命ある限り、輝いて マキ 奈尾美(Maki, Naomi) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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家族の風景

命ある限り、輝いて:VIEWS 2018年夏号(第54号)掲載

マキ 奈尾美(Maki, Naomi)

モスクワ市内のダンチェンコ音楽劇場でInternational Women’s Club of Moscow </br>(モスクワ国際女性クラブ)イベントに出演(2014年)
モスクワ市内のダンチェンコ音楽劇場でInternational Women’s Club of Moscow
(モスクワ国際女性クラブ)イベントに出演(2014年)

2009年春の号に投稿をさせて戴いてから9年の歳月が流れました。

その後モスクワで5年半の生活が続きますが、そのモスクワ滞在中、まず長女がイギリスの大学へ、年子の長男はカナダの大学へ、その後次男もイギリスへ巣立ちました。6人家族で大移動を繰り返してきた私たち家族は、ロシアを出る時にはたった3人での引越しとなり、2014年夏に日本へ。とにかく、子供が同じ屋根の下から去って行くことは大変寂しく感じられました。

日本へ引越しの際、荷物をおいてそれぞれの土地に巣立った3人の子供たちと、スカイプ片手にどの荷物を捨てどの荷物を持って行くか連日の交信、そして、荷詰め。20年間、ニューヨーク・ロンドン・ソウル・モスクワと4カ国にわたって家族で移動してきたため、幼少の時からの思い出の品の数々が相当量になっていました。

母親としてモスクワ・日本での子育て終盤で感じた思い、そしてそれを心の糧に今も続ける音楽家・抽象画家としての活動についてご紹介したいと思います。

モスクワと横浜で4人の子供の大学進学準備期

1997年の年賀状に印刷した子供たちの写真
1997年の年賀状に印刷した子供たちの写真(1997年)


2015年の年賀状
2015年の年賀状

思えばモスクワ生活で、4人全員が国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)資格取得による大学入試・進学を目指し、それはそれは大変な時期を過ごしました。子供たちは当然大変な中で、母親の私もよくわからない大学入試システムにいつも不安と心配にかられました。学校の懇談会では4人が勉強するそれぞれの科目の先生方に会うことになりますが、誰がどの子供の先生なのか頭の中がゴチャゴチャになり、(だいたいそういうことが苦手な私は)違う先生との面談で違う子どもの話をしていたり、頓珍漢なことを多々起こしてしまったものです。

それは私の性格からくる場合もありましたが、とにかく私の英語に対する無知が祟る事も多々ありました。その忘れられない、というよりいたたまれなくなるエピソードをご紹介します。次男はIB演劇の上級クラス。大学受験に影響する大切な時期の面談。その頃の息子は、おとなしく内省的な性格を打ち破り、長い台詞が必要な一人芝居や難しい役を、計算し尽くした演技を巧みに演じ分けながら、みるみる自分の個性を打ち出し演技力を伸ばして行った時期です。それを、母親の感想として演劇の先生に伝えたかったのですが、、、先生に『息子さんは最近お母さんから見ていかがですか?』と質問され、私は「He is coming out now!!!!!!」と感想を述べ始めてしまったのです。その時の先生の微妙な表情、少々目の輝きが増した気もしましたが、忘れられません。しかし、その後、娘から「ママ!!!そのカミング・アウトの意味はねー!」と、説明され唖然とする私。この様な過ちを数えきれぬほど繰り返しながらも、外国生活での私の精一杯の子育て時代は終わってゆきました。

美術専攻予定の末娘は、IBの2年目というタイミングで日本へ戻ることになったため、カリキュラムの合う学校を見つけるのに苦労しました。おおよそモスクワの学校と内容的に近かったのが横浜山手にある横浜インターナショナル・スクール。早速、娘と私は学校のそばにアパートを借りて卒業まで横浜で過ごすことにします。ところが、カリキュラム内容が近いと思いきや、一番大事なアートポートフォリオで全く追いつきようのない状況に陥ってしまいます。また教科も似ていると思いきや、内容が大変に異なることがわかり、これはもう卒業までの1年では到底取り戻せそうにない状態でした。また、その頃、実家の事情により父も横浜のアパートで同居する事となります。小さなアパートで、娘は学校の勉強に大変なストレスを抱え、父との同居もとても難しく、大変厳しい時を親子共々過ごしましたが、何とか、卒業、大学合格までこぎつけることができたのです。

モスクワでの転機:師との音楽コラボレーションと抽象画家としての歩み

子育て真っ最中のモスクワ時代でしたが、私のモスクワでの音楽活動や画家としての歩みも少々ご紹介させていただきます。ある時、チャイコフスキー音楽院のサイトで、ふと目にとまったマスタークラスがありました。キリスト教4〜8世紀の聖歌の形式であるAntiphon(応答頌歌)という見出しです。そのマスタークラスはきっと音楽院の声楽の生徒向けかしら、と思いながらも外部者の受講が可能か尋ねてみることにしました。すると、参加可能との嬉しい返答。おそるおそる教室に向かうと、何やら芸術家風の人、スカーフを頭に被る叔母さんらしき人、ダンサーのような人、科学者風アインシュタインのような感じの人など、ちょっと学生らしくない方々が続々と入ってきます。このマスタークラスは誰にでも門戸が開かれていたのです。

私にとってこのマスタークラスの師Iegor Reznikov氏との出逢いは、まさに自分の音楽、歌というものの根源を深く見つめ直し理解し、声の何たるかを学ぶ転機となりました。この方は音声人類学というカテゴリーを世界に打ち立てた方で、哲学者でもあり数学者、そして民族音楽学者でキリスト聖歌の歌い手。まるで現代のピタゴラスの様な方なのです。こうして、年2回、彼のマスタークラスを受講するうちに、私がコラボレーションをするのはこの方しかいないと決意し、ある日清水の舞台から飛び降りる気持ちで師に尋ねたのです。

「声というもので、人間に回帰するための発露の経絡となるようなものを描いて、貴方の声と2つの声によるコラボレーションをさせては戴けないだろうか」と。師は、私がこのコラボレーションで何を観ているのかと言うことを理解してくださったようで、答えは「私は、本質的でない浅い音楽は出来ませんが、それは理解いただけているのであればやってみましょう」でした。そして師にとってとても大切な事である、自然な残響が得られる理想的な空間を探し始めたのです。

そして、それはモスクワ中心にあるロシア国立伝統美術工芸博物館の大理石の階段でした。博物館のデイレクターに事情を話すと、休館日ならと快く許可を出して下さったのです。邦楽清元より「花がたみ」、それからトルコのアイデンという場所で世界最古の完全譜として石碑に刻まれ発掘された曲「命ある限り輝いて」(紀元前1〜2世紀)を歌いました。時空も、時代も、人種も、宗教も超えて生きとし生きる人間というものの持つ声。その響きにより今を生きる私たちが原点回帰するべく礎になれたらという想いで生まれたコラボレーションでした。また、来月はフランスのVezelayにて、師のセミナー・初期クリスチャン聖歌コンサートが行われるため、私も応答頌歌の部分で参加します。

また、少々絵画のことに触れると、モスクワの大気にはどこの土地よりも感覚に触れる物を感じました。光や色、そうしたものがまるで音を発しているかのように働きかけてくるのです。それらを限られた中に描くことは難しいし不可能ですが、それでもキャンバスに捉え続けました。キャンバスといっても韓国駐在時に出逢った布。麻に金糸や銀糸で織られた布を貼ったものです。こうして、ロシアを出る3ヶ月前の2014年4月、国立モスクワ東洋芸術博物館にて個展「TRANSCENDING THE IMPERMANENCE」“移ろうものを超えた所”を開催するに至りました。ロシア滞在中は、この様にして、芸術活動も子育ても、公私ともにセンセーショナルに綴られていった気がします。

 個展TRANSCENDING THE IMPERMANENCEで展示した作品 Дань Уважения России (Homage  to  Russia)
個展TRANSCENDING THE IMPERMANENCEで展示した作品 Дань Уважения России (Homage to Russia)

子育てを終えた現在〜軽井沢を拠点に

こうして、子育ての大変な時期も全てのり越え、現在、カタール人の夫はポーランド・ワルシャワ勤務、長女はイギリスで大学院を終え日本で就職3年目、長男はカナダの大学で勉強中、次男は夫の国カタールで就職、末娘はニューヨークの美術大学の三年生。私は、長野県軽井沢の自宅で父と同居しながら20年ぶりにゼロから日本での音楽活動を始める日々です。

現在、日本に戻り4年が経過しましたが、軽井沢大賀ホールにおいて毎月、誰でも身体一つで来て歌う会「歌声の森」を主催、また軽井沢と渋谷でヴォイストレーニング・ヴォーカル・ヴォイスヒーリングを教えながらコンサート活動をしています。

今年8月6日には、昨年たまたまイタリア・ローマ市パンテオン広場で22年にわたり広島・長崎原爆追悼式が行われていることを知り、被爆された方によって書かれた地球の未来を願う詩に合わせて作曲した「あなたの手に」を歌うために参加しました。日本人にほとんど知られていない追悼式です。WJWNからも告知していただき、イタリアにお住いの方、観光でローマを訪れている方、さらには近隣ヨーロッパから、8月6日、パンテオンの前にこれまでになく多くの日本人が集まられ、貴き心の重なり合いは万神殿パンテオンを響かせ世界に放たれて行った想いが致します。

長い文章となりましたが、どうぞ皆さん、それぞれの土地で、紀元前1世紀のメッセージの通り“命ある限り、輝いて”下さい。

著者紹介

マキ 奈尾美(Maki, Naomi)

音楽家・抽象画家。尚美音楽学院作曲科卒業。カタール人外交官の夫とともに20年に渡って海外で生活(ニューヨーク・ロンドン・ソウル・モスクワ)、その間各地で音楽家、画家としての活動を行い、現在は軽井沢に在住。ロシア国立クレムリン大会宮殿、チャイコフスキー音楽院ラフマニノフ・ホールでのコンサートなど演奏活動と共に、英国「キング・クリムゾン」デービッド・クロスとの共演CD「UNBOUNDED」初め様々なアーティストとコラボレーションを展開。 

Iegor Reznikov(音声人類学者・初期クリスチャン聖歌演奏家)&マキ・奈尾美
2つのヴォイスによるコラボレーションの動画はこちら(下記)でご覧いただけます.
https://www.youtube.com/watch?v=UlhPtm9w7YM
2014年4月国立ロシア東洋美術館(The State Museum of Oriental Art in Moscowモスクワ)での個展「Transcending the Impermanence」オープニングの様子はこちら(下記)でご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=UBD557bSfjo



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