ケニアが教えてくれたこと 千谷 みのり( Chitani, Minori) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

VIEWS

人・マイライフ

ケニアが教えてくれたこと:VIEWS 掲載

千谷 みのり( Chitani, Minori)

“ケニア・マサイマラ野生動物保護区のキリン"
ケニア・マサイマラ野生動物保護区のキリン

2016年7月、ワシントンDCに来てまず感じたのは、なんて平和で治安のいいところなのだろう、ということだった。2013年7月から3年間、開発援助に従事するためケニアの首都ナイロビに駐在しており、外を自由に歩けず、22時自宅着という門限のある生活を送っていた。どのアパートにも門番がおり、車が出入りする度にいちいちナンバーや名前等を記録されたし、ある時は逆にその門番と警察が泥棒とグルになって強奪事件を起こしたり、アパート前で泥棒に待ち伏せされるリスクもあったりと、気持ちの休まらない生活だった。

そんなケニアが教えてくれたこと。それは、「問題山積みでもHAKUNA MATATA(大丈夫)!」というポジティブ精神と「SAWA, SAWA(OKでしょ)!」という寛容さだった。

HAKUNA MATATA!〜ケニア人のポジティブ精神を感じたプロジェクト管理の一幕〜

ケニアのchallengeの一例:違法営業のキオスクが<br />警察に倒されるが、賄賂を払えたのか、数日後に<br />は綺麗なキオスクが立ち上がっていた。
ケニアのchallengeの一例:違法営業のキオスクが
警察に倒されるが、賄賂を払えたのか、数日後に
は綺麗なキオスクが立ち上がっていた。

ケニア人のポジティブ精神を感じたエピソードは数知れず。一番グサッと来たのは、仕事先で私が “There are problems in the project that we have to fix…” と言った時、相手がわざわざ私を制して “They are not problems, Madam. They are challenges.” と返してきた時。「この状況にあって、なんてポジティブな見方なんだ!」と、私の脳みそに衝撃が走った瞬間だった。でもその後話していくと、最初はボロを出さないよう頑張っていた相手は「いゃぁ…実はこういう事情で…」と、problemを次々と打ち明けてくる。ポジティブ精神を持ちつつ、現実もしっかりと捉えているところがケニア人らしい。彼らは自国の現実がすぐに変わるものではないと分かっているからこそ、強いポジティブ精神で日々のchallengesを乗り越えているのかもしれない。

SAWA SAWA! OK!~大体OKなら飯は食える、ということを気づかせてくれた一幕~

ケニア人の寛容さを感じたエピソードも数知れず。ケニア人のアシスタントに資料の印刷を依頼した時のこと。日本人ならばたいていの人が、プリントの束をタンタン、トントンと綺麗に揃え、ホッチキスを斜め45度にパチンととめると思う。私も新人の時にそう習った。一度、180度にホッチキスをとめたところ、「これじゃ捲(めく)りにくいでしょう?」と先輩に指摘され、心の中で「え、ダメなのッ?!」と思いつつ、ひとつひとつホッチキスを外し、斜め45度に止め直したこともあった。そんな日本人にしか分からないであろう習慣がすっかり染み付いた社会人7年目の私がケニアで出会ったのは、プリントの束を掴み、You Tubeを観ながらホッチキスでガシャン、ポイッ、ガシャン、ポイッ、ガシャン、ポイッ!と作業するアシスタント。資料の端はギザギザしているし、ホッチキスの位置もグチャグチャ。その代わり作業が速いかと思いきや、コピー機のところで同僚とペチャクチャしゃべっていたので、そうでもない。

両面印刷は片面しか印刷されていなかったり、定形外の印刷を頼めば用紙がコピー機に引っかかってグチャグチャになった形跡が残っていたりする。時には、コピー機まで行く途中に原本を落とし、拾っているうちに向きが逆になり、そのままコピー機に流して向きが逆の資料が提出されることもあった。

最初のうちは「綺麗に揃えて、45度!」と指導をしていたが、”Eh, HEE, HEE.....Eh, HEE, HEE, HEE……”とゆったり笑って返される度に、日本人の価値観がおかしいのかもしれない、という新鮮な感覚が芽生えるようになる。確かに、読めるっちゃ読めるし、会議の結論は変わらないと言えば変わらない。だから、プリントの端が揃っていなかったり、ホッチキスが資料の束を射抜いていなくて最後のページがブラブラしているくらいでは “SAWA, SAWA! OK!” なのだろう。それでもメシは食えるのだ。そんなこんなで、「私頑張ったでしょ」顔のアシスタントに「有難う!ASANTE SANA!」と言って会議に出かけながら、「大事なことって何なんだろうなぁ…」と渋滞の車中、ナイロビの青空に向かって自問自答する。きっとケニア人に聞いたら、Family, Respect, Forgiveness などと返ってくるだろう。

“マサイマラのライオン"
マサイマラのライオン

よい世界に、笑いを込めて

こうして、3年前、完ぺき主義を刷り込まれて神経質そのものだった私は、ケニア人のゆったりとした魔法にかかり、細かいことは気にしすぎず、大事なことを押さえていれば大体OK!という精神でDCに来た。しかしここで生活していても、公共サービスの大雑把さなどはケニア寄りで、日本がやっぱり凄いんだなぁと思う日々。

余談で締めくくることになってしまうが、ケニアの大統領が臨席されたある式典において、心に残ったエピソードがある。大統領は “Ladies and Gentlemen…” で始まる正式なスピーチをした後、そのスピーチ原稿を横に退け、スワヒリ語で観衆に語りかけ始めた。するとあちこちでドッカンドッカン笑いが起き、うちの現地スタッフもヒーヒー言って目の端に涙を浮かべながら、丸く太ったお腹を揺らしている。ふと見ると、大統領とは違う党派や部族の人もクッククック笑っている。それを見て、私を含めた外国人もみんな何となく笑っている。笑いは人々の違いを超えるんだなぁ、と感じた瞬間だった。

“ナイロビの青空になびくカンガ(布)”/
ナイロビの青空になびくカンガ(布)

2016年夏、日本の首相がスーパーマリオブラザーズのマリオに扮してリオ五輪の閉会式に登場した際、私は「おぉ!座布団10枚!」と感激した。言葉や文化が違う相手の心を掴む、シンプルな笑いに拍手。2016年は世界中で不幸な出来事が多発し、先行きへの不透明感が拡大した年だった。2017年の世界にchallengesが山積みでも、必ず乗り越えられるというポジティブ精神、違う価値観を受け入れて前に進む寛容さ、そして人々を一つにする笑いが絶えないことを祈る。

著者紹介

千谷 みのり( Chitani, Minori)

国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科を卒業後、2006年より途上国開発援助の仕事に従事。2013年~2016年にかけては、ケニアの首都ナイロビに駐在し、発電所の建設事業やケニア人に対する研修事業等を実施・監理。2016年7月より、ワシントンDCの国際機関に勤務。



お知らせ

2017/05/01
VIEWS 2017年春号を公開しました。
2017/02/01
VIEWS 2017年冬号を公開しました。
2016/11/06
VIEWS 2016年秋号を公開しました。
2016/08/06
VIEWS 2016年夏号を公開しました。
2016/05/01
VIEWS 2016年春号を公開しました。
2016/01/30
VIEWS 2016年冬号を公開しました。
2015/11/01
VIEWS 2015年秋号を公開しました。
2015/07/26
VIEWS 2015年夏号を公開しました。
2015/04/26
VIEWS 2015年春号を公開しました。
2015/01/04
VIEWS 2015年冬号を公開しました。
2014/10/09
VIEWS 2014年秋号を公開しました。
2014/07/18
VIEWS 2014年夏号を公開しました。
2014/4/21
VIEWS 2014年春号を公開しました。
2014/1/23
VIEWS 2014年冬号を公開しました。
2013/10/08
VIEWS 2013年秋号を公開しました。
2013/07/08
VIEWS 2013年夏号を公開しました。
2013/04/08
VIEWS 2013年春号を公開しました。
2013/01/09
VIEWS 2013年冬号を公開しました。
2012/10/15
VIEWS 2012年秋号を公開しました。
2012/07/09
VIEWS 2012年夏号を公開しました。
2012/04/09
VIEWS 2012年春号を公開しました。
2012/01/17
VIEWS 2012年冬号を公開しました。
2011/10/12
VIEWS 2011年秋号を公開しました。
2011/10/12
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2011/07/12
VIEWS 2011年夏号を公開しました。
2011/04/06
VIEWS 2011年春号を公開しました。
2011/01/11
VIEWS 2011年冬号を公開しました。
2011/01/11
VIEWSバックナンバーを追加しました。

更新履歴

2017/05/01
VIEWS 2017年春号を公開しました。
2017/02/01
VIEWS 2017年冬号を公開しました。
2016/11/08
VIEWS 2016年秋号を公開しました。
2016/08/08
VIEWS 2016年夏号を公開しました。
2016/04/20
VIEWS 2016年春号を公開しました。
2016/02/01
VIEWS 2016年冬号を公開しました。
2015/11/01
VIEWS 2015年秋号を公開しました。
2015/07/26
VIEWS 2015年夏号を公開しました。
2015/04/12
VIEWS 2015年春号を公開しました。
2015/01/04
VIEWS 2015年冬号を公開しました。
2014/10/09
VIEWS 2014年秋号を公開しました。
2014/07/18
VIEWS 2014年夏号を公開しました。
2014/4/21
VIEWS 2014年春号を公開しました。
2014/1/23
VIEWS 2014年冬号を公開しました。
2013/10/08
VIEWS 2013年秋号を公開しました。
2013/07/08
VIEWS 2013年夏号を公開しました。
2013/04/08
VIEWS 2013年春号を公開しました。
2013/01/09
VIEWS 2013年冬号を公開しました。
2012/4/9
VIEWS 2012年春号を公開しました。
2011/10/12
VIEWS 2011年秋号を公開しました。
2011/10/12
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2010/12/22
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2010/10/14
VIEWS 2010年秋号を公開しました。
2010/10/10
Webサイトをリニューアルしました。

バックナンバー

2017年
2017年春号(第49号)
2016年
2016年秋号(第47号)
2016年夏号(第46号)
2016年春号(第45号)
2016年冬号(第44号)
2015年
2015年秋号(第43号)
2015年夏号(第42号)
2015年春号(第41号)
2015年冬号(第40号)
2014年
2014年秋号(第39号)
2014年夏号(第38号)
2014年春号(第37号)
2014年冬号(第36号)
2013年
2013年秋号(第35号)
2013年夏号(第34号)
2013年春号(第33号)
2013年冬号(第32号)
2012年
2012年秋号(第31号)
2012年夏号(第30号)
2012年春号(第29号)
2012年冬号(第28号)
2011年
2011年秋号(第27号)
2011年夏号(第26号)
2011年春号(第25号)
2011年冬号(第24号)
2010年
2010年秋号(第23号)
2010年夏号(第22号)
2010年春号(第21号)
2010年冬号(第20号)
2009年
2009年秋号(第19号)
2009年夏号(第18号)
2009年春号(第17号)
2009年冬号(第16号)
2008年
2008年秋号(第15号)
2008年夏号(第14号)
2008年春号(第13号)
2008年冬号(第12号)
2007年
2007年秋号(第11号)
2007年夏号(第10号)
2007年春号(第09号)
2007年冬号(第08号)
2006年
2006年秋号(第07号)
2006年夏号(第06号)
2006年春号(第05号)
2006年冬号(第04号)
2005年
2005年秋号(第03号)
2005年夏号(第02号)
2005年春号(第01号)
これまでの特集
トランプのアメリカ
女性と政治
ファミリー・ネームから考える家族関係
シングル・マザー
日本と海外の子育て事情
非営利団体(NPO)で働く
国際機関で働く
マイブーム ~ 私がいま夢中になっていること
世界の新年の祝い方
Eデート体験記
サッカーへの熱い想い
世界に散らばる家族
語学習得への道
40代の過ごし方
日本にいる高齢の親を想う
ソーシャル・メディア
留学の意義を再び考える
復興へ
離婚
地震
高齢になったら
ボランティア
各国出産体験記
受験事情あれこれ
医療保険
新しい日米関係
食を考える
身近に感じる経済不況
異文化の架け橋
女性の社会進出
NPO
2008年大統領選挙
ワシントニアンが伝授する知られざるDCの楽しみ方
環境:私たちにとっての地球
芸術
国際協力
医療
教育への思い
私の夏
戦後60周年特別企画II
戦後60周年特別企画I
ワシントンと私
連載一覧
ワシントンと私
人・マイライフ
世界の街から
世界の家庭料理
家族の風景
私の本棚
旅・ギャラリー
特別寄稿
随筆