白と青、ときどき曇り ギリシャ「サントリーニ島」 粟林 木の実(Awabayashi, Konomi) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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白と青、ときどき曇り ギリシャ「サントリーニ島」:VIEWS 掲載

粟林 木の実(Awabayashi, Konomi)

イア市内。石畳の道
イア市内。石畳の道

崖っぷち

人生崖っぷち―――。
ではないが、人生初めての崖っぷち体験をしてきた。ギリシャ南部のエーゲ海に浮かぶサントリーニ島は、白と青を基調とした建物が断崖絶壁に所狭しと張り付いている。2016年5月末から6月上旬にかけて、夫とともにこの憧れの島に滞在した。

ここでサントリーニ島を画像検索された方は、真っ青に輝く海を臨む白と青の街並みが眩しく感じられることだろう。これを想像して、自分の頭の2倍の大きさはある麦わら帽子と、SPF機能付きのサングラスを握りしめ、鼻息荒く空港に降り立った私は、曇り空にどんよりと覆われた島に迎えられ、少し力が抜けた。

空港からホテルまで崖道すれすれを走るシャトルの車窓から、空全体にモクモクと広がる雲の下で灰色に映る海が見渡せた。少し寂しそうで、その深さを想像するとぞっとする感覚さえ覚えた。そうだ、ここはギリシャ神話発祥の地。海の神ポセイドンが海底からブクブクブクッ!と出現するのではないか。そんな想像力が働くのも、異国の地にいる時間ならではのマジックだ。

世界一日の入りが綺麗な街

さて、着いたのは島の北西部に位置するイアという街。シャトルから降り、石畳の狭い路地や階段を通り抜けて到着したホテルはまさに、崖に張り付いた白い建物の一つだった。ベランダからは下の方に広がる海が一望できる。

イアは日の入りが美しい場所として知られている。夕暮れ時にさしかかる時間帯だったので、荷物を置いてさっそく絶景スポットといわれる場所へ出向いた。お土産屋さんやレストランが並ぶ坂道を登っていくと、なにやら人口密度が高まっていく。景色が大きく開けたレストランは満席、道も人で密集してきた。この島、西に向かって傾くのではないか。観客が集まる中、夕日は自身のショーに向けて気持ちが高まっているもようで、自分が雲でぼやけていることにも気づかず地平線に向かってどんどん近づいてゆく。そんな太陽と競うように足早に島の端へ端へと進んだ。道はやがて下り坂となり、繁華街は徐々に住宅街へと姿を変え、人が少なくなった。

静まった住宅街の一角に木の門が扉を開いていた。覗くとなんとそこはレストランだった。門をくぐり抜けると素晴らしい景色が屋外テラスの向こうに広がっていた。島の端に追いやられたレストランの先にあるのは夕日のソロステージのみ。少し値段が張ったが(メイン料理20-35ユーロ)、太陽のコンサートもたけなわ、これは絶好の場所ではないか。メニューを吟味した結果、前菜にエビのグリル、メインにムサカ(ナスとジャガイモ、トマトソースを重ね焼きしたラザニアのようなもの)を頼んだ。料理は素早く出てきて、太陽が地平線に触れる頃には食事を始めていた。夕日が海に隠れてゆく中、トマトとナスの香りが口に広がった。心なしか冷凍食品の味がしたのは気づかないことにした。

隠れ家レストランからの日の入り風景
隠れ家レストランからの日の入り風景

味はともあれ、総合評価はまずまずだった。第一にその景色。まさにエーゲ海に抱かれた気分だった。そしてサービスがアメリカより格段に良い!兄弟とみられる3人のスタッフは忙しい中、あたふたしながら頑張る、そして頑張る。ギリシャ人は怠け者なんてとんでもない。笑顔絶やさず、必死に料理や飲み物を運ぶ。隣のお客さんが立ち去ろうとしたところ、長男と思われるスタッフが何か叫びながら必死に後を追った。お客さんが支払いをせずに出て行こうとしたのか。よくよく聞くと、長男はギリシャ語なまりの英語で「お客さん、おつり!」と一生懸命説明している。お客さんがチップ用に多めに払ったのだと知った彼は、胸に手を当てて「ありがとう」とお礼を言った。チップは当たり前のものではないようだ。

イアの夜景
イアの夜景

帰り道はすっかり暗くなっていたが、暗闇に浮かび上がる街の光もキレイだった。お店は遅くまで開いており、日本にいる家族にハガキを送ろうと小さなお土産屋さんに入った。ハガキを2枚選びレジに行くと、1ユーロ以下の買い物はカードもお札も使えず、小銭のみだと言われた。着いて間もなかったためまだお札しかなく、諦めて引き返そうとしたところ、レジのおじさんがハガキを差し出してきた。代金はいらいないと言う。心がじんわり温まり、島を発つ前にこのお店に戻ってこようと心に決めた。ホテルに戻った頃には肌寒くなっていたが、なんとなくヌクヌクと温かい気持ちで初日の幕を閉じた。

ロバとの交渉

港までの階段
港までの階段

麦わら帽子は無駄にならなかった。次の日は早朝から太陽が眩しく、部屋のテラスについているホットバスに浸かっていると、我先にと沖に向かう漁船が海に点々と浮かんでいる風景がよく見渡せた。昼近くには太陽が照り返す白い街中を通り、港までジグザク状に下る長~い石の階段をえっちらおっちら下りた。目指すは採れたての魚介類が食べられるレストラン街。途中、20頭ほどのロバが列を成していた。正直邪魔だったが、ロバたちも好きでここにいるわけではない。階段を断念した観光客を乗せたり荷物を運んだりする役割を任されているのだ。ロバのこうした使い方は賛否両論らしい。私たちが近づくなりギロッと振り向く1頭のロバ。耳はぴったり後ろに倒れており、明らかにお怒りだ。行く手を塞いでいるため、どいてもらわないことにはタコもイカもない。笑顔を投げかけてみたが1ミリたりとも道を譲る気はないらしい。数分間、ロバと無言の交渉を経た結果、結局ぺこぺこしながらロバの首の下をくぐり抜けて港までの旅を続けた。後ろから殺気を感じた。

レストランが並ぶ港
レストランが並ぶ港

港の水はエメラルド色に透き通っていた。ほとりに3軒のレストランが並び、各店とも近づくとスタッフがお勧めメニューを力説してくる。入ったお店はタコが売りだった。ギリシャ・サラダと魚介類の盛り合わせを注文した。細かく崩したフェタチーズが散りばめられたお馴染みのギリシャサラダとは異なり、大きなフェタチーズの塊が、きゅうりとトマト、ピーマン、タマネギ、オリーブの上にどどーんと豪快に載っていた。オリーブオイルとハーブのみのシンプルな味付けにチーズがパンチを効かせ、お待ちかねの魚介料理に向けて食欲を増進させた。すぐ横にはいくつものタコが丸ごと干されている。目の前に出てきたタコやエビ、白身魚が余計新鮮に映った。こちらも味付けはオリーブオイルとハーブ、レモンのみで、素材の味を生かしている。タコが美味しいとは聞いていたが、エビの大きさと風味にも感激した。

ギリシャサラダ
ギリシャサラダ

ボートクルーズ

ボートクルーズの日の入り
ボートクルーズの日の入り

翌日はホテルのオーナーさんとその妹さん、そしてホテルの若手スタッフとともにボートクルーズに参加した。なんともアットホームな宿だ。サントリーニ島の周りを一周するこのクルーズは、様々な浜辺を巡り、島に隣接する火山で温泉に浸かる。締めはボートから眺める日の入り。夕暮れ時は少し曇っていたが、ボートのスタッフがこしらえたバーベキューやサラダに舌鼓を打ちながら、他の乗客とおしゃべりしていると、雲の中に浮かぶ太陽が静かなBGMのような役割を果たした。翌日はイアを発つ前に、急いで初日のお土産屋さんに立ち寄った。ハガキ代を払い、サントリーニ島の絵画を買い、おじさんと少しおしゃべりをした。この街の名前「Oia」がオイアではなくイアであることを確認できた。

サントリーニの東京、フィラへ

イアからは、より賑やかな街フィラに移った。6室しかないホテルは、部屋が広々としていて、リビングルームとベッドルームが別室になっていた。テラスからの眺めは壮大な海。大型のクルーズ船が港に向かっていた。街に繰り出すと、ショッピングモールからお土産屋さん、ファストフード店やレストランが所狭しと軒を並べている。ランチはレストランを避け、地元の人も集うフードスタンドに立ち寄った。ギリシャといえば、ピタパンにお肉のスライスとタマネギ、ヨーグルトソースを挟んだギロ。ラム肉のギロを注文し、大正解!と自分の選択を絶賛。焼きたてのお肉の香ばしさとソースが口の中に広がり、思わず飲み込む前にムフッとにやけた。地元の人たちに混ざってはみたものの、やはり私たちは生粋の観光客。夜は夕日を見渡せるレストランが並ぶ地区へ出向いた。日の入りを見ながら、4人前はあると思われるロブスターパスタを食べた。確認したところ、1人前らしい。ウォッカが効いたシンプルな味付けで、香り付けは―――ロバだった。写真からは想像つかないだろうが、辺りは終始、ロバの臭いが漂っていた。臭いだけでは主張が足りないらしく、暗くなった後にロバの行列が家路につく姿も見られた。

ロバ家路につく
ロバ家路につく

サントリーニ島の買い物は、小型のスーパーやお土産屋さん、ブティック店が主なもの。お土産屋さんでは、オリーブオイルやギリシャの蒸留酒「ウーゾ」、地元のワイン、ロバのミルクで作ったローション、おつまみになりそうな菓子類など、本国にいる家族や友達の実に幅広い趣味嗜好に対応している。お店に入ると店員さんが近寄ってくる。どこも親身に対応してくれ、無理やり売り込もうともしない。妊娠中の私のお腹に目をやってから、荷物を持ってくれる人までいた。まとめて買うと割り引いてくれたところからすると、値段交渉の余地もあるのだろう。

締めはラーメン、ならぬヨーグルト

サントリーニ島の締めは、ホテルのテラスでの朝食。青い海を眺めながら、前日に希望を出していたパンやオムレツ、ギリシャ・ヨーグルトなどを食し、最後の時間を噛みしめた。旅行中に何度か朝食に食べたギリシャ・ヨーグルトはどれも、アメリカで売っているものよりも濃厚で、かなり脂肪分の高い牛乳を使っているようだ。クリーミーな味は食べ応えがある。

ホテルのテラスで朝食
ホテルのテラスで朝食

空港までの道中、タクシーの中からは地元の人しかいないようなレストランやパン屋さん、住宅街などが見えた。きっと私たちが見たサントリーニは島の極一部なのだろう。次来るときはレンタカーをしようか。既に次の訪問に思いを馳せながら、二つ目の目的地であるギリシャの首都アテネに飛び立った。

著者紹介

粟林 木の実(Awabayashi, Konomi)

横浜生まれ、東京と米カリフォルニア州育ち。東京のPR代理店で働いた後、現在はワシントンDCでメディア業に就く。在米13年。ワシントンDCで働く女性の会(Japanese Women in the Professions in Washington D.C. (J-WIP))の運営委員。



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