに、医療費の面から見るとERの治療費は、病院付きでないクリニックの3倍から5倍です。

自分の健康保険を良く知る

アメリカの健康保険は大変複雑です。同じ保険会社の中でも異なったプランがたくさんあり、何がカバーされ何がカバーされないかで内容が全く変わってしまいます。残念ながら医療に携わっている私たちでも、個々の保険やプランに関する細かなルールまでは把握しきれないので、皆さんがそれぞれに良く学んで頂き、分からない事は早い時期にご自身で質問・理解して頂くことをお勧めします。思いがけない治療費の請求にあったり、安く簡単に受けられる健康相談などを受け損ねたりするのを避けるためでもあります。

様々な資格トレーニングを受けた人々によって医療が行われているのを知る

ヘルスケア・プロバイダー(医療従事者)の中には各専門の医者(MD, DO)、フィジシャンズ・アシスタント(PA)、ナース・プラクティショナー(NP)、カイロプラクター(DC)、ポダイアトリスト(DPM)などがおり、看護師の中にはRN, LPN, CMA, MAなどがあります。

予約の理由をはっきりさせる

診療の理由や内容によって保険の利き方が変わってきます。理由の種類は、例えば私のオフィスでは、アキュート・ケア(Acute care 新しい症状や問題の相談)、クロニック・ケア(Chronic care 慢性の病気や薬の相談)、ウェル・ビジット(Well visit)あるいはプリベンテイブ・メデイカル・ビジット(Preventive medical visit 定期健診)があります。定期健診は1年に一度無料で受けられますが、年齢性別相応の定められた項目を、約15分から20分までの時間をかけてレビューするに留まります。その他の症状や薬などに関する相談がある場合は、予約時に前もって言って頂き余分な時間を設けるか、別の日に改めて来て頂くことになります。いずれにしても、相談に時間が掛かれば治療費が余分にかかることをご了承下さい。残念ながら、保険会社や政府から課せられたルールは厳しく、何人もの患者をそれぞれはっきりさせた理由で診なければ、保険会社からの支払いが落ち、ビジネスとして成り立っていかないのです。また、予定してない時間を掛けることになると、スケジュールが遅れ他の方たちの待ち時間が長引いてしまうことがあります。もちろん、必要な時間は十分掛けるようにしていますが、余分な請求があったり、待ち時間が長い時にはこうした理由もあるのだということをご了承頂きたいのです。

メディケアは医者による定期健診をカバーしない

代わりに特別なトレーニングを受けたナースによって行われるウェルカム・トゥー・メディケア(初めてメディケアに入ったばかりの人のみ)と、メディケア・ウェルネスという1年に一度無料で受けられるサービスがあります。これが定期健診となりますので、医者へのビジットは、アキュート・ケアかクロニック・ケアに限られます。

コンピューターと仲良くなる

アメリカの病院やクリニックは、電子カルテを使わなければならない、という新しい政府と保険会社が取り決めたルールに従うことになり(従わなければメディケアや他の保険会社から貰える金額が落ちる)、全てコンピューター化しています。患者とのコミュニケーションもインターネットで行う方が良しとされ、ポータル(Portal)と言ってクリニックのシステムと接続する方法に登録すると、直接予約を入れたり、ナースや医者とも連絡する事ができます。ただ、余りに速いペースのコンピューター化に追いつけず、まだまだトラブルが多いことをご承知下さい。

メディケアだけに頼らない

できれば、他の健康保険やロング・ターム・ケア保険などを持ち合わせて、将来あらゆる医療を受けられる可能性を持てるようにすることをおすすめします。残念ながらメディケアの現状、将来は厳しく、例えば自宅でケアを受けたりヘルパーを雇いたい時には利かず、薬、専門医、検査などに関してもなかなか融通が利きません。

最後に

視野を広げれば、高齢化し増加する人口と多人種貧富の差の激しい社会の中で、限りある医療リソースを皆がシェアする、というアメリカの課題は、世界に通じる課題でもあります。アメリカ独特の医療デリバリーの改革。深刻ではありますが、興味深く、この先どう展開されるのか一ファミリー・プラクティショナーとして、皆さんと一緒に見定めて行こうと思っています。

         

著者紹介

延 エミー 佳子(Nobu, Amy Y)

ニュージャージー州で出生。3歳で日本へ帰国。高校留学で渡米。ポモナ大学卒。アルバニー医科大学卒。バージニア州フェアファックス・ファミリープラクティス、イノバ・フェアファックス病院で研修。バーク・ファミリープラクティスで開業。現在フェアファックス・ファミリープラクティスにて診療。



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