「オリーブの木」に託す希望〜マルマラ海地方で娘の「手作り」結婚式〜 丸本 美加(Marumoto, Mika) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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家族の風景

「オリーブの木」に託す希望〜マルマラ海地方で娘の「手作り」結婚式〜:VIEWS 2017年夏号(第50号)掲載

丸本 美加(Marumoto, Mika)

トルコ式披露宴はダンス・ダンス・ダンス
トルコ式披露宴はダンス・ダンス・ダンス

西アジア・マルマラ海地方に魅せられた娘

浴衣姿の美亜とアリさん
浴衣姿の美亜とアリさん

娘が結婚しました。米国人の父と日本人の母を持つ娘に、アメリカ(亜米利加)とアジア(亜細亜)の架け橋になってほしい、という願いを込め「美しいアメリカ・美しいアジア=美亜」と命名したのは昨日のことのよう。それから、フィリピン、日本、中国、韓国、アメリカの5カ国で育った美亜。15年前、彼女が10歳の時、家族旅行に出かけた新疆やタクマラカン砂漠での異文化体験が、まさか娘の進路を決定づけるきっかけになろうとは、夫も私もその当時、つゆほどにも想像できませんでした。

その家族旅行がきっかけで、美亜が関心を抱き始めた西アジア。大学で人類学を専攻し、アラビア語とトルコ語を習得。大学卒業後は、トルコへ渡り2年間英語教師を務め、ちょうどその頃、優しい瞳をしたトルコ人青年のコンピューター技師アリさんと出会いました。娘の誕生から25年経たこの夏、眩しい太陽の日差しでキラキラと輝くマルマラ海に面したアリさんの故郷ブルサ(Bursa)で、娘は結婚式を挙げることになりました。

結婚式はミア・アリ流の「手作り」で

「アリにプロポーズされたの。結婚式はトルコで。そして、日本とアメリカの文化も取り入れながら二人で計画するから、少しだけ準備を手伝ってくれる?」去年、英国の大学院に留学中だった娘が、トルコ在住の婚約者アリさんとの手作り結婚式の計画を切り出しました。やはり国際結婚か、と妙に納得できたものの、大学院の最終試験や修士論文を執筆しながら遠距離で準備は大丈夫?新婦の親や家族は言葉もわからないトルコで何ができるの?一抹の不安を拭い去れないまま二人の計画をサポートする以外、手伝う術のない私たちでした。

すると、「お母さんは、結婚式場のテーブルにお花と折り紙の飾りをお願い。ワワ(東京の祖母)が、紅い浴衣を持ってきてくれるかな?」、妹には「2日間ブライド・メイドの役割とその他諸々の準備をお願いするから」、弟には「式直前にアリと家族や親族が花嫁の私を迎えに来るから、トルコの伝統らしいけど、花嫁の男性の家族が引き渡しを焦らすの。そのパフォーマンスを何か考えて!」と難題を課します。父親には「トルコの結婚式は、花嫁の父とヴァージン・ロードを歩く伝統がないから、アメリカのように一緒に式場に入って欲しいの」と。家族一人ひとりの役割は課されたものの、トルコ式伝統婚礼についてほとんど何の知識もないまま、そして直前の準備や段取りもわからないまま、トルコへ向かうことになったのです。

初めて経験する前夜祭ヘナ・ナイト

花嫁と女性の友人や家族・親族が集うトルコ伝統の前夜祭のヘナ・ナイトでは、80歳になるワワが日本から持参した紅色地にピンク色の大柄花模様の鮮やかな浴衣が大活躍。浴衣で踊るトルコ・ダンスもなかなか粋、と感じたのは日本人の私だけではなかったようです。ヘナ・ナイトに日本の文化を織り込みたい、という娘のアイデアは大好評でした。

ヘナ・ナイトの佳境
ヘナ・ナイトの佳境

そして前夜祭の佳境。トルコ伝統婚礼服に衣装替えし、紅いベールに包まれた花嫁が花婿とともに登場します。銀色の衣装を纏ったブライド・メイドの持つロウソクの灯りに導かれ、女性たちの祝福を受けながら、紅いベールが花婿の手で捲られると、大喝采が沸きました。ロウソクに灯されただけの薄暗い会場が、花嫁の満面の笑顔で明るくなるのです。トルコ人の親族に促された私は、花婿の手のひらにヘナを塗り、紅いレースの布でその手を包みました。花嫁、親族、友人の手のひら、甲や指に、髪染としても知られる「ヘナ」で模様をつける風習は、新郎新婦に幸運を招くため魔除けとして伝わる婚礼伝統の一つです。それから深夜まで、トルコの伝統音楽に合わせ祝福のダンスを心ゆくまで踊りながら、ゆったりとした時が流れました。

ローズ・ガーデンの挙式・披露宴のドタバタ準備

翌朝、ヘナ・ナイトの余韻に浸る間もなく結婚式当日を迎えました。午前9時、次女の玲亜が手作りで準備した花瓶を一つ持参し、花嫁と共に市場へ(英語も日本語も通じないため、結局、トルコ語ができる花嫁が全ての準備に関わらなければならなかったのです。)娘のお気に入りのかすみ草・ひな菊に真紅の薔薇を一本添えてサンプルをひと瓶作り、披露宴のテーブル用の花を注文しました。その時、初めて来賓約350名、テーブル数は40と知らされ唖然。間に合うかしら、と一抹の不安にかられます。

早速、式場となるローズ・ガーデンで40花瓶のフラワー・アレンジメントを開始。各テーブル用に折り紙で、ゆりの花とボックスも折ります。周到な準備をしていたはずの花嫁の「手作りリスト」からすっぽりと抜け落ちていた(!)ブーケも、彼女が大好きなかすみ草で、即席で創作。花婿と家族のためのコサージュも、ジンクス(夫の母でアメリカ人祖母)が手際よく準備してくれました。「猫の手よりマシでしょう?」と、日米両国から孫娘の結婚のお祝いに駆けつけてくれた祖母二人は、慌てる母を落ち着かせようと、ジョークを飛ばしながらDo-It-Yourself結婚式のドタバタ準備に参画してくれたのです。

花婿を阻むチャレンジ・ゲームを経て、ヴァージン・ロードへ

式場でのドタバタ準備の一方、花嫁の親族の宿泊先では難題を突きつけられていた弟カイルが、幼少の頃からのいたずらっ子精神を大いに発揮し、着々と準備を進めていました。花婿が家族・親族、友人とともに花嫁を迎えに来たらできるだけそれを阻む寸劇を披露する、という面白い伝統がトルコにはあるようです。事前にその伝統についてカイルに教えたと思い込んでいたアリさん。お財布からコインかお札を一枚取り出せば、事は済むだろうと安心しきっていたようです。そんな花婿の不意を衝き、息子カイルは真剣に「遊び心」を取り入れ、親族・友人を笑わせ、花婿のアリさんを困らせることに大成功。

花婿が花嫁の男性家族と交渉中
花婿が花嫁の男性家族と交渉中

まず、花嫁の父と叔父も動員して花嫁の待つ部屋の前に座り込み。次に花嫁の部屋の鍵はここにはない、と切り出しました。財布からお札を一枚取り出したアリさんに、「そんなのは僕にとってはトイレットペーパーだよ」と言ってのけるカイル。最終的には鍵の在りかを教えましたが、何とそれはプールの中!それを知らされた花婿は、大慌てで一目散にプールへ向かいます。そこに、怪しげな白い紐を見つけ手繰り上げると、重しをつけた部屋の鍵がプールの底から引き上げられました。鍵を掴んだアリさんは花嫁の待つ部屋へ向かってダッシュ。(それから、まだまだ友人たちの攻勢もありましたが、ここでは割愛します。)

こうして無事にローズ・ガーデンの式場へ向かい、何と約2時間遅れ(!)で花嫁と花嫁の父が登場。どうなることかとハラハラさせられましたが、300人以上の来賓は、老若男女問わず、トルコ伝統音楽が流れ始めると喜び勇んでダンスを楽しみ、深夜過ぎまで祝宴が続きました。ミア・アリ流「手作り」結婚式・披露宴は驚きと楽しみが満杯でした。

オリーブの苗木に込めた思い

家族とともにオリーブの苗木を植樹
家族とともにオリーブの苗木を植樹

トルコの伝統と日本や西洋の文化も随所に盛り込んだミア・アリ流の前夜祭・結婚式もさることながら、より感銘を受けたのは、前夜祭前の植樹式でした。二人からは「両家が一緒にオリーブの苗木を植えるから」と聞かされただけで特段の説明はありませんでした。でも、「平和と知恵」を象徴するといわれるオリーブの木。二人の想い、願いがしっかりと心に響きました。アリさんの親族が暮らすブルサ、ゲムリック山地の土壌に触れながら、二人の育った環境・文化・宗教が異なれど、お互いに愛と尊敬の念を抱き、また周りのすべての人々に平和を願い、どんな困難も二人の知恵で乗り越えてほしい、と静かに祈りながらオリーブの苗木を植えたのです。

アメリカと東アジアがもっぱら生活や仕事の拠点だった夫と私にとって、トルコで未知の世界へと扉を開いてくれた美亜とアリさんの手作り「オリーブ」結婚式。マルマラ海を見渡しながら祝福と感謝の気持ちで胸が一杯になり大粒の涙が頬を伝う瞬間でした。

著者紹介

丸本 美加(Marumoto, Mika)

人口と開発に関するアジア国会議員フォーラムの事務局長。アジア太平洋諸国の国会議員ネートワークを強化し、女性エンパワーメント、高齢化問題、若者への投資などの社会問題アドヴォカシー活動に従事。バンコク在住。



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