アニマルセラピー~犬と過ごす日々 茶谷 千穂(Chadani, Chiho) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

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アニマルセラピー~犬と過ごす日々:VIEWS 2018年秋号(第55号)掲載

茶谷 千穂(Chadani, Chiho)

ロンとハリーと富士山の樹海を散策
ロンとハリーと富士山の樹海を散策

1996年に夫の転勤で静岡県東部の長泉町に移り住み、気が付けば人生で最も長い年月をこの町で過ごしています。長泉町は新幹線の三島駅に近いことで、首都圏に通勤する人も多く、高校生まで医療費が無料など子育て支援が手厚いことから、この少子化の時代に子供の数が増え続けています。のんびりとした田舎町でありながら、外から来た人も珍しくなく、田舎と都会両方のよい面を持ち合わせたようなこの町で私は子育てをし、犬も飼い、長泉町民として深く根を下ろしています。

そしてせっかく犬を飼ったのだから何か愛犬と一緒に楽しめることがしたいと、10年前から始めたのがアニマルセラピーです。静岡県東部のあちこちにある高齢者施設を訪問したり、県の保健所が小学校で行う動物愛護教室に参加して子供たちに犬とのふれあい方を学んでもらったり。御殿場市には2か所のハンセン病療養所もあり、最近はそこも訪問しています。

アニマルセラピーとは?

アニマルセラピーは目的に合わせて3つのタイプに分けられす。私が所属している(公社)日本動物病院協会(JAHA)では、以下のように定義しています。まずは、AAA(Animal Assisted Activity)=動物介在活動。動物と触れ合うことによる情緒的な安定やレクリエーション・QOL(生活の質)の向上を主な目的としたふれあい活動で、一般にアニマルセラピーとよばれる活動の多くはこのタイプです。

AAT(Animal Assisted Therapy)=動物介在療法は、人間の医療の現場で専門的な治療行為として行われる、動物を介在させた補助療法です。精神的身体的機能や社会的機能の向上など、患者に合わせた治療目的を設定し、医療者主導で適切な動物とハンドラーを選択し、治療後は治療効果の評価も行います。

そしてAAE(Animal Assisted Education)=動物介在教育は、子供たちの学びに動物を介在させるものです。AAEはアメリカのような移民が多い国では、学習に困難を抱えた子供たちに犬が寄り添うことで安心感を与え、学習意欲の向上を図ることを目的に行われていますが、日本では正しい動物のふれあい方や命の大切さを子供たちに学んでもらうプログラムとして小学校などで行われることが多いです。

なぜ人は動物に癒されるのか

昔、人が狩猟生活を行っていたころ、近くにいる草食動物がリラックスしていれば、周囲に肉食の捕食動物がいないとわかり、人もリラックスできた、ということがあります。アニマルセラピーは、人がリラックスした動物から安心感を得られるという性質を利用して行われるものです。動物とふれあうことで血圧が下がったり、学習効果が上がるのは、人もリラックスした状態になるからなのです。アニマルセラピーにおいて最も重要なことは、動物がリラックスしていることだと言えます。

犬のトレーニング

左側についてのお座りはトレーニングの基本です。
左側についてのお座りはトレーニングの基本です。

私はこの活動のためにJAHAのしつけインストラクターの指導の下、犬のトレーニングを始めました。訪問先で犬が私の指示にきちんと従い、お行儀よくしてくれるためと思っていましたが、トレーニングの意義はもっと根本的なところにありました。

JAHAでは、犬のトレーニングでふんだんにおやつを使うのですが、それはほとんどの犬はおやつが大好きだからですが、おやつは犬が人に興味を持つきっかけに過ぎません。犬はご褒美のおやつにつられて遊びながら学習しますが、その過程で犬は飼い主と一緒にいろんなことをするのを楽しむようになり、飼い主のことが大好きになります。この人といるといつも楽しいことがある、次はどんなことをするのかな、と犬の飼い主への注目は格段に上がるのです。

また、飼い主は犬のボディランゲージも学びます。犬の様々な仕草から犬の精神状態を理解し、活動の場で犬がストレスを感じていないかどうかを常に確認し、犬を守ってあげなければならないからです。トレーニングで培った人と犬との信頼関係があってこそ、穏やかで楽しいアニマルセラピーになるのです。

犬に導かれて

私は犬と高齢者施設などを訪問することでそこにいる人たちに喜んでもらいたい、という思いでこの活動を始めました。でも、訪問を重ねる中で、人に喜んでもらうには、まずは自分の犬が楽しんでいないといけない、ということに気づきました。

私の愛犬は11歳のロンと4歳のハリーですが、2頭は全く性格が違います。ロンはとてもおとなしいのですが、大きな音を怖がるし、神経質で自分にあまり自信がないタイプです。トレーニングを始めたばかりの頃は、私がやる気満々過ぎて、ロンの気持ちを置いてきぼりにしていたことがありました。ロンはトレーニングの最中に何かが気になって急に動かなくなることがあり、その度に自分の配慮のなさを反省しました。ロンが自分に自信を持てるように、ロンが安心できる環境でトレーニングし、たくさん褒める、ということを積み重ねていきました。そしてロンにはいろいろなトリックを教えて、それを活動現場でも披露させ、いっぱい褒めてあげることでロンが自信を持って楽しく活動できるように工夫しました。犬のトレーニングは人だけが張り切ってもだめで、犬の様子を見ながら犬と二人三脚(五脚)で進んでいかないとうまくいかない、ということを私はロンに教えてもらいました。

毎年各都道府県で開催される「動物愛護フェスティバル」にハリーと参加。大きな音が怖いロンはお留守番です。
毎年各都道府県で開催される「動物愛護フェスティバル」にハリーと参加。大きな音が怖いロンはお留守番です。

ハリーは明るい性格なのですが、興奮しやすく、様々な刺激に対して反射的に飛び出してしまうので、散歩もとても大変です。こんなハリーとは、衝動を抑えて自分で自分の気持ちをコントロールできるよう、インパルス・コントロールという練習を地道に行っています。そして前傾姿勢で気持ちが常に前に向かっていっているのを、体のバランスを整えてあげることで心のバランスを整える、という手法でハリーが落ち着けるように働きかけています。常にハリーの気持ちに寄り添い、大丈夫、体の力をぬいてごらん、とやさしく触り、落ち着いているときにたくさん褒めて自信を持たせることも大事です。

犬のトレーニングは、犬の精神的な土台を作ってあげるものなんだなあ、とつくづく思います。そしてトレーニングを一緒にすることで人と犬とが本当に信頼し合えるようになり、絆が深まっていくのを感じています。アニマルセラピーは訪問先の人に癒しを与えるだけでなく、その笑顔に私自身も癒され、その気持ちが私の犬にも伝わり、みんなが幸せになれる活動です。愛犬たちに導かれてここまで来て、これからも長く続けていきたいと思っています。

著者紹介

茶谷 千穂(Chadani, Chiho)

父親の転勤で幼少期をイギリスで過ごす。上智大学卒業。(株)東芝、(財)日本盲導犬協会に勤務。夫の転勤に伴い静岡県に引っ越し、子供たちが進学で家を出てからは夫と犬2頭の4人暮らし。自宅で英語を教えたりしながら読み聞かせやアニマルセラピーのボランティアを行っている。



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