運動嫌いな私がハイキングを好きになった理由 相川 めぐみ(Aikawa, Megumi) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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運動嫌いな私がハイキングを好きになった理由:VIEWS 2017年春号(第49号)掲載

相川 めぐみ(Aikawa, Megumi)

冬、山道から見上げた空
冬、山道から見上げた空

子どもの頃にハイキングに行った記憶はほとんどない。もともと運動が得意な方ではなく、ボールを蹴ったり自転車に乗ったりするよりも、お絵かきしたり本を読んだり、空想の世界で遊んでいる方が好きな子どもだった。私たち姉妹が小学生の頃には、アクティブな父に連れられて毎週末家族でどこかへ出かけたが、父の趣味で夏は海かプール、冬はスキー(父がビールを飲めるところ)と決まっていた。また、転勤族の家庭に育ったため、「林間学校」や「自然教室」が行われた時期にたまたま日本を留守にしていて、学校でのハイキングデビューの機会を逸してしまった。そんなわけで、大人になってからもしばらくの間はハイキングと聞いても親しみがなく、なんとなく苦手意識があった。

大学を卒業すると、私は都内の女子中・高等学校で教員として働き始めた。『こころの健康、からだの健康』をモットーに掲げ、勉強と同じくらい行事や体験を大事にする、昔ながらの日本の学校の良さをたくさん残したこの学校は、私にとって日本社会を身をもって経験する場となった。掃除、部活、反省会、委員会、体育祭、応援団。義務教育の半分を国外で過ごし、「万年転校生」としてそれまでふわふわと避けて通ってきてしまったことを、教える側として初めて実体験しながら「こんなの私には無理かも・・・」と内心で弱音を吐く軟弱な新任教員だった私。そんな私にハイキングデビューの機会を与えてくれたのも、この学校であった。

この学校には毎年春と秋に1日ずつ学年活動日があり、学年の教員団が企画した催しを学年全体で行う。それは遠足だったり、スポーツ大会だったり、映画や美術鑑賞だったりしたが、大御所の先生方が一番こだわりを持っていらっしゃったのがハイキングであった。とくにハイキングの教育効果を熱く信じる主任の学年に配属となり、私たちの学年の活動日は毎年最低一回、時には二回ともハイキングがお決まりであった。新任研修にて「足に合ったハイキングシューズを購入するように」と先輩教員に真剣な顔でアドバイスされた時の驚きと動揺を、今でも覚えている。

夏、一面深緑色の景色に映える赤い実
夏、一面深緑色の景色に映える赤い実

このハイキング、「女子校の遠足」と聞いて想像するものよりもずっと本格的だった。中学1年生の高尾山から始まり、陣馬山、城山、高水三山、景信山、大岳山、日の出山・・・などなど、東京近郊の登山スポットを次々に制覇していった。コースも、1、2時間のものではなく、運動に慣れた人が休憩なしに歩いても3、4時間はかかるコースが選ばれる。そのため、体力も経験もまちまちな300人の生徒がいる学年みんなで歩くと、早朝にスタートして夕方までたっぷりかかる。そして、生徒を引率する前には必ず教員のみで事前下見をするため、教員は同じコースを二回歩くことになる。

秋、紅葉の時期のハイキングは格別
秋、紅葉の時期のハイキングは格別

そんなわけで、私は教員としての経験を積みながら、ハイキングの経験も積んでいったのである。学年活動のハイキングでは、10人ほどの教員がチェックポイントや遊撃(途中で迷子やけが人が出た場合に駆けつける)など様々な役割に配置される。体力も経験もあまりない私に、学年主任が与えた役割は「先頭」であった。これは、文字通り生徒の列の一番先頭に立って歩き、速度を調整する役目である。だいたい先頭には陸上部やバスケットボール部など、日頃から身体を鍛えている生徒たちが集結する。ここで先頭の教員も運動神経抜群だと、どんどん先にいってしまって300人の速度のばらつきが大きくなりすぎてしまうので、私のようなゆっくりめな教員が選ばれるわけである。「頂上まであと何分?」「先生、遅い!」などと5分おきに言われながら、なんとか必死で教員としての体面を保ち、私にとっての最速スピードで一歩一歩山道を踏みしめる。最初の頃は登山開始30分で息が上がっていた私も、回数を重ねるごとに生徒と会話を楽しめるほどに鍛えられていった。

春、土から顔を出した薄紫色のクロッカス
春、土から顔を出した薄紫色のクロッカス

教員時代のハイキングを思い出す時、きれいな景色や、山頂で食べるお弁当の美味しさよりもまっさきに思い出すのは、生徒や同僚の先生方との普段とは一味違った会話である。普段学校では生徒も教員も忙しく、1対1で話せるのは掃除やHR中の5分間とか、長くても生徒面談の2、30分。ところが、ハイキング中は「あと3時間もあるな」というゆったりとした気分のもと、会話の流れに身を任せてしまうことができるのだ。生徒たちが話してくれるのは、例えば高校生のお兄ちゃんがオタクになってしまうのではないかと心配しているという話や、実はおばあちゃんっ子であるという話、大の仲良しの二人が入学当時は全然仲良くなかったという話、最近飼い犬が死んでしまってとても悲しい、といった話。また、先輩の先生たちは、1年目のときの面白大失敗談を語ってくれたりした。先頭グループ5、6人で3時間以上しりとりをしたこともあった。教室でするにはちょっとした覚悟がいるような深刻な話も、美味しい空気と開けた景色の中だとさらっと出来てしまうのも不思議だった。就職当初はハイキングに明らかな苦手意識を持っていた私だったが、3年目を過ぎる頃には学年活動日に山へ行くのをそれなりに楽しみに思うようになっていた。

友人たちと会話を楽しみながらハイキング(筆者は左)
友人たちと会話を楽しみながらハイキング(筆者は左)

約3年半前、大学院進学のために渡米した私は、新しくできた友人たちに趣味を尋ねられると、読書や料理に加えて必ず「ハイキング」と言うようになっていた。ワシントン近郊には、車で2時間以内にたくさんのハイキングコースがあり、勉強の息抜きに友人たちとよく出かけた。大学院を修了し就職をしたあとも、日頃の運動不足を解消するため、週末に時々出かけている。日本人の友人とお弁当を持って出かけることもある。山頂でおにぎりをほおばっていると、教員時代に生徒がしてくれた話を次々思い出して、とても懐かしくなる。こちらで知り合った友人たちとも、山道を歩きながら時間を気にせずに気が向くまま会話ができるのは、私が今でも喜んでハイキングに出かける一番の理由である。

今年もハイキングシーズンがやってきた。次の週末にでも、早速出かけるのが楽しみだ。

著者紹介

相川 めぐみ(Aikawa, Megumi)

神奈川県出身、日・米・英育ち。国際基督教大学卒業後、都内の私立中高一貫校で英語教員として勤務したのち、メリーランド大学にて教育学修士取得。現在はワシントンDCにて教育・国際交流NPOに勤務。



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