スペインと移民 荒川 恵子(Arakawa, Keiko) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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特集 移民として生きる

スペインと移民:VIEWS 2018年春号(第53号)掲載

荒川 恵子(Arakawa, Keiko)

多民族の国

スペインには、元々イベロ人という先住民がいた。その後紀元前、地中海側にフェニキア人、ギリシア人がやって来た。同じ頃、北部大西洋側ではケルト民族が進入した。その後やってきたローマ人はイベリア半島をほぼ全域支配。5世紀にゲルマン系民族が進入し、ローマ人は一掃され、8世紀には南からイスラム教徒がやってきて、イベリア半島のほとんどを支配し、15世紀のレコンキスタ完了までその支配が続いた。

スペインに様々な民族がやってきただけでなく、スペインからも多くの人が移民している。米西戦争や内戦で国が疲弊した際は、欧州の他国や中南米へ、仕事を求めて移住する人が非常に多かった。

スペインが1986年に当時のEC(現EU)に加盟してからは、スペインの好景気とも相まって、海峡を渡ってやってくるモロッコ人が増え、EUが拡大してからは、ルーマニアなどの東欧諸国から大勢の移民が押し寄せた。多くは、建築現場・倉庫・工場での仕事、農作業に従事。彼らの大半は、まずは単身でやってきて、その後、故国の家族を呼び寄せているため、移民として数えられる人数のうち30%近くは扶養家族と思われる。また、スペインのかつての植民地である中南米からも、多くの人々が働きに来た。彼らはスペイン語を話すので、家政婦、看護師、介護、ベビーシッターとしての需要が高い。この20年位はパキスタン人や中国人も急増し、バルセロナではチャイナタウンが出来つつある。さらに、近年は、サハラ砂漠以南の国からの密航者も多く、彼らは身分を証明するものを持っていないため、どこの国の出身か分からない。

主にサハラ砂漠以南のアフリカからの不法移民で、トップマンタまたはマンテーロと呼ばれる人々
主にサハラ砂漠以南のアフリカからの不法移民で、トップマンタまたはマンテーロと呼ばれる人々

模造のブランド品を大きな布に並べ、安値で売っている。警察が取り締まりに来ると、布の4隅をつかんで逃げる
模造のブランド品を大きな布に並べ、安値で売っている。警察が取り締まりに来ると、布の4隅をつかんで逃げる

バルセロナ。ヨットハーバー横の遊歩道で
バルセロナ。ヨットハーバー横の遊歩道で

スペインにやって来る移民は、労働目的だけでない。ドイツ・イギリス・フランスなどからは、気候が良く、公立医療機関での診療が無料で、生活費が比較的安く済むスペインで余生を過ごしたいと移住してくる人も多い。現在では、スペインの人口約4,600万人のうち、約13%が外国人とのこと。

対移民感情

そのような民族の多様性がベースにあり、またカトリックの互助の精神もあり、スペイン人は移民に対して寛容な気がする。移民だから、外国人だからという理由で差別されたり、嫌がらせを受けたりすることは少ないと思う。

スペイン政府は、不法滞在者に対しても公共医療サービスや教育の機会を与えていたため、移民天国と呼ばれていたが、2012年に不法滞在者に対する公共サービスを中止した。その際も、人道的立場からの反対論が多く出た。しかし、移民の多い地区では、公立学校における移民の子供の数が増え、教育レベルが下がったと言う理由で、私立の学校に子供を通わせるスペイン人家庭も増えているらしい。

一方、この移民の多さは、現代のスペインの助けにもなっている。スペインは、出生率が20世紀末には1.18にまで落ち込んでしまったが、2010年には1.38まで回復した。これは、スペインに来る移民が比較的若い世代であり、またイスラム系の家族が子沢山であることが影響しているらしい。スペインは日本に次いで世界の長寿国となり、少子高齢化が問題となりつつあるのだ。

2004年3月にはマドリードで、イスラム過激派による列車爆破事件が発生し、191人が死亡、2000人以上が負傷した。また昨年8月に、イスラム過激派が、バルセロナとカンブリスで遊歩道を車で暴走し、100人以上の死傷者が出るというテロ事件が起きた。死傷者の多くは外国人観光客だったが、スペイン人も数人被害にあった。翌日には、国王夫妻・首相・各政党党首らも参加して、バルセロナで大規模な追悼集会が行われ、スペイン社会全体がテロに対して激しく抗議した。他方、数日後、犯人達が住んでいたカタルーニャの北部にある町のイスラム教の指導者が、亡くなったスペイン人の家族に許しを請い、家族はそれを受け入れ、握手したのがとても印象的だった。そのような事件のせいで、イスラム系の人に対する目は厳しくなったような気がする。

ハラル肉屋、イスラム教徒用に処理した肉を扱う店
ハラル肉屋、イスラム教徒用に処理した肉を扱う店

また、中国人は独自のコミュニティーを作り、模造品や、安かろう悪かろうの商品・サービスをしばしば提供するので、信頼度は高くない。このような移民に対する違和感・不満が溜まってくると、移民が起こした何かの事件をきっかけに、日頃の不満が爆発して、襲撃などの事件にエスカレートすることがあり得るし、実際に起きてしまっている。

私の周辺

私自身は、スペインに住む以上、スペイン人の考え方・文化を理解したいと思い、彼らの生活を観察したり、意見を聞いたりしているし、尊重しているつもりである。そのせいか、差別されたり、嫌な思いをしたことはない。

こちらでの日本人の友人の多くは、スペイン人と結婚し、子供を現地の学校に通わせ、スペイン社会に溶け込んでいる。彼女達も嫌な思いをしたことはほとんど無いと言っている。彼女達はスペインで生活していく覚悟が出来ているように私には見えるのだが、日本にいる年老いた親の事を考えると、心が揺れるとも言っている。それに、こちらに長く住んでいても、自分達はスペイン人にはなれないし、と言って、日本人としては変な日本人になっていて、日本で生活するのも難しい。二つの祖国の間で揺れる自分があり、切なくなる時もある。

また、バルセロナを中心とするカタルーニャは、カタラン語が理解できないと住みにくい状況になっている。市役所などのお知らせは、スペイン語とカタラン語併記が原則なのだが、カタラン語でしか書いてないことも多く、カタラン語の分かる人に聞いたり、自動翻訳機にかけたりしている。こちらの人が複数集まると、私に対してはスペイン語で話してくれても、彼らの間ではカタラン語で話すので、私には理解できない。私もカタラン語を理解できるようになりたいとは思うが、自分が置かれた状況ではなかなか難しい。バルセロナが大好きで住んでいる私だが、ここに住み続けるかどうか決められないでいる。

著者紹介

荒川 恵子(Arakawa, Keiko)

東京都出身 早稲田大学法学部卒 大学卒業後、海運会社で働いていた際、ひょんなことでスペイン語を学び始め、その後、バルセロナに4年半住む。一旦日本に帰り、日本で15年程働くが、再びバルセロナに住みたいとの思いから、現地での仕事を探し、2008年より再びバルセロナ在住。現在は輸出関係の会社に勤務。



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