トランプ政権下の移民政策 丸山 裕美(Maruyama, Hiromi) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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特集 トランプのアメリカ

トランプ政権下の移民政策:VIEWS 2017年春号(第49号)掲載

丸山 裕美(Maruyama, Hiromi)

イスラム教7カ国からの入国を禁止する大統領令

「アメリカ・ファースト」を唱え当選したトランプ大統領が、就任直後(1週間後)に主にイスラム教の国である7カ国からの入国を90日間禁止し、また難民プログラムも120日間停止したことは記憶に新しい。予告期間もなく即日施行だったため、何も知らずに空港に降り立ったこれらの国からの乗客だけでなく、航空会社、受け入れ先である米国雇用者や大学・研究機関などが巻きこまれ、かなりの混乱をきたした。

その後ワシントン州とミネソタ州が、本大統領令は合衆国憲法修正第1条(Establishment Clause:国教の禁止)及び同修正第5条(Due Process Clause:法の適正な適用)に反し違憲であること、Administrative Procedure Act, Religious Freedom Restoration Act, Immigration and Nationality Act等に反し違法であることを理由にトランプ政権を相手に提訴し、それを受けた裁判所が原告側の州の訴えを認め、臨時的に大統領の執行を停止する命令(Temporary Restraining Order、その後Preliminary Injunction)を出した。その結果、当初の大統領令は実質的に執行できなくなった。

3月初めにトランプ政権は、新たに修正大統領令を出し、グリーンカード保有者や米国軍が駐屯しているイラクを対象から除いたが、この新しい大統領令についてもハワイ州やバージニア州、メリーランド州が違憲・その他の違法性を理由に訴訟をおこした。それぞれ担当した連邦地方裁判所によって異なる判断が下されているが、ハワイ地区連邦地方裁判所が州の基本的訴えを認めて、臨時的に大統領の執行を停止する命令を出したため、再び修正大統領令も執行できない状況となっている。これについてはトランプ政権が第9控訴裁判所と第4控訴裁判所に控訴中である。

移民や難民はテロ、失業の原因か

トランプ大統領は選挙活動中から、移民や外国人受け入れが、米国内でのテロ活動や犯罪の原因となっているというばかりか、アメリカ人の雇用も奪っているとして、移民や外国人雇用を制限すべきという立場をとってきた。外国人雇用、特にH-1Bビザプログラムについては、トランプ政権発足以前から米国議会でも制限しようという動きがみられており、現在もSTEM(science, technology, engineering, math)関連の学位を持つものを優先的に扱い、支給給与額やその他の関連コストを現在より引き上げることを目的とする法案も出されている。

外国人受け入れについては、滞在外国人による経済活動による税収増加などのプラス面と、社会福祉負担の増加というマイナス面との両方が議論されるが、高学歴者の受け入れにおいてはプラスの効果が高いという研究結果が多いようである。アメリカではまさにカリフォルニア北部のシリコンバレーが良い例で、アジア・ヨーロッパ出身の多くの外国人が就労ビザや貿易・投資ビザなどで入ってきて、ビジネス・インキュベーターとして投資したり、または新しい技術革新でビジネスを展開しようと切磋琢磨している。こうした人々が、就労ビザ取得の困難さや反外国人的態度に嫌気がさし、米国外(特にカナダやシンガポールなど)に流出してしまうことは、米国にとってもマイナスであろう。

反面、白人が多数派から少数派に既に変わっているまたは変わりつつある今、いままで多数派として自分が当然と認識していた文化や価値が社会のスタンダードでなくなることに対し恐れもあるのであろう。こうした変化への抵抗が、外国人受け入れに対して排他的な態度を取る原因の一つであるようにも思われる。こうした感情は、日本でもみられ、何も珍しいことではない。が、多文化共存・共生は、まさに自分も少数派になり得ることを前提とするものであり、少数派が少数派である限りにおいて社会の隅っこに共存することを許すというものであるべきでない。

アメリカの経済や外国人雇用問題については、外国人を排除する前にまだまだ出来ることはあると思う。労働市場で求められているスキルを得るための再訓練も然り、またワシントン・ポスト紙の社説にもあったが、失業者をアメリカ国内で仕事のある地域へ「国内移民(domestic migration)」させることを促すといった政策も一案だろう。アメリカ人の雇用を奪っているとして外国人受け入れを制限する政策は、あまりにも短絡的であるだけでなく、原則的に市場原理を推奨する共和党的政策とも相反し違和感がある。

期待薄いテロ防止効果

更にテロ防止という大統領令の理由についても、2001年9月11日より現在まで、安全保障という面では米国政府はそれなりに出来ることは全てしてきたはずである。全ての面において完璧な入国審査をすることは非現実的であり、今回の大統領令で目的としている「現行の永住権や難民審査、ビザ発給審査の検証」によって有効な解決策が見つかるとは考えにくい。しかも、外国人による犯罪やテロ活動が、米国市民による犯罪やテロ活動より圧倒的に多いなどという統計はないと理解している。とすると、トランプ政権による今回の大統領令は、難民やイスラム教徒をアメリカから排斥することが目的だと捉えられても仕方がないのではないか。

多くの無力な赤ん坊や子供を殺すことは一線を越えたとして、シリアを空爆したトランプ大統領だが、化学兵器の犠牲者となったかわいそうな子供とその家族が難民申請をしても、トランプの大統領令下では入国は許可されないことになる。また米国での治療を受けるためビザの申請をしようとしても、ビザ申請は認められないことになる。トランプ大統領には、こうした矛盾と思われる点を説明し、一貫した政策であることを是非示してもらいたいものである。

著者紹介

丸山 裕美(Maruyama, Hiromi)

カリフォルニア州・ワシントンDC弁護士。国際基督教大学語学科卒、ニューヨーク州立大学アルバニー校大学院コミュニ ケーション学修士課程、ジョージタウン大学ローセンター法務博士(Juris Doctor)課程修了。メリーランド州チェビーチェイス在住。趣味はバレエ、音楽鑑賞、観劇。



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