母から子へ。母の愛 古田 史(Furuta, Fumi) - WJWN(Washington Japanese Women's Network)

VIEWS

家族の風景

母から子へ。母の愛:VIEWS 2018年秋号(第55号)掲載

古田 史(Furuta, Fumi)

中国少数民族の綺麗な刺繍がほどこされた靴
中国少数民族の綺麗な刺繍がほどこされた靴

スペイン人の夫の転勤にともない、行く先々で写真家として活動を続け、そして、2人の娘の母親として子育てをしていくうちに出会ったテーマ、「the memory of things」。娘たちの子供時代の洋服やおもちゃを写真作品に仕上げたものです。娘たちの誕生を祝い、たくさんの方から手作りの洋服や小物をいただきました。また、何世代にも渡って使われてきたコットンのベビー服や寝具なども義母から譲り受け、これらの思い出がたくさん詰まったものを素材に作った「思い出のもの」シリーズ。その時のことを「受け継ぐもの」と題して文章にし、マドリッドから2014年に寄稿させていただきました。

その後も、常に私と家族の生活の中から出てきたテーマを題材に作品を作ってきました。子供たちが小さい頃、スペインの子供たちがいつも食べているグミの形や色合の面白さからインスピレーションを得て出来た「Gominola Candy 」シリーズ、そして、長い海外生活をおくる中から感じた日本への望郷の思いから出来た「Japanese room」シリーズ。私にとって、家族との日々の生活はとても大切なものであり、私の作品はその日常生活から派生して作られています。

主人の国、スペインでの生活は、子供の成長にとっても、私の写真活動にとっても、とても意義のあるものでした。

初めての台湾赴任

そして、現在住む台湾への赴任。日本からとても近いのに、私にとって初めて訪れる国でした。中国人の住むところという認識しかなかったこの島は、原住民族、中国の明や清の時代に中国から渡ってきた漢民族、そして、戦後、蒋介石とともに中国からきた漢民族からなる国として、多様な文化的側面を見せています。歴史的にも日本とのつながりも深く、中国大陸との違いを目の当たりにしました。

今では観光化された原住民族の村をたびたび訪れる機会を経て、彼らの衣装にとても興味をひかれました。カラフルな色合やきれいな刺繍、装飾品のすばらしさだけでなく、細部に渡り、民族の歴史や魔除けの意味合いを含むモチーフが施されていたりと生活に密着した衣装を見れば見るほど、興味を惹かれました。

中国少数民族の上着
中国少数民族の上着

大切な出会い

そんな中、一人の台湾人の女性との幸運な出会いが私の今の写真活動を支えています。

ある日、1通の招待状をいただきました。それは、中国南部の少数民族衣装の展示会の案内でした。私はすでに入っていた予定を変更し、そのお誘いの展示会に出席しました。その展示室は、子供服の会社の一室となっており、社長夫人の個人コレクションだと聞かされました。会場には、緻密な刺繍のおんぶ紐や上着、スカート、帽子、靴、ベルトなどがきれいに展示され、まず、目を見張るのが刺繍の緻密さですが、そのデザインの美しさ、色合いの素晴らしさと合わせて、思わずうっとりと見惚れてしまいました。また、展示の一部には、世界の有名デザイナーの洋服とともに、インスピレーションを得たオリジナルの民族衣装が横に並んで展示されており、とても興味深かったです。

早速、私は彼女にこれらの素晴らしいコレクションの一部を撮影させてもらえないかと頼みました。芸術に関心の深い彼女は、喜んでこの頼みを承諾してくれました。

こうして、私の4つ目のシリーズとなる「Mother’s love」の制作が始まったのです。

中国少数民族の上着
中国少数民族の上着

中国南部の少数民族の伝統

一つのおんぶ紐をつくるのに数か月かかるといわれています。一針一針、生まれてくる子のことを思いながらつくるおんぶ紐。母の深い愛情がぎっしり詰まっています。

おんぶ紐の一部
おんぶ紐の一部

また、ミヤオ族の娘が結婚するとき、母が1年以上かけて、一針一針愛情をこめて刺繍を入れて衣装をつくるそうですが、その女性が死ぬと母からもらった衣装とともに棺に入り、土葬されるそうです。彼女たちには母からもらった衣装は、命と同じくらい大事なものだということがよくわかります。母と子の絆、家族の絆。衣装ひとつからとってもその絆の深さがよくわかります。

彼女たちは、8歳や9歳で衣装作りを学び始めるそうです。刺繍だけでなく、衣装は一からすべて手作りのため、綿花摘みから始まり、布織りや布染、布加工まですべてを学びます。刺繍のモチーフは、蝶、龍、虎、鳥、虫、花、ヒマワリの種、魚、太陽、渦巻きなどがあり、独自の文字を持たないため、民族の歴史や魔除けを意味する文様を刺繍にして伝えてきたそうです。これらのモチーフや技術は、時を超えて受け継がれ、今でも村々で母から娘へと引き継がれているといいます。

母から子へ伝えるもの

友人の莫大な量のコレクションの衣装は、20年かけて少数民族の村を訪れて集めたものだそうです。時を超えて、今なお人々を魅了する衣装の数々。伝統と愛情の重みを感じる品々をまじかで見てふれるチャンスに恵まれたことは、とても幸運なことでした。現在では、技術の発展とともに、手作りのものが少しずつ姿を消していっています。これらの少数民族の村々もその波にのり、観光化されて、こういった素晴らしい伝統も失われていくことでしょう。しかし、生活の仕方が変わっても、いつの世にも、どこの世界にも母はいつも子を思い、愛情深く、母から子へと伝えるものは、物質的なものだけでなく、精神的なものがまだまだ残っていることと思います。私も今回、これらの衣装に出会い、たくさんのことを学んだように思います。

少数民族のスカート
少数民族のスカート





著者紹介

古田 史(Furuta, Fumi)

結婚を機に、マドリッドに滞在。マドリッドで写真学校に通ったのち、3年間住むことになるブルガリアでフリーランスのカメラマンとして仕事を始める。機内誌や旅行雑誌のカメラマンを経て、グラフィック写真に転向。2012年より個展を開き、ソウル、東京、マドリッド、ロンドン、台北で作品を発表。現在、台北在住。



お知らせ

2018/11/01
VIEWS 2018年秋号を公開しました。
2018/08/01
VIEWS 2018年夏号を公開しました。
2018/05/01
VIEWS 2018年春号を公開しました。
2018/02/01
VIEWS 2018年冬号を公開しました。
2017/11/01
VIEWS 2017年秋号を公開しました。
2017/08/01
VIEWS 2017年夏号を公開しました。
2017/05/01
VIEWS 2017年春号を公開しました。
2017/02/01
VIEWS 2017年冬号を公開しました。
2016/11/06
VIEWS 2016年秋号を公開しました。
2016/08/06
VIEWS 2016年夏号を公開しました。
2016/05/01
VIEWS 2016年春号を公開しました。
2016/01/30
VIEWS 2016年冬号を公開しました。
2015/11/01
VIEWS 2015年秋号を公開しました。
2015/07/26
VIEWS 2015年夏号を公開しました。
2015/04/26
VIEWS 2015年春号を公開しました。
2015/01/04
VIEWS 2015年冬号を公開しました。
2014/10/09
VIEWS 2014年秋号を公開しました。
2014/07/18
VIEWS 2014年夏号を公開しました。
2014/4/21
VIEWS 2014年春号を公開しました。
2014/1/23
VIEWS 2014年冬号を公開しました。
2013/10/08
VIEWS 2013年秋号を公開しました。
2013/07/08
VIEWS 2013年夏号を公開しました。
2013/04/08
VIEWS 2013年春号を公開しました。
2013/01/09
VIEWS 2013年冬号を公開しました。
2012/10/15
VIEWS 2012年秋号を公開しました。
2012/07/09
VIEWS 2012年夏号を公開しました。
2012/04/09
VIEWS 2012年春号を公開しました。
2012/01/17
VIEWS 2012年冬号を公開しました。
2011/10/12
VIEWS 2011年秋号を公開しました。
2011/10/12
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2011/07/12
VIEWS 2011年夏号を公開しました。
2011/04/06
VIEWS 2011年春号を公開しました。
2011/01/11
VIEWS 2011年冬号を公開しました。
2011/01/11
VIEWSバックナンバーを追加しました。

更新履歴

2018/11/01
VIEWS 2018年秋号を公開しました。
2018/08/01
VIEWS 2018年夏号を公開しました。
2018/05/01
VIEWS 2018年春号を公開しました。
2018/02/01
VIEWS 2018年冬号を公開しました。
2017/11/01
VIEWS 2017年秋号を公開しました。
2017/08/01
VIEWS 2017年夏号を公開しました。
2017/05/01
VIEWS 2017年春号を公開しました。
2017/02/01
VIEWS 2017年冬号を公開しました。
2016/11/08
VIEWS 2016年秋号を公開しました。
2016/08/08
VIEWS 2016年夏号を公開しました。
2016/04/20
VIEWS 2016年春号を公開しました。
2016/02/01
VIEWS 2016年冬号を公開しました。
2015/11/01
VIEWS 2015年秋号を公開しました。
2015/07/26
VIEWS 2015年夏号を公開しました。
2015/04/12
VIEWS 2015年春号を公開しました。
2015/01/04
VIEWS 2015年冬号を公開しました。
2014/10/09
VIEWS 2014年秋号を公開しました。
2014/07/18
VIEWS 2014年夏号を公開しました。
2014/4/21
VIEWS 2014年春号を公開しました。
2014/1/23
VIEWS 2014年冬号を公開しました。
2013/10/08
VIEWS 2013年秋号を公開しました。
2013/07/08
VIEWS 2013年夏号を公開しました。
2013/04/08
VIEWS 2013年春号を公開しました。
2013/01/09
VIEWS 2013年冬号を公開しました。
2012/4/9
VIEWS 2012年春号を公開しました。
2011/10/12
VIEWS 2011年秋号を公開しました。
2011/10/12
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2010/12/22
VIEWSバックナンバーを追加しました。
2010/10/14
VIEWS 2010年秋号を公開しました。
2010/10/10
Webサイトをリニューアルしました。

バックナンバー

2018年
2018年秋号(第55号)
2018年夏号(第54号)
2018年春号(第53号)
2018年冬号(第52号)
2017年
2017年秋号(第51号)
2017年夏号(第50号)
2017年春号(第49号)
2017年冬号(第48号)
2016年
2016年秋号(第47号)
2016年夏号(第46号)
2016年春号(第45号)
2016年冬号(第44号)
2015年
2015年秋号(第43号)
2015年夏号(第42号)
2015年春号(第41号)
2015年冬号(第40号)
2014年
2014年秋号(第39号)
2014年夏号(第38号)
2014年春号(第37号)
2014年冬号(第36号)
2013年
2013年秋号(第35号)
2013年夏号(第34号)
2013年春号(第33号)
2013年冬号(第32号)
2012年
2012年秋号(第31号)
2012年夏号(第30号)
2012年春号(第29号)
2012年冬号(第28号)
2011年
2011年秋号(第27号)
2011年夏号(第26号)
2011年春号(第25号)
2011年冬号(第24号)
2010年
2010年秋号(第23号)
2010年夏号(第22号)
2010年春号(第21号)
2010年冬号(第20号)
2009年
2009年秋号(第19号)
2009年夏号(第18号)
2009年春号(第17号)
2009年冬号(第16号)
2008年
2008年秋号(第15号)
2008年夏号(第14号)
2008年春号(第13号)
2008年冬号(第12号)
2007年
2007年秋号(第11号)
2007年夏号(第10号)
2007年春号(第09号)
2007年冬号(第08号)
2006年
2006年秋号(第07号)
2006年夏号(第06号)
2006年春号(第05号)
2006年冬号(第04号)
2005年
2005年秋号(第03号)
2005年夏号(第02号)
2005年春号(第01号)
これまでの特集
私が出会った芸術家
移民として生きる
持たない生活
マイアート
海外で第二次世界大戦の歴史に直面する時
トランプのアメリカ
女性と政治
ファミリー・ネームから考える家族関係
シングル・マザー
日本と海外の子育て事情
非営利団体(NPO)で働く
国際機関で働く
マイブーム ~ 私がいま夢中になっていること
世界の新年の祝い方
Eデート体験記
サッカーへの熱い想い
世界に散らばる家族
語学習得への道
40代の過ごし方
日本にいる高齢の親を想う
ソーシャル・メディア
留学の意義を再び考える
復興へ
離婚
地震
高齢になったら
ボランティア
各国出産体験記
受験事情あれこれ
医療保険
新しい日米関係
食を考える
身近に感じる経済不況
異文化の架け橋
女性の社会進出
NPO
2008年大統領選挙
ワシントニアンが伝授する知られざるDCの楽しみ方
環境:私たちにとっての地球
芸術
国際協力
医療
教育への思い
私の夏
戦後60周年特別企画II
戦後60周年特別企画I
ワシントンと私
連載一覧
ワシントンと私
人・マイライフ
世界の街から
世界の家庭料理
家族の風景
私の本棚
旅・ギャラリー
特別寄稿
随筆