佐光紀子著「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす 池原 麻里子(Ikehara, Mariko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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佐光紀子著「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす:VIEWS 2018年冬号(第52号)掲載

池原 麻里子(Ikehara, Mariko)


友人からメールで送られてきた、鍋料理に入れるお野菜と一緒に飾られた大根おろしアートの写真。「うーん、これって食べる時にはすぐに崩れちゃうのに、すごく無駄なエネルギー」というのが私の率直な第一印象だった。そうしたら、数か月後に見た新聞になんと「大根おろしアート 食卓を楽しく」という特集記事が載っているではないか!鼻や口ははんぺんや海苔で表現した熊さんなどが写っている。こういう記事を読んで、日本の女性は皆さん、張り切っちゃうのだろうか????

そういえば、いわゆる「キャラ弁」と言われるお弁当も色々と飾り付けが大変だとか。海苔の型抜きなど、キャラ弁用のグッズも販売されているらしい。そういえば、幼い頃はたこウィンナー(ウィンナーに切れ目を入れて、たこ足にみせたもの)とか嬉しかったかも。でも昨今の凝りようは並大抵ではない。子供にとっては手をかけたキャラ弁こそがお母さんの愛情みたいにとらえられているのかもしれない。

それに比べ、私が長年、暮らしているアメリカでは、主婦、特に働く女性は家事にかなり合理的に手を抜いているように思う。子供のための手料理もたまに作るクッキーやカップケーキくらいではないか。

そんな時にある書評欄で目に付いたのが『「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす』。タイトルに興味をひかれ、さっそく読んでみた。当然ながら「家事のしすぎ」は日本女性についての話だ。日本人女性の多くが、完璧家事、手作りを礼賛する社会的プレッシャーに直面している現状が描かれている。

著者は海外在住経験もあり、翻訳家として海外の友人も多く、家事や掃除術の専門家だとのこと。実体験と調査などに基づき、気楽な家事との付き合い方を本書で提案している。

第1部 完璧家事亡国論

2016年3月のニューズウィーク誌「日本は世界一『夫が家事をしない』国」という記事によると、国際社会調査プログラム2012年調査で、調査参加国33か国中、18歳未満の子供がいる家庭の男性の家事・家族ケア分担率は、日本が最下位だったそうだ。OECDの2016年の統計でも、男性の家事負担はOECD加盟国平均で31%、日本はその半分以下の15%だった。

一週間当たりの家事にかける時間と、男性の分担率(OECD)
一週間当たりの家事にかける時間と、男性の分担率(OECD)

これには男性中心の社会的規範に加え、女性の専業主婦願望、仕事より家事や子育てをして、夫をサポートするのが女性の役目という考えを持つ女性が少なくないことも関係していると著者は指摘する。専業主婦に育てられ、父親が家事を手伝うことを見たことがない男性は妻が専業主婦であることを求めたり、あるいは働く妻でも全面的に家事を負担することが当然と考えているのではないだろうか。

そもそも欧米の朝食はとてもシンプルで、日本のように調理が必要な手間をかけた朝食など平日は見かけない。しかも主菜、副菜を取り入れたバランスのとれた朝食などは、日本でもどうも近年の傾向のようだ。かつて京都ではお昼にご飯を炊く習慣があり、朝食と夕食にお茶漬けがよく登場したという。

それが今は、見栄えのするお弁当や夕食の写真を拡散するSNSのせいで、世間体を気にする母親へのプレッシャーが高まっているらしい。

女性への家事依存は、仕事や子育てが一段落したシニア夫婦の間で夫の定年を機とした「卒婚」や「離婚」が増えていることにつながっているようだ。家事や身の回りの世話をしてもらって当然という男性から「定年」したいのだろう。厚生省の統計によると、近年、同居年数20年以上で離婚する夫婦は離婚件数のうちほぼ2割に達するとのこと。「断捨離したいものはなんですか」というアンケートに、「夫」と答える女性が多いらしい。

第2部 片づけ過ぎが家族を壊す

本書の後半は断捨離に関するものだ。ここで著者は意外にも、物が多いと片付かず、女性の負担が増えるという批判はしていない。日本の家は和洋折衷で要るものが多いから片付かないのは当然、華美も贅沢も質素も1つのライフスタイルであり、質素倹約を重視する日本の道徳的価値観を過剰に賛美するのはおかしいと、むしろ断捨離に否定的だ。

ミニマリストは本来、生活をシンプルにすることが目的だったのが、物を捨てているうちに、より多くの物を捨てることが目的になってしまい、物を増やすことへの罪悪感も強くなるそうだ。

「もったいない世代」に生前整理をというのも、残された者が大変だからという発想が自己中心的だと指摘する。でも、遺族が大変なのは違いない。遺族に迷惑をかけないように自主的な生前整理することは思いやりだ。

著者によると、古い価値観に振り回されず、自分の生活に自信を持って暮らすこと、家事を含めて日々の暮らしを自分らしく楽しむことが重要なのだそうだ。何がその人にとって大切か、価値のあるものかは有形無形のものを含めて、それぞれだ。確かに「断捨離」とシャカリキにならず、無理をしない程度に整理する自然体が良いのかも知れない。

著者紹介

池原 麻里子(Ikehara, Mariko)

東京都生まれ。成蹊大学英米文学科卒。ソニー本社国際通商業務室、法務部に勤務後、米ジョージタウン大学外交学部で国際関係修士号取得。公共政策専門チャンネルC-SPANの日本向け番組制作を経て、現在ワシントン在住のジャーナリストとして活動中。



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