成功する子 失敗する子――何が「その後の人生」を決めるのか ポール・タフ(著) フロスト飯田 優子(Frost, Yuko Iida) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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成功する子 失敗する子――何が「その後の人生」を決めるのか ポール・タフ(著):VIEWS 2017年夏号(第50号)掲載

フロスト飯田 優子(Frost, Yuko Iida)

日本語訳は「成功する子 失敗する子――何が『その後の人生』を決めるのか」(英治出版)
日本語訳は「成功する子 失敗する子――何が『その後の人生』を決めるのか」(英治出版)

原題Paul Tough, How Children Succeed: Grit, Curiosity, and the Hidden Power of Character (New York: Houghton Mifflin Harcourt Publishing, 2013)

この本を批評するまえに、まずこの本の7-8年前に出版された「マインドセット」(Mindset: The New Psychology of Success)という本について書かないと、著者タフ氏の言おうとしていることが半分しかわからないと思うので、簡単に紹介します。

Mindsetの著者、心理学者のCarol Dweck女史は、子どもの成績表だけをみて、その子が「頭がいい」「優れている」、従って「将来は必ず成功する」というような、非常に短絡的また、有害でもある評価方法を使っていたアメリカの親や教育者に警告した画期的な学者です。アメリカで子どもを育てている親や教師にとっては、目からうろこが落ちるような指摘で、すでに10年も経た今もベストセラー。教育者の間では、彼女の考え出したGrowth Mindset 対 Fixed Mindsetというコンセプトが教育方法の聖書のごとく普及しています。

ジャーナリストであるタフ氏は、Carol Dweck女史やほかの心理学者や教育研究者が唱え始めた「IQは固定していない」、「成功に必要な性格を育てることこそ必要」という成績重視有害説を実際に自分の目で確かめるため、全米で生徒や教育者にインタビューし、この本(How Children Succeed)を書きあげました。ジャーナリストらしく、全国で、特に貧しい地区のK-12(幼稚園から高校)の現場で観察を重ねました。学力だけが目標の教育は、子どもたちをいつしかだめにしている、つらいことも難しいこともやりぬく力(Grit)や様々な問題に柔軟に対応できる楽天性、また他人の気持ちを自分のごとく感じることができる共感力(Empathy)などの性格を鍛えることが、より重要であるという議論をしている学者らを紹介しています。結果的に、心理学者のDweck博士の著作Mindsetを現場の例を集めて立証した結果になっていると思います。

タフ氏は、その他にもいろいろな心理学者や教育学者による、子どもを「成功」させる原因についての議論を紹介しています。IQや成績表は大昔の判断基準であって、新しい定規は「性格」である、という専門家の議論についても語っています。では、どんな性格が大切であるかというと、「やりぬく力(Grit)」「自制心」「意欲」「社会的知性」「感謝の気持ち」「オプティミズム」「好奇心」、「動機」、「共感」があげられています。

学者たちは、性格というのは生まれもったものではなく、訓練や経験によって得たり失ったりするものであるとも指摘しています。そして、これらの性格の中には、過剰でも過小でもだめなものもあるとのこと。たとえば、自制心が強過ぎると、意欲がなくなったり、動機があっても感謝の気持ちが少ないと傲慢な人間になって、成功しないそうです。

最近、Gritという著書で有名になった心理学者のAngela Duckworthペンシルバニア大教授は、これまでアメリカの教育程度が低いのは、教育者の教育方法が圧倒的に悪いからだと思っていたけれど、生徒自身の責任の欠如もかなり影響しているという意見に変わりました。そして、生徒の性格を一人ひとりの環境に照らし合わせて分析していかないと、理解は難しいという考えに至りました。そして、「好奇心」と将来に対する「楽観性」という二つの性格が、最も成功に影響するという結論に達したようです。

これまで大学への入学は、成績とテストの点で決まっていました。しかし、最近では生徒の性格、人道性も重視するようになってきました。たとえば、ハーバード大学に入学が決まっていた生徒が、過去に人種差別的な活動をしていたことが発覚し、入学取り消しになったことはこの一例だと考えられるでしょう。

読者の中には、この本はアメリカの貧困と教育の問題が中心に語られていて、日本人にはあまり関係がないと思われる方もいるかもしれません。が、「やり抜く力」などの性格が、いかに成功につながっているか、また本当の「成功」とは何かを考えるとき、日米それぞれの教育制度の中で育っている子どもたちが、これから国際社会に出て行く際、過去の定規では測れない能力や性格面などがもっと重要になってくるでしょう。その意味で、タフ氏の本は刺激的な必読の書であると思います。

著者紹介

フロスト飯田 優子(Frost, Yuko Iida)

スミス大学政治学専攻後、エール大学でMBA取得。ブルッキングス研究所で経済部門のリサーチアシスタント、非営利団体セーブザチルドレン米国で現地での国際協力促進の役目を経て、現在はバージニア州のフェアファックス郡外国語immersionプログラムの一環として理科と算数を日本語で教えている。



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